第五話 笠○ぞう 留守

「ど、どうしたのだ四万手救? 現にワシらは二回も紅の忍び殿に助けられたのじゃぞ! 心強い味方だからぜひ会いたいと言っておったではないか?」

 脚の傷の自己修復が終わったおじいさんは、四万手救に詰め寄ります。

 おばあさん、そしてバスターレディも戸惑っています。


『確かにバスターレディーは強力な戦力だ。しかし! 我ら対鬼戦士アンチウイルスファイターは、決して共に戦えぬ運命なのだ……』

「一緒に戦えない運命じゃと? な、なんじゃそりゃ?」


『我ら対鬼戦士はウイルスと戦う為に作られた戦士だ。しかし、もし共闘すると、互いが互いを鬼と誤認し、攻撃してしまうことがあるのだ!」

「な! なんじゃと!」

「!」

 おじいさんもおばあさんも、対鬼戦士にせられた残酷な運命に、驚きを隠せません。


『現にそれが原因で、あと一歩で倒せるはずだった破禍将軍に不覚を取り、我らは囚われの身となってしまったのだ……』

『し、四万手救様……』

『そういうわけだ。私はゴールデンバンブーマンや災刃坊主殿の助っ人と共に超破禍軍団、そして超破禍将軍と戦うことにする。余計な気遣いは無用だ!』


 沈黙の空気が流れる中、紅の忍びが金色笠男に歩み寄ると、


”パァーーーーーーーン!”


と、気持ちのいい音の平手を金色笠男のほっぺたに浴びせました。


「ば、ばあさんや! い、いきなりなにをするんじゃ!」

「え? あ! あらまぁ! ごめんなさいおじいさん! なんか四万手救さんの物言いに我慢が出来なくなってつい……」

「まったく、ばあさんがワシに手を挙げるなんて初めてじゃないのか?」


「あら、そうでしたかね。でも、私に内緒で鬼と戦ったことに関しては、今ので帳消しにしてあげますよ。でも四万手救さんに手を挙げるにはどうしたら……あ、そうだわ、手じゃなくて足で踏めばいいんだわ」

 おばあさんは自分が履いている紅いわらじで、おじいさんの金色のわらじを踏みつけます。


「い! 痛い痛い! ちょ! ばあさんや! ワシが痛いのは変わらんじゃろうが!」

「あらあら、じゃあ、どうすればいいのかしら?」

『お、おばあさん。なんかこれいいです! ああ、四万手救様を踏みつけるなんて! このバスターレディー、何かに目覚めてしまいそう!』

 バスターレディーが取り憑いた紅いわらじは興奮するかのように、より紅く火照っていました。


『ええい! いい加減にせぬか!』

 四万手救は怒鳴りつけますが

「いい加減にするのは貴方ですよ、四万手救さん。このままお一人で戦っても、いつぞやの二の舞になりますよ。完璧な人間がいないように、完璧な対鬼戦士がいないのは、貴方が一番ご存じのはずでは?」

『!』

 おばあさんのさとすような言葉に、一瞬、四万手救は言葉が詰まります。


「だからこそ人も、対鬼戦士も、弱きところは助け合い、互いに協力して困難を乗り越えていくものですよ。まぁこれは夫婦生活にも当てはまりますけどね」

『し、しかし、我ら対鬼戦士には、あらがえない運命が……』


「四万手救さん。まだ貴方は、生みの親がわらじを編んでいた意味がわからないみたいね」

『なっ!』

「わらじをくのは人です。ああ、おじいさんのお話では猫や狐、鉄の馬車やあおさが履いていましたけど、それは無視しましょう」

(……無視するんかい)

 おじいさんは心の中で軽いツッコミを入れます。


「そして、わらじを履いた人が正しい道を歩くからこそ、あなたたち対鬼戦士もその力を正しき事に使えるのではないのでしょうか? でなければ、おじいさんのわらじに取りいたりはしなかったのでしょうに?」

『む、むむ……そ、それは確かに』


「だいじょうぶですよ。おじいさんを信じて、そして私の紅いわらじに取り憑いた”ばすたーれでぃーちゃん”を信じて下さい。もし、ばすたーれでぃーちゃんがオイタしたら、私からきつぅ~いお仕置き、


『元祖! 脳天唐竹のうてんからたけ割り!』


をお見舞いしてあげますからね」

『ひ、ひぇぇ~!』

 おばあさんの言葉に、バスターレディーは震え、

(この噺に出てくるばあさんは皆、脳天唐竹割りを会得えとくしておるのか? しかも元祖じゃと? 今の今まで夫婦喧嘩ふうふげんかしなくてよかったわい)

 おじいさんは心の中で安堵のため息を漏らしました。


 そしておじいさんは重い空気を吹き飛ばすように明るく声を出します。

「では討伐再開じゃ! ワシらは怪人や巨大鬼を倒すから、ばすたーれでぃー殿は隠密鬼を頼むぞ!」

『かしこまりました! ゴールデンバンブーマン様』

「はい、おじいさん」


 今まさに、二人の対鬼戦士と四つの魂が一つになったとき!


”ドドオォォーーン!”


 都の中心部で大爆発が起きました!

「あの方角は? もしや幕府があるはなの御所!?」

『このとてつもない瘴気! 超破禍将軍だ!!』

 

 華の御所周辺では、倒された守護兵や怪人、爆発した鬼の破片が辺り一面に埋め尽くされていました。

 御所の正門には、傷つきながらもただ一人、災刃坊主が立ちふさがっていました。

 そして災刃坊主に向かって、精気を吸い取るような禍々まがまがしい声が浴びせられます。


『フフフ……残るはおまえ一人か。以前よりも多少力をつけたようだが、しょせん、”たまご”が”ひよこ”になった程度。私が直接手を下すまでもない。おまえにかまわず、幕府のサーバーはわしが乗っ取らせてもらうぞ』 

「ほほう。お主ごときにそれができるのかな?」

 災刃坊主はあやしくニヤけました。


『フン! 強がりだけは成長したようだな。『漆黒の洪水フラッドアタック!』』

 超破禍将軍の小手から華の御所に向かって漆黒の濁流が放たれますが、


「『未知なる花アンノウン・プロテクション!』」


災刃坊主が呪文を唱えると、御所から花の形の防護壁が展開され、濁流はすべて弾かれました!


『な、なんだこの防護壁は! 花の形の防護壁なぞ”見たこともない!”』


「左様! これぞある御方より頂いた


『”見たこともない花”の防護壁』。


初めて見る防護壁なら当然! 突破するすべをお主は持っておらぬからな!」

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