第7話

女の子の身を清めながら、アイリスは考える。

今までに魔王が何かを気にかけたことがあっただろうか。いやない。

女にこれほど執着する姿なんて、想像もつかない。まして、一度手を出した女を手元に置くなんて、考えられない。

この数百年間、魔王の元へ美しく、魔力の高い女が何人か訪れたことをアイリスは知っている。そして全員もれなく、一時間と経たずに亡き者になっている。


でも…こんなに素敵な女の子だったら…。

アイリスも持ち前の魔力から、女の子が極上の餌であることに気付いていた。

そして魔王のものでなければ、食べてしまいたいと直感的に思う。

アイリスは魔王が好きだったが、女の子に嫉妬する気にもなれなかった。生きる次元が違う、仕方ない。

これまで通り魔王に仕えようと決意し、献身的に女の子の介抱をすることにした。


アイリスの介抱のおかげで、リイラの体調は少しずつ良くなっていった。

しかしミカとリイラの魔力の違いもあり、また辛うじて生命が維持できる程度の血液しか残されなかったことも影響し、5日間目覚めなかった。


アイリスは常に女の子の側に控え、介抱していた。

その間、魔王が女の子の元へ訪れることはなかった。

6日目の夕方、何の前触れもなく目覚めた。


「…うぅん。」


リイラが目を覚ますと、見慣れない天蓋の模様がまず目に入る。豪奢で広いベッドに寝ているようだ。マットはふかふかだし、肌にふれる布地もシルクのようでサラサラとなめらかだ。


「ええっと…?」


何かを考えようとして、全身が酷く怠く、頭も痛むことに気付いた。そのまま、気絶するように再び眠る。


7日目の朝。今度こそリイラは覚醒した。


「おはようございます。お目覚めですか?」

「…えっ?!」


目覚めた途端、側にいた赤髪で茶色の瞳の美しい女性に声をかけられリイラは驚く。


「初めまして、私はアイリスと申します。申し遅れてまして、失礼しました。」

「あの、いえ…、私はリイラっていいます。ここはどこですか…?」

「ここは客室です。」

「客、室…?」

「はい、魔王陛下のお城の一室です。」

「ええと…?私、何故お城にいるんでしょうか?」

「私には分かりかねますが…。推測ですが、陛下がお連れになったのではないかと思います。」

「陛下…?」


リイラはそこでようやく、意識を失う前にミカに襲われたことを思い出す。

ミカって魔王陛下と知り合いだったのかなぁ…?

何はともあれ、家に帰ろう。


「あの、家に帰ろうと思います。休ませてもらって、ありがとうございました。」

「リイラ様は陛下のお客様でいらっしゃいますので、陛下の許可が必要です。」

「分かりました。陛下に会わせて下さい。」

「リイラ様が面会をご希望されている旨、申し伝えます。ずっとお休みでしたので、お嫌でなければ浴室にご案内します。もしくは先にお食事の準備をすることもできますが、いかが致しましょうか?」

「えっと…、あの、じゃあ先にお風呂を借りても良いですか?」

「もちろんです。ご案内致します。」


こうしてうやむやのまま、リイラのお城での生活が始まったのであった。

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