第9話

リイラの外出を禁じて以降、リイラが寝ている時間にミカはリイラの元を訪れるようになっていた。

特に何をする訳でもなく、ベッドの近くでリイラをじっと見つめていた。それだけでミカはとても満足だった。


吸血鬼、というかミカは基本的に不眠だった。ミカとしては、眠れなくてつらい思いをしたことはなかった。

しかし、リイラの寝顔を眺めている内に、時々眠ってしまうことがあった。

眠りから目覚めたあとは決まって気分が良く、休息が十分に得られたミカの魔力は益々高くなった。


ある日、いつも通りリイラの寝顔を眺めていたが、全身を見たくなって全裸にしてみた。その後は全裸を眺めることがほとんどになった。

日を経る毎に、見ているだけでは満足できなくなってきた。ふと思い立って髪の毛を掬ってみた。リイラの髪の毛はサラサラしていて、指通りがよかった。


髪だけではなく肌にも触りたい。


触りたい、と自覚してからは我慢することもなく全身を触るようになった。

ミカが注意を払っていたこともあってリイラの眠りは深く、夜間目覚めることはなかった。


リイラの全身に触れるようになったある夜、ミカはいよいよ欲望を我慢することができなくなった。

ほんの少しだけ口付けるつもりだったが、思いがけずリイラが目覚めたのだ。


「う、ん…?」


久しぶりにリイラの声を聞いたミカは、非常に興奮した。

アイリスからの報告でリイラがミカに会いたがっていたと知っていたこともあり、ミカは、リイラがミカと会えて喜ぶと考えていた。


リイラは何者かの気配を感じ、目覚めた。

目を開けると、目の前にミカがいた。ただ、リイラは寝ぼけていてミカだと認識していなかった。

身体がスースーすると思ったら全裸だった。


「なっ…?!」


再び口付けられそうになり必死に抵抗しようとするも、ミカの前では無力だった。


「やめてください、陛下!」

「…ミカ」

「…え?」

「ミカ、と呼ぶと決めただろう。」


物凄く不機嫌な様子を隠すことなく、視線だけで人を殺しそうな目を向けられる。

リイラは反射的に動けなくなるが、せっかくのミカと話ができるチャンスを無駄にしたくない、またこの現状をなんとか切り抜けたいと思い直して口を開く。


「…ごめんなさい。ミカは陛下と知り合いですか?」

「…何故そんなことを聞く?」

「私、家に帰りたいんです。でも、陛下の許可がないとこのお城から帰れないって言われて。ミカが陛下と知り合いなら、陛下に会えるように知恵を貸してもらえたらなって思いました。」

「この部屋は気に入らないか?」

「いいえ、とても素敵なお部屋です。」

「じゃあ何故家に帰る必要がある?」

「何故って…。自分の家に帰ることは普通のことかなって思います…。」

「…」

「それに、畑も見に行かないといけないし、おじいさんもそのままだし…。」

「おじいさん?」

「はい、おじいさんは亡くなったんですけど、位牌をつくったので毎日手を合わせていました。」


リイラはミカに懸命に話し掛けた。

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