第五話 笠○ぞう 鋏(はさみ)

 終わりのないどつきあいによって、超破禍将軍は次々と倒れ、やがて最後の二人になります。


『貴様を……倒せば』

『この……ワシが』

『『”真”破禍将軍じゃぁ~!』』


 一陣の”そよ風”のように、二人の体はゆっくりと近づいていきます。

 亀よりも遅い歩みの中、二人の右手は優しく握られました。


『う……うおぉ』

『ちぇ……ちぇ~すとぉ』


 二人の超破禍将軍は、相手に向かって力の限りの拳と咆吼ほうこうを放ちます!


”ヘロヘロヘロ~……ポカ!”

”ヘロヘロヘロ~……トスッ!”


 互いの拳が互いの頬に”くろすかうんたぁ”としてぶつかると、


『無……無念』

”ドスゥゥーン!”

 片方の超破禍将軍は崩れるように地面に倒れました。


『や……やったぞぉ! ワシが真破禍将軍じゃ~!』


 五百十一人の屍の中で最後に立っていた超破禍将軍は、残った力を振り絞り、両腕を天に向かって掲げます!


『ま、待たせたな。で、では早速おまえ達を、け、蹴散らしてくれよう!』

「あ、あの……」

 バスターレディ姿のおばあさんが真破禍将軍へ話しかけます。

『なんじゃ? まだ何かあるのか? それとも命乞いか?』


「い、いえね、倒れた五百十一人の超破禍将軍を何とかしないと、私たちと戦っている間、貴方が後ろから闇討ちされないかな? って」

『おお! それはあり得るな。何せ元々ワシだからな。安心せい! 『結合』!』

 真破禍将軍が呪文と唱えると、倒れた超破禍将軍が次々と真破禍将軍の体へと吸い込まれていきます。

 さらに、吸い込むにつれて、その体も巨大化しました!


「!」

 一同、空を見上げながら、一歩、二歩と後ずさりします。


『うわっはっはっは! バスターレディとやら、ワシに入れ知恵をしてくれて感謝するぞ! たとえ同士討ちで力を失おうとも、五百十二人集まればその力は五百十二倍じゃ!』

「その理屈でいきますと、お体にまった”だめえじ”も五百十二倍になりますですけど、よろしいんですか?」


『へっ!』


 力の抜けた真破禍将軍の声を勝機とにらんだ災刃坊主は、あらん限りの声で雄叫びを上げます。

「今じゃ! ものども! かかれ~!」

「うおぉぉぉぉ!」


『え? いや待て! その理屈はおかしくないか? ええい! 【システムファイル擬態】!』

 真破禍将軍が呪文を唱えると、その姿が景色に溶け込みました。

『わっはっはっは! 姿が見えなければ攻撃できまい! このままおまえ達を蹴散らしたあとは、幕府を乗っ取ってくれよう!』


「なんの! 『ウイルススキャン』! 渇っ!」

 災刃坊主が錫杖しゃくじょうを地面に突き刺すと、、幾重もの白い波紋が災刃坊主を中心に辺り一面へ広がりました。


『うぎゃあぁぁああぁ!』


 天まで届く悲鳴の後、白い稲妻に包まれた真破禍将軍の姿があらわになりました。


「よ~し! ちくりんちゃんの”げりららいぶ”! はっじまるよぉ~! あたしの歌を聞けば、力も元気も百倍だからねぇ~!」

 ちくりんちゃんの歌を聴いた一同は、先ほどまでの恐怖はどこへやら、体から力がみなぎってきました。


「ウラシマ! いくわよ!」

「ワンワン!」

 ウラシマにまたがったオトヒメが先陣を切ります。

「ワォ~~ン!」

 高々とジャンプしたウラシマは、巨大化した真破禍将軍の顔の近くへと肉薄します。


『ええい! キモイ! 近寄るな!』

”バシィ~~ン!”

 真破禍将軍の平手がウラシマを直撃します。


「キャイ~~ン!」

「たぁっ!」

 空の彼方へ飛ばされるウラシマ。

 しかし、すんでのところで跳び上がったオトヒメは、お返しとばかりに


「『オトヒメ流 双手鬼竹そうしゅおにたけ割り』! ハァ!」

”ズズドドォォーーンン!”

 オトヒメが放った左右の手刀が、真破禍将軍の頭にめり込みました!


『ぐおおおぉぉ!』

 頭を押さえながらもだえる真破禍将軍。

 落ちてくるオトヒメの体を、裏の畑のポチが受け止めます。

「ありがとうポチ」


 さらにまさかりをかついだキントキが続きます。

「おらおら~! 俺のまさかりを喰らいやがれ~!」


”ズバァァー!”


 キントキは丸太のような真破禍将軍の脚を、一刀で切断しますがすぐさま新しい脚が生え、切られた脚はちょっと小柄な真破禍将軍になりました。


「な、なんじゃこれは~! お、おのれ~卑怯なり!」

「この”おたんちん”が! 増やしてどうするのよ! 王狼!」

『ワオオォォ~ン!』

”ズオオオオォォォ!”

 赤頭巾が王狼に命令を下すと、小柄な真破禍将軍は王浪の口の中へと吸い込まれていきました。

「かたじけないぜ! 頭巾の姉ちゃん!」

「だ・か・ら! 一般名詞で呼ばないでよ!」


「いくぞ! オトヒメさんに続け~!」

「「「うぉぉぉ~!」」」

 もはやウラシマなんぞ眼中にないオオアリクイの子供達が、キーボードを手に突撃します!

「見よ! 分速200往復の舌使い!」

「おまえの体のコードなんか」

「俺たちが書き換えてやるぜ!」

 オオアリクイの子供達は華麗な舌捌したさばきでキーボードを叩きます。


『ふん! ガキごときに! 『漆黒の洪水フラッドアタック!』』

 真破禍将軍の手の平から放たれた漆黒の水流が、オオアリクイの子供達を襲います。


「う、うわぁぁ~!」

「おかあちゃぁ~ん!」

「彼女が欲しかったよ~!」


 鳴き叫ぶ三人の前に


「ファイアウォール!」

「WPA2対応ルーター!」

「アンチウイルスソフトウェア!」

『『『トリプルディフェンスウォール!』』』


 かぐやの家を建てた三匹の子豚たちが、それぞれ光り輝く壁を構えながら『漆黒の洪水』の前に立ちふさがりました!


「「「お、おまえ達!」」」

「きにするな!」

「俺たち子豚は、これぐらいしか出番がないからな」

「てか、オオアリクイってなんの”噺”に出てくるんだ?」


 それでも、真破禍将軍はなおも強気です。

『ふん! しょせん数だけの烏合の衆! そのほとんどがじじいとばばあではないか! この真破禍将軍の敵ではないわぁ!』


 ですが、災刃坊主も不敵ににやけます。

「ほほう、誰がこれだけと言ったかな?」

『なにぃ!』


”ブ~~~ン!” 

 地平線の彼方から、一匹のスズメバチとそれにつり下げられたうす。そして

”ドドドドドドドド”

 主任アリさんを先頭に、部下のアリさん達が後に続きます。


 スズメバチ部長が臼に話しかけます。

「申し訳ありません、臼社長。業務提携間もないのにご無理を申しまして……」

「なんの! ウイルスに対しては我が”噺”でもほとほと困っておるからな。我が社のくり君もイガをとがらしておりますわ。わっはっはっは!」 

「ではいきます! ご武運を!」

”ヒュ~~~!”

 スズメバチ部長から落とされた臼は

”ゴィ~~~ン!”

 真破禍将軍の頭の上を直撃しました!


『ぐあぁ! ……ふん! なんのこれしき! イテ! イタタタ!』

 臼からこぼれたイガグリ達は真破禍将軍の体中に突き刺さり、地面に落ちたのは足の裏へと刺さりました。


 そして、主任アリさん以下部下のアリさんたちが、キーボードを構え、真破禍将軍を取り囲みます。

「いくぞ! わがIT株式会社が開発した、『ワクチンワーム』!」


 アリたちの四本の脚が目にもとまらぬ速さでキーボードを叩くと、真破禍将軍の体に芋虫が取り憑き、まるで木の葉のように体を食べ始めました。


『ば! 馬鹿な! なぜワームが儂の体を食べるのだぁ!』

 主任アリさんが説明します。

「簡単なこと。このワクチンワームも元はシステムに悪影響を与えるワーム。それを、システムファイルではなく他のウイルスを浸食するように改良したまでのことだ」

『お、おのれ~! これしきのことで!』


”ドドドドドドド!”

 さらに都のあちこちから、頭が桃の桃男達、総勢三百六十九名が、土煙を上げながら怒濤の勢いで突進してきます。


『壱! 人の世を騒がせ』

『弐! 不埒ふらちな国家転覆てんぷく!』

『参! 真破禍将軍を滅してくれよう!』

『『『我ら! 桃からえた桃男! とうっ!』』』


”ペタッ!””ペタッ!””ペタッ!””ペタッ!””ペタッ!”

 一斉にジャンプした桃男達は、真破禍将軍の体へと取りきました。


『や! やめろ! 文章だとおまえ達のキモさはわからぬが、頭が桃でフンドシ一丁の男に取り憑かれる儂の身にもなれ!』 

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