第五話 笠○ぞう 暗黒

『号外! 号外! 国衙こくがを襲った鬼の軍勢を、金色の笠を被った男が撃退!』

 瓦版かわらばん屋が号外をきながら、都中の街道を駆けていきました。

 ネットでも笠男の話題で持ちきりです。


「なぁ災刃坊主殿、今ちまたで話題の金色の笠男だが、本当はお主ではないのか?」

 芝刈りの夫婦の家にメンテナンスに訪れた災刃坊主に向かって、まるで瓦版の記者のようにかぐやは質問攻めしています。


「ひ、姫様。いくらなんでもお邪魔しすぎですよ」

 災刃坊主の後をつけ、柴狩りの夫婦の家に入り込んだかぐやの所行に、思わずお供のガチョウもかぐやをたしなめますが、柴狩りのおじいさんは


「ええてええて。かぐやちゃんが家に来ると家の中が華やかになるからのぅ」

 柴狩りのおばあさんも若干腹黒さをにじませながら

「かぐやちゃん、なんならうちの子になって、ついでにうちのネット商店の看板娘になってもええんじゃよ」

 ですが、そんな二人の会話なぞ耳に入れようとしないかぐやでした。


「拙僧はまだ未熟ゆえ、いくら守護兵がおろうとも、あれほどの鬼の軍勢に対しては戦えぬ次第。むしろあっというまに返り討ちにうのが関の山だ」

「ふ~む、なら以前、お主が言っておった対鬼戦士あんちういるすふぁいたー四万手救しまんてく殿かのぅ? 金色に輝く男だと瓦版には書いてあったしな」


「もしそうならとても心強い。だが、破禍将軍はあの鬼の軍勢なぞ比較にならぬ強さだ。皆も心当たりのないメールや、うかつにアプリをダウンロードするのではないぞ」


 国衙襲撃の一件以来、これまでの沈黙が嘘のように都の周辺では鬼が出没しました。

 ですが国衙を襲ったような大規模な軍勢や、以前都近辺の村を襲った時よりも、さらに小規模な軍勢でした。

 おじいさんも四万手救のわらじを履き、幾度となく鬼を撃退してゆきます。

 そのたびに瓦版には、金色の笠男の活躍が紙面を踊り、都どころか周辺の村人の間でも、笠男の名を口に出さぬ日がないほどでした。


 笠やザルの露天中、疲れが溜まっていねむりをしているおじいさん。

「……おっと、こりゃいかん。つい眠ってしまったわい」 


 そんなおじいさんを見て、四万手救も心の中で心配します。

(さすがに連日の戦いでは、老体に負担がかかりすぎるか……)


『だいじょうぶかゴールデンバンブーマン。今日は露天も鍛錬も中止にして家で休んでは?』

 四万手救も心配そうに声をかけますが、


「なぁに、なんのこれしきぃ……すぅ~」

 返事を返しながら、再びおじいさんはうたた寝を開始しました。


(せめて今日一日だけでもゆっくり休ませたい。……だが、私もやられたことがあるが、連日の進撃でゴールデンバンブーマンを疲弊ひへいさせる作戦かも?)

 そんな四万手救の杞憂が実現するかのように、都の中を叫び声が貫きます!


『お、鬼が出たぞぉ~!』


 条件反射のように飛び起きたおじいさんは、すぐさま金色のわらじを履き、叫び声の方へと駆けてゆきます。


『ゴールデンバンブーマン。体はだいじょうぶか?』

「なぁに、一眠りすれば復活じゃわい!」

 しかし、屋根から屋根へと飛び跳ねるおじいさんの脚や声は、幾分、力がありませんでした。


『そこを左だ!』

「おう」

 おじいさんの視線の先には都一みやこいちの演芸場が見え、大勢の観客が蜘蛛の子を散らすように入り口から飛び出していきます。


「アレはかぐやちゃんが出演したことある演芸場! あんなところにまで鬼が!」

『人が多く集まる場所サイトほど、ウイルスを感染させやすい!』

 飛び出してくる人の波をかき分け、おじいさんは演芸場の中へと入ってきます。


『ヌハハハハ! よくぞ来おったな。金色の笠男とやら!』


ウィViー!』    『ウィViー!』

        『ウィViー!』 『ウィViー!』

ウィViー!』 『ウィViー!』   『ウィViー!』

   『ウィViー!』  『ウィViー!』


 真っ暗な演芸場に響き渡る怪しい声と、何十もの鬼の奇怪な叫び声。


「な、なにものじゃ!」

 おじいさんの声に呼応するかのように、舞台へ向けて一斉に明かりがともされます。

 そこには真っ黒な牛頭の男と、何十匹もの鬼が舞台の上に立っていました

『あ、あいつは! 怪人、暗黒猛牛ダーティコウ!』

「なに! 知っておるのか?」

 暗黒猛牛はその長い舌で自分の顔を舐め回します。


『ほほう、俺様を知っているということは、やはりおまえは四万手救にゆかりの者か!』

『答えろ! なぜ貴様が生きているのだ! 十年以上前に現れた時に、間違いなく私が倒したはず!』

 もはや四万手救は、我を忘れて暗黒猛牛に大声で問いかけます。


『フフフフ、すべては『超破禍将軍ねおはっかーしょうぐん』様のおかげである』

『なにぃ! 超破禍将軍だと!?』


『すべてのプログラム、コード、プラグイン、ライブラリは日々改良され、進化しつづけている。故に、例え十数年前、四万手救に倒された我らが主、破禍将軍様も、自己修復と自己改良によって超破禍将軍様へと進化し、我らウイルスも超破禍将軍様によって改良、改造され、『超破禍軍団ねおはっかーぐんだん』としてよみがえったのだ! うわっはっはっは!』


『くっ! 私が十年以上さまよっている間にも、奴らは力をつけていたのか……』

「力を落とすな四万手救! ワシらには正義の心があるのじゃぞ!」

 落ち込む四万手救を奮い立たせようと、おじいさんは一生懸命叫びました。


『そ、そうだ! 我らには光り輝く正義の心がある! いくぞ! ゴールデンバンブーマン!』

「おう! 対鬼戦士アンチウイルスファイター! 金色笠男ゴールデンバンブーマン! ここに見参じゃ!」


『ものども! かかれぇ!』


ウィViー!』    『ウィViー!』

        『ウィViー!』 『ウィViー!』

ウィViー!』 『ウィViー!』   『ウィViー!』

   『ウィViー!』  『ウィViー!』 


 舞台から飛び降りた鬼達が一斉に金色笠男に襲いかかります!


「『切断笠ばんぶーすらっしゅ』! 乱れ撃ち! さらに! 『笊手裏剣ざるしゅりけん』じゃ! 鬼共の体を八つ裂きにするのじゃ!」 


 ”下っ端鬼したっぱおにの叫び声や、金色笠男ゴールデンバンブーマンの登場シーン、必殺技の叫び声は字数が稼げていいなぁ”


というメタ発言は置いといて、疲れた体にもかかわらず、おじいさんは鬼をバッタバッタと切り捨てていきます。

「はぁ……はぁ」


『フフフ、どうしたゴールデンバンブーマンとやら、肩で息をしておるぞ!』

ウィViー!』    『ウィViー!』

        『ウィViー!』


「ぬぬ……なんのこれしき! 

『必殺! 金色笠男蹴りごーるでんばんぶーまんきーっく!』」


 天井までジャンプしたおじいさんは、金色の流星となって暗黒猛牛に向けてドロップキックを放ちますが


『ふん! もろい蹴りよのう』

”ボヨヨ~~ン!”

「なに!」


 暗黒牛男のメタボなお腹に、金色笠男蹴りごーるでんばんぶーまんきーっくが跳ね返されてしまいました。


 おじいさんは何とか宙返りをして地面に降り立ちますが、力を使い果たし片膝をつき、ついにはそのまま崩れるように倒れてしまいます。

「はぁ……はぁ……もう……だめか」

『ハァ……ハァ……』 

 四万手救すら、もはやわらじの輝きが消え、声すら出す力がありません。


『ふん、鬼共を倒しまくっていると聞き、どれほどの者かと思えば、しょせん我ら超破禍軍団、そして超破禍将軍様の敵ではなかったわぁ! ハッハッha……』


”ボゴオオォォォーーーン!”


 突然! 爆発音と共に、演芸場内を満たす赤い煙!


『な! 何事だ!』  

ウィViー!』 『ウィViー!』 『ウィViー!』


 うろたえる暗黒猛牛と下っ端鬼達。

『な、なんじゃこりゃ! 目がぁ! 目がしみるぅ』

『『『ウィViーーー!』』』


 目を押さえ涙を流しながら、暗黒猛牛と下っ端鬼達は舞台の上でもだえていました。 

 慌てて演芸場の窓を開け、赤い煙が晴れた頃には、金色笠男の姿はありませんでした。


『ふん! 煙玉を放って逃げおったか。まぁよい。あの疲労度ではすぐには復活せぬじゃろぅて。ハッハッハ! ゲホゲホゲホ! ぐわぁ~! こ、今度はのどがぁしみるぅ~!』


『『『|ウィ! ……ゲホ……ウィ! ゲホゲホ!』』』

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