第五話 笠○ぞう 宙(そら)
「『
メンテナンスに訪れた災刃坊主の言葉に、かぐやは本気とも冗談ともつかない言葉を返します。
「ここ最近、
「そうなのか? ネットでもそんな奴らのことは聞いたことないが?」
「鬼を放つ奴らは決して己の素性を明らかにせぬ。かつて奴らは世に忍び、人知れず鬼を放ち、民衆のパソコンのみならず、
「なんじゃと! そんなことが起これば国を真っ二つにする大乱じゃ! 翁よ、媼よ、聞いたことあるか?」
しかし、翁も媼もまるで初めて聞いたかのように、首を横に振ります。
「ひょっとして、秘密裏に幕府の軍勢が戦って滅ぼしたのか? それにそんなに詳しいってことは、災刃坊主殿もその戦いに参加したと?」
かぐやはなにやら目を輝かせながら、災刃坊主に問いかけます。
「いや、その頃の拙僧はまだ修行中の小坊主であった。破禍軍団に対して勇敢に戦われたのは、四万の技で鬼を倒し人々を救うと噂された、
『
「ひ、一人で戦ったのか!? その軍団とやらに対して!?」
「左様。拙僧がもっとも尊敬する御方である」
「災刃坊主殿はその四万手救殿と会ったのことがあるのか?」
「残念ながら、当時の拙僧からはまさに雲の上の御方でな。だが、その勇名は常々耳にしており、拙僧のみならず、同じく修行中の小坊主達も四万手救様の活躍を聞き、修行に弾みがついたものだ」
災刃坊主は遠い目をし、小坊主の頃に耳にした四万手救の勇名を、懐かしそうに回想していた。
「ほほう。それはぜひ会ってみたいものじゃな。今もその御方は破禍軍団と戦っておられるのか?」
「いや、破禍軍団の消息が途絶えた後、そのお姿を見た者はいない次第……。噂では破禍軍団と共に相打ちになられたとか……」
「なんと……。それは壮絶じゃな」
わずかに顔を曇らせる災刃坊主。かぐやも四万手救の最期に思わず息をのみました。
「……ではこれにてメンテナンスが終了した次第」
「ひ、姫様! 大変でございます!」
配達係のガチョウが、矢のように家の中へ飛び込んできました。
「ええい騒がしい! 災刃坊主殿がおみえになっておるのじゃぞ!」
「災刃坊主様!? そ、それはまさに渡りに船! じ、実は都近くの村に鬼が出没しまして、村人達が逃げ回っているのです!」
「なんと! それは一大事!」
ガチョウの話を聞いた災刃坊主は、まさに疾風のように家を飛び出し、その村へと駆けてゆきました!
※
災刃坊主よりも二回りも三回りも大きい、漆黒の
『最近、災刃坊主という鬼を退治する坊主がいると聞き、わざわざ姿を現してみたが、我の『
「くっ! せ、拙僧の『
『まぁよい、邪魔な芽は早い内に
破禍将軍は瘴気を沸き上がらせている小手を、災刃坊主の頭へと向けますが
『
呪文を唱えた災刃坊主の体は”ボンッ!”と爆発音の後、炎の円柱が包み込みます!
『ふんっ! ぬるい
『
”ドッバアァァァ!”
破禍将軍の小手から、漆黒の水が鉄砲水のように吹き出すと、
”ジュウウゥゥゥ……”
災刃坊主の炎の結界はあっという間に鎮火されました!
「……な!」
『おまえ程度の
「こ、これほどの力とは……無念」
歯を食いしばり、己の最期を確信した災刃坊主に向かって、破禍将軍の小手から漆黒の炎が放たれた瞬間!
『
どこからともなく響き渡る声と共に、
『なぬ!』
破禍将軍の小手から放たれた漆黒の炎は、三重の城壁によって阻まれました。
『ええい! こざかしいわぁ!』
すぐさま破禍将軍は、城壁に向かって固く握りしめた漆黒のこぶしを叩きつけます!
”ドグワアァァーン!”
”ドグワアァァーン!”
”ドグワアァァーン!”
あっというまに三重の城壁を破壊する破禍将軍ですが、その向こうには災刃坊主の姿はありませんでした。
『ぬぅ! 一体、
「!」
目が覚めた災刃坊主はすぐさま辺りを見渡します。
「体が……
そこは見渡す限りの草原ですが、
『巨大な”笠”のように枝葉を広げた
が、まるで災刃坊主を護るかのように横にそびえ立っていました。
『……気がつかれたか。鬼と戦い、傷つかれた者よ』
何者かが災刃坊主の心に語りかけてきます。
「こ、ここは
『
「もしや、貴方様は……”この樹”!?」
立ち上がった災刃坊主は、巨大な樹の幹に手を
『左様。生まれし時より、この地に根付くモノなり』
「拙僧の体を癒して下さったのも……貴方様なのですか?」
『造作もない』
「誠に感謝いたします」
災刃坊主は手を合わせてお祈りします。
『我が出来るのはここまで。元の世界に戻るがよい』
「で、ですが、拙僧はまだ未熟ゆえ、破禍将軍に太刀打ちできませぬ! ぜひご助力をお頼み申す!」
『我はこの地でしか生きられぬモノ。じゃが、これを授けよう』
災刃坊主の頭上の枝葉の中から、光に包まれし三つのモノがゆっくりと舞い降りてきました。
「これは?
『これは
『名も知らぬ苗』
『見たこともなき花』
そして
『皆が
だ。どのように使うのかはそなた次第だ』
「お、お待ち下さい! これをどう使えば!」
禅問答のようなモノを渡された災刃坊主は、樹に向かって
『ではさらばだ』
「!」
災刃坊主の目の前は真っ暗になり、体が深淵の底へ落とされたかのように感じると、破禍将軍によって倒された道の上に立っていました。
「こ、これは、夢……」
辺りには破禍将軍どころか鬼の気配もありません。ですが、懐には光に包まれた苗と花と実が
「せ、拙僧に、これをどう使えと……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます