第五話 笠○ぞう 流

『何かと思えば、ただの新しき防壁か。だがそんなもの、ワシの力をもってすればすぐさま解析し、突破するのは容易なこと』

「ほほう、解析か。果たして、お主にそれを行う時間があるかな?」

 災刃坊主はなお、不敵に笑みを浮かべます。


『強がりは見苦しいぞ。おまえ一人が抵抗したところで時間稼ぎにもならぬわ」

「どうやら勘違いをしておるな。お主が倒されれば解析するときなぞ最初から存在していないということだ!」


 災刃坊主は懐から『皆がつど』を取り出すと口に含みました。すると、災刃坊主の体が七色に輝き始めます!

『な、なんだこの光は!』

 七色の光は”この噺”のみならず、数多くの噺にまで届きました。


 そして、災刃坊主の輝きが収まると、その周りには数多くの噺から『対鬼戦士アンチウイルスファイター』や『破滅鬼戦士バスターファイター』が集いました。


 その中には金色笠男や紅の忍び、キントキや赤頭巾はもちろんのこと、ちくりんちゃんに変身したかぐやから、裏の畑にいるポチ、ウラシマやオトヒメ、雀の王からかぐやの家を建てた三匹の子豚まで集まりました。


『そ、そんなばかな。時空、時間、”噺”を超越して、こやつらがここに集まるなど!』

「志を同じくしていれば、”噺の壁”なぞ関係ない。超破禍将軍! 今ここでお主に引導を渡してくれよう!」

 災刃坊主はりんとした声で超破禍将軍を一喝します。……が

『クックック……ア~ハッハッハッハ!』

「どうした。絶望のあまり観念したか?」


『つくづく儂の手の平で踊ってくれる奴らだ。確かに幕府のサーバーを乗っ取れば政所まんどころ問注所もんちゅうじょ侍所さむらいどころ等へ思いのまま命令を下すことが出来る。だが逆を言えば、最初にこれら幕府組織を乗っ取ってしまえば、結果的に幕府を孤立できるのではないのかなぁ?」

「なっ!」


『鎌倉での執政しっせいのように、幕府組織を乗っ取ったあとは幕府そのものが儂の傀儡かいらいとなり、最終的には儂が思いのまま、この日の本を操れるのだぁ! ハァッハァッハァ!』

「ま、まさか、お主自らここにおもむいたのも!」


『今頃気がついたか! 儂自身がおとりとなり、守護兵やおまえ達をここにおびき寄せている間に、儂の部下が各幕府組織を乗っ取る手筈てはずなのだぁ!』

「そ、そんな!」

 災刃坊主は叫びますが、その声に若干力がありませんでした。


『もうすでに事は始まっておる。そろそろ乗っ取りが完了した合図の花火が上がる頃合いだな。ア~ハッハッハッハ!』

 しかし、都のどの方角を見ても、花火が上がる気配はありません。


『……どうしたのだ! 儂の部下にかかれば守護兵なぞ敵ではないし、災刃坊主を始め儂と敵対する奴らはここに集まっておる! 何が起こっておるのだ!』


「どうやらあたしが手塩にかけて育てた『桃男』が、いい具合に”鬼”を退治しているみたいね」


『なにぃ! どういうことだ!』

 超破渦将軍の叫びに、登場人物の中から前に出てきたのは、柴狩りのおばあさんでした。

「ば、ばあさんや! 一体何をしたんじゃ!」

「えっ! 柴狩りのおばあちゃんも対鬼戦士だったの!」

 柴狩りのおじいさんやかぐやが、おばあさんを見て目を丸くします。


吉備きびの国より取り寄せた総勢369個の桃をね、来たるべき時の為に人夫や人足として都のあちこちで働かせながら、いろいろな情報を収集していたのよ。今頃はお役所の木にぶら下がっていた”桃”達が、鬼を退治している頃ね」


     ※

 政所の塀を乗り越え、庭木に飛び移った隠密鬼達。

”ウィ《Vi》ー! (おい、こんな所にでっかい桃がたくさん実っているぜ)” 

”ウィ《Vi》ー! (よし、お役目が終わったら頂こう!)”

 隠密鬼達が庭木から飛び降りた瞬間! 桃の割れ目から”ニョキニョキ!”っと脚と胴体と腕が生えると、頭が桃の桃男達が呟きます。


『壱! 人の個人情報をすすり』

『弐! 不届きな破渦三昧はっかーざんまい!』

『参! 醜いウイルス共をめっしてくれよう!』


『『『我ら! 桃からえた桃男! とうっ!』』』


”ボカッ!””ドガッ!””ポカッ!””ズバッ!”


っと、隠密鬼を後ろからボコボコにしました!


     ※

『そ、そんな馬鹿な! だ、第一おまえはトロイの木馬をダブルクリックするほど、セキュリティに対して稚拙ちせつな考えしか持っておらなかったではないか!』

 うろたえる超破渦将軍に対し、柴狩りのばあさんは、顔のしわから若干腹黒い笑顔をのぞかせます。


「年寄りを甘く見ちゃいけませんよ。世の中には引退してから趣味にのめり込み、”玄人はだし”の年寄りも大勢いますよ。現に笠売りのおじいさんは『金色笠男』に変身してあんたを苦しめていますよね? そんな中、”せきゅりてぃ”を育てる年寄りがいても不思議ではないでしょうに?」


『フフ……まぁよい。おお! そうだ! そこの


『冴えない』、

『目立たない』、

『取り柄がない』。

『甲斐性がない』 

『どうしようもない』

『女に節操せっそうがない』

そして

『夫としても威厳いげんがない』


の『七ない男』! ……えっと、ウラシマという男。どうじゃ、儂につかえてみる気はないか?』

「ワ、ワシ?」

 いきなり名指しで呼ばれたウラシマは、自分を指さしながら戸惑います。


『そうじゃ! おまえは美しき妻をめとっておるが、儂に仕えれば世界中の美女と交流を持つことも出来るぞ!』

「!!」


『嘘ではない! 儂の力を持ってすれば、世界中の美女のSNSやブログ、個人情報から秘密のフォルダまでのぞき放題だ! おまえは世界中の美女の秘密や”あ~んな”画像や”こ~んな”動画まですべて手中に収めることが出来るのだぞ』


 超破渦将軍の甘い言葉を聞いたウラシマは、まるで操られたかのように、ゆっくりと前へ進んでいきます。

 そんなウラシマの背中へ、オオアリクイの子供達がいっせいに罵声ばせいを浴びせます。

「お、おいウラシマ!」

「てめぇ見損なったぜ!」

「オ、オトヒメさん! 黙って見てていいのかよ」


 ですがオトヒメは微動だにせず、表情も変えず、黙ってウラシマの背中を見据みすえていました。

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