第五話 笠○ぞう 暗黒+R
「ファックション!」
くしゃみで目を覚ますおじいさん。辺りを見渡すと、そこは都の外れの橋の下でした。
『おお、ゴールデンバンブーマン! 気がつかれたか?』
もはや金色の輝きを失った四万手救が、心配そうにおじいさんに話しかけます。
「ああ、なんとかな。よっこいしょっと。ゴホンゴホン! なんか目や鼻や喉がひりひりするのぅ……」
おじいさんは体を起こしあぐらをかきます。
『ただのご老体と思っておったが、まさか煙玉を準備し、それを使って逃げるとは。なかなかどうして、貴方もしたたかな御方だな』
「ん? 煙玉? アレはあんたが仕掛けたのじゃないのか?」
『なんだと!?』
二人は記憶をたどりながら、その時の状況を互いに照らし合わせます。
『と、いうことは、誰かが私たちを助けてくれた……と?』
「そうじゃな。実はな、話をしていて気がついたんじゃが、助けてくれたお人に心当たりがあるのじゃ」
『うむ、その御方の名は?』
「災刃坊主様というお坊様じゃ。ほれ、最初にワシが鬼と戦ったあと、道ですれ違ったのをおぼえておらぬか?」
『残念ながら、その時は一足お先に休ませてもらったからな』
「ワシは”ぱそこん”を持っておらぬのでよくはわからぬが、柴狩りのおじいさんのぱそこんや”あいてぃー家電”に取り憑いた鬼を、
『なんと! それは心強い御方だ。今日の戦いで身にしみたが、いくら強力な力を持とうが、一人で戦うのには限界がある。ここは味方を一人でも増やすのが得策だ』
「そうじゃな。……だがとりあえず今日は疲れた。……早く帰って休むこととするか」
家についたおじいさんは、まるで力尽きるように倒れてしまいました。
「お、おじいさん! 一体どうしたんですか?」
「……な、なぁに、ちょっと疲れただけじゃ」
お夕飯を食べると泥のように眠るおじいさん。ですが、朝になっても体が動きません。
「暮れからいろいろありましたからね。二、三日はゆっくり休んで下さい。露店は私が行ってきますから。お昼はおにぎりをおいておきますね」
おばあさんはおじいさんの枕元におにぎりと漬け物のお皿、湯飲みと急須がのったお盆を置くと、笠やザル、わらじを背負い出かける準備をします。
「ばあさんや。最近都で鬼が出るという。くれぐれも気をつけるのじゃ」
「はい、”わかっていますよ”」
おばあさんが出かけて静かになると、おじいさんは窓辺に干してある金色のわらじ、四万手救に話しかけます。
「だいじょうぶかのう。ワシらがいなくて、もし鬼が出没したら……」
『こればかりは致し方ない。私も力のほとんどを失ったし、貴方も疲労が重なり寝込んでいる。守護兵や、昨日話に出た災刃坊主というお方に任せるしかない』
「ううむ……なんともはがゆいのう」
ですが、そんなおじいさんの悔しさも、荒波のような体の疲れに飲み込まれ、再び深い眠りにつきました。
夜になり、汁物の香りで目が覚めたおじいさん。
「おじいさんの為に、市場で精のつく物を買ってきましたよ。さあ、たんと召し上がれ」
「うむ、ありがとな、ばあさんや」
おじいさんはアサリに油揚げ、ニラや山芋の入ったお味噌汁を口に含みます。
(……ちょっと辛いかな?)
数日後、とりあえず動けるようになったおじいさんは、力を蓄えた四万手救を懐に収め、災刃坊主と面会する為、竹取の夫婦の家へと向かいます。
「なんとぉ! こちらの御方が四万手救様とな!」
座布団の上に置かれた金色に輝くわらじを見て、災刃坊主は眼を丸くします。
「えぇ~! 笠売りのおじいちゃんが、巷で噂の金色の笠男だったのぉ~!」
かぐやも金色笠男の正体が笠売りのおじいさんと知り、同じように目を丸くします。
朱に交わればと申しますが、かぐやは何度も茶屋で醍醐を所望しているうちに、その口調も
竹取の
”あの笠売りのじいさんが!”
と、驚きを隠せません。
「ははぁ~!」
すぐさま、四万手救に向かってひれ伏す災刃坊主。
「ははぁ~!」
つられてかぐやもひれ伏しました。さらに、
「「ははぁ~!」」
竹取の翁と媼もつられてひれ伏しました。
「なぁ、ばあさんや。なんかワシらは出てくる度にひれ伏しているようじゃが?」
「仕方ありませんよおじいさん。私たち、これぐらいしかすることがないんですから……」
笠売りのおじいさんはこれまでのいきさつを話します。
「……そうでござったか。超破禍軍団、そして超破禍将軍に対して四万手救様、そして金色笠男殿がそこまで奮闘していらっしゃったとは。実は以前、超破禍将軍と相対したのですが、未熟な拙僧では全く刃が立たず……。今まで力になれなかった拙僧の身を、どうかお赦し願いたい」
『災刃坊主殿。頭を上げられよ。私の魂がさまよっている間、貴殿のような方々が鬼から民衆を護っていると聞く。むしろふがいないのは我が身だ。そういえばつい先日、我らを助けてくれたそうじゃないか』
「いえ、お会いになるのは今日が初めてですが……」
『なんと?』
「まぁ挨拶はそのへんで、今大切なのはこれからどうするかじゃ。超破禍軍団の数に勝る進撃は老体のワシ一人では、正直つらいものがあってのう。実はこの二、三日、疲労が重なり寝込んでおったのじゃ。ハッハッハ!」
堅苦しい雰囲気を溶かすかのように、笠売りのおじいさんは努めて明るく話します。
「そうでござったか。ですが、ここまで超破禍軍団の魔の手が迫っていては一刻の猶予もございませぬ。すぐさま拙僧のツテで応援を手配しましょう!」
『おお、それはかたじけない!』
四万手救が高々と声を上げます。
「ねぇねぇ! 二人とも、いや三人ともかな? この人も仲間にしたらどうかな?」
かぐやは手にした瓦版を三人に見せます。そこには
『奉行所に忍び込んだ鬼を、
と、デカデカと書かれていました。
『なんといつの間に! 奉行所に忍び込んだということは『
「四万手救よ。あんたの知り合いか?」
『いや、全く知らぬ。災刃坊主殿のツテか?』
しかし、災刃坊主は首を横に振ります。
「しかし、ワシらが戦っておったときはこんなお人はついぞ見かけなかったが。まぁ忍びじゃから仕方ないか……ん、この瓦版の日付! ワシらが寝込んでおった日じゃ!」
『なんだと!? ではあれからも鬼が出没したのか!』
「だが同志がいるのは心強いぞ! 四万手救!」
『うむ! 直ちに会いたいものだ!』
災刃坊主との協力を約束したおじいさんと四万手救は、竹取の家をあとにしました。
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