第3話

魔王がなぜ王都から遠く離れた森の中に居たのか、もちろん偶然ではない。


魔物にはゴブリンやケンタウロス、狼男に雪女等様々なものがあるが、魔力が高ければ高いほど人間の容姿に近くなり、また美しく見目麗しくなる。

例えば高位の魔物では、見た目は普通の人間だがフェニックスに変身できるなど。

そして魔力が低い魔物程、自身を維持するために沢山「食べる」必要がある。これはあくまで狩る側の生物の話だ。

この世界には狩られる側の生物もいる。生態としてはほとんど人間に等しい。狩られる側、餌はそもそも数が少ない。狩る側に見つかると食べられてしまうからだ。

かといって特別な能力がある訳でもなく、その数は減る一方。

狩る側は餌で魔力を補うことが基本だが、他の魔物を食べることで魔力を補うこともできる。

このような理由から、より低位の魔物同士で生きるために争いは絶えない。


魔物の中でも、吸血鬼は特別だった。

魔力が桁違いに高く、少量の血液を摂取することで生存可能。また長寿でもあった。

数は少なく、現時点でミカの他はなかった。

ミカ、つまり魔王は吸血鬼だ。


ミカは、特に魔力の高い吸血鬼だ。

それは、ミカの両親がほんの遊び心で全ての魔力を子供に託したことに由来する。

そのため、ほとんど全てのことは魔法でどうにでもできた。

最も、この世に存在するどんなものよりも美しく、一度見ると目が話せなくなるくらい凄絶な美しさであったため、魔法を使用せずとも何もかもどうにでもできただろう。

全てが思い通りになる世界。

暇潰しにあらゆる知識を習得したため、博識でもあった。

100年程生きた頃、いよいよ暇をもて余した。

酒、女、博打そして食事。

皆が好き好んで行うこと、皆が好まないことも一通りやってみたが、何にも興味は湧かなかった。

その内ミカの強さは評判となり、色んな魔物がミカを倒そうとやってくる。もちろん、ミカを倒せる魔物なんていない。

それと同時に、ミカの美しさを一目見ようと連日連夜、男女問わずに色んな者がやってくる。一度でもミカを見るとその美しさに魅了され、益々執着された。この頃にはすでに誰にも姿を見られないよう、全身を黒いローブで覆いフードを深く被っていた。

そんな生活に飽き飽きしていた。


『うるさい。』


ふと思い立ち、全ての生きとし生けるものを破滅してみようか──そんな衝動に駆られていた時だった。


──おもしろいものをみせようか


ミカの頭のなかに直接、自分以外の何者かが話しかける。

明らかに異常事態だが、ミカは動揺しない。


『おもしろい…?そんなものはない』


──おまえが魔界の王となり、この世界を統治するのであればみせよう


『世界を治めることに興味がない』


──やったことはないだろう?


『ああ、ないな』


──明日、おまえの住居に2人訪ねる。その2人の力を借りるよう。うまくできれば、今日からきっかり400年後、西の外れの森でおもしろいものがみれるだろう。


『…面倒だ』


そう、面倒だった。

しかし特にすることもなかったので、言われた通りにやってみた。

何にも執着せず冷静沈着、博識で的確な判断をするミカは王として優秀であり、すぐに周りに人が集まって、気が付けばミカの城周辺は王都として栄華を極めていった。


あの『声』が聞こえた日から400年。

ほんの少しの好奇心と気まぐれから、ミカは遠く離れた森へやって来たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る