第五話 笠○ぞう 爺さん

 屋根を飛び跳ねながら都中を駆け回り、鬼を探すおじいさん。

『ゴールデンバンブーマン、どうやら尾行されている! 気をつけるのだ!』

「なんじゃと!? しかし、鬼の姿は見えん……」

 おじいさんが言い終わらないうちに、漆黒の手裏剣がおじいさんの背後に迫ります!


「ぬう! 『防御笠ばんぶーしーるど』!」

 すぐさま振り返り笠を掲げ、漆黒の手裏剣をはじき飛ばします!

「なに! 姿が見えぬ! どこじゃ!」

 屋根の上で見晴らしがいいはずですが、辺りを見渡しても鬼の姿がどこにも見えません。


『確かに鬼の瘴気を感じる……そうか! 『隠密鬼スパイウェア』だ! 気をつけろ!』

 四万手救の叫びと共に、今度は漆黒の手裏剣が前後から迫ってきました!


「『防御笠ばんぶーしーるど』! 二重ふたえ!」

 おじいさんは左右の手に傘を持つと体を半身にし、両腕を伸ばして手裏剣を跳ね返します!

「おのれ卑怯者! でてくるのじゃ!」


『『隠密鬼スパイウェア』は人知れずパソコンやサーバーに入り込み、情報を収集するのが得意な鬼だ。これは一筋縄ではいかぬ!』

「どうするのじゃ。このままでは串刺しじゃぞ! おっと!」

 どこからともなく飛んでくる手裏剣を、おじいさんは避けたり跳び上がったり、笠で防御しました。


 そして、『切断笠ばんぶーすらっしゅ、乱れ撃ち!』で切断笠を四方八方に飛ばしたり、『笊手裏剣ざるしゅりけん! まき散らし』で、デタラメに笊手裏剣をまき散らしますが、手応えは全くありません。


「ハァ……ハァ……。せめていつも鬼共が放っている奇怪な叫び声でも聞こえれば、切断笠に命令できるのだが……」

『隠密鬼は特殊な訓練をされており、容易に音や声を立てないのだ。なにかないか……。 隠密鬼が声や音を立てるような技や武器は……』

 まるでおじいさんの体力を消耗させるかのように、絶え間なく手裏剣攻撃は続きます。そして、


”ズバァッ!””ズバァッ!”

「ぐわぁ!」


 左右から飛んできた手裏剣がおじいさんの両太ももを切り刻みます。

『ゴールデンバンブーマン!!』  

「だ。だいじょうぶじゃ。ちょ、ちょこっと、かすっただけじゃ……」

 しかし、おじいさんの動きが鈍るどころか、もはや一歩も動けず、両手に傘を持って手裏剣を弾いている状態でした。


「く、くそう。こんな所で……」

『体の傷は私の自己修復プログラムで治してやる! 気をしっかり持つのだ!』

《しかしこのままでは……。鬼を都中に放ち、守護兵や我らを分散させる作戦。わかっていてものせられてしまうとは……。せめて先ほどの男児か少女と共闘していればこんな事態には……不覚》

 四万手救すら半分あきらめの色が浮かんだとき! 


”ボンッ!””ボンッ!””ボンッ!””ボンッ!””ボンッ!””ボンッ!”


 おじいさんの周りでいくつもの爆発が起きました!

「くっ! とどめを刺す気か!」

『いや違う! この赤い煙は!』 

 おじいさんを中心に四方八方へ拡散する赤い煙。やがて


ウィViーーー!』『ウィViーーー!』

   『ウィViーーー!』 『ウィViーーー!』

ウィViーーー!』           『ウィVi!』

   『ウィViーーー!』『ウィViーーー!』


 鬼達の苦しそうな叫びが、7.1サラウンドとなっておじいさんの耳に聞こえてきました!


『今だ! コールデンバンブーマン!』

「おう! 

切断笠ばんぶーすらっしゅ、乱れ撃ち!』

笊手裏剣ざるしゅりけん! まき散らし』

 笠よ! ザルよ! 鬼の声のする方向へ向かうのじゃあ!」


 おじいさんに命令された笠やザル達は、鬼の奇声が聞こえた軒下や木の影、たるや井戸の中へと飛んでいきます!


  ”ズバァッ!” ”ズバァッ!”

      ”ズバァッ!”    ”ズバァッ!”

  ”ズバァッ!”                ”ズバァッ!”

      ”ズバァッ!”    ”ズバァッ!” 


ウィViーーー!』『ウィViーーー!』

   『ウィViーーー!』 『ウィViーーー!』

ウィViーーー!』           『ウィVi!』

   『ウィViーーー!』『ウィViーーー!』


  ”ボーン!”  ”ボーン!”

       ”ボーン!”      ”ボーン!”

  ”ボーン!”               ”ボーン!”  

       ”ボーン!”      ”ボーン!”


 切り刻まれた黒装束くろしょうぞく姿の隠密鬼は奇声をあげると、一斉に爆発しました!

「ハァ……ハァ……。や、やったか。おっとこりゃいかん、赤い煙がこっちに来るぞ」

 赤い煙がおじいさんを包み込もうとしたとき。


『『赤巻紙あかまきがみ』!』


 妙齢の女性の声が辺りに轟くと、おじいさんを中心に竜巻が発生し、赤い煙は何処いずこかへ消え去りました。

 そして竜巻も消えるとそこには、くれないしの装束しょうぞくに身を包んだ者がいつの間にか立っていました。


『ゴールデンバンブーマン様。ご無事ですか?』

「あ、ああ……あんたが噂の」

 紅の忍びの正体が女性だったことに、一瞬固まるおじいさん。


 そして、紅の忍びはおじいさんの金色のわらじに目をやると、装束越しに、わずかにやわらかい声で話しかけました。


『お久しぶりです。四万手救様』


「な、なんと! 紅の忍びとやらは四万手救の知り合いか!」

 驚くおじいさんの声に、いきなり紅の忍びがあたふたしながら、まったく別の声で話しかけます。


「お、おじいさん! だいじょうぶですか! まぁ、脚を怪我して。ちょっと、『ばすたーれでぃー』ちゃん! 何とかって言う術で治せないの!?」


『ゴールデンバンブーマン。紅の忍び殿は、むしろお主の知り合いではないのか?』

「い、いや、今日初めて会ったんじゃが……」

『しかし、貴殿を”おじいさん”と呼ぶ人間は、私の知る限りでは一人しかおらぬが……』


 このままではらちが明かないので、互いが互いの情報をすり合わせます。


 まずおばあさんの方は、

・露店で買った紅いわらじが話しかけてきた。

・名は『バスターレディー』で、四万手救と同じくウイルスと戦う忍びだと。

・話半分で聞いていたおばあさんでしたが、本当に変身できることを知り、信じることにした。

・瓦版でおじいさんが金色のわらじを履いて鬼と戦っていると知り、自分も参戦してみた。

・わらじをくれた異国の人が、手入れに一味唐辛子を使えと言われたので、それを使って煙玉を作り、演芸場でおじいさんを助けたと。


「ばあさんや、全く、無茶をしおって」

『いや、ゴールデンバンブーマン。奥方がいらっしゃらなければ、我らはあの演芸場でやられていたのだ。改めて感謝する』


 そしてバスターレディの方は

・四万手救と同じく破禍将軍に囚われるも、魂だけ抜け出すことに成功する。

・おばあさんにもらわれた紅いわらじのそばに四万手救の気配を感じ、取り憑いた。

・四万手救と一つ屋根の下で暮らすことが出来、狂喜乱舞。

・そして一緒に戦いたいと思い、おばあさんを説得した。


「四万手救さんを追ってここに来たみたいよ。けなげだからちょっと協力しちゃったの」

『四万手救様! どうか今一度、私と共に!』


 しかし、四万手救は冷たく言い放ちます。

『断る!』

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