第五話 笠○ぞう 強者 後編 

ウィViーーーーーーー!』

 大鬼は村のパソコンやスマホに取り憑いた鬼を吸収し、おじいさんの数倍まで大きくなりました。

「な! なんとぉ!」


 そして漆黒のこぶしが堅く握られると、ふたたびおじいさんを襲います!

「むぅ!」

”ドォスゥウン!”

 すぐさまおじいさんはジャンプし、空振りした鬼の拳は地面を震えさせます。


 宙を舞うおじいさんは、近くの木の上へと降り立ちました。

「うむ、以前もそうだったが、これを履くと体が軽いな。おっとっ!」

 今度は木ごとおじいさんを破壊しようと、巨大鬼のこぶしが向かってきました。


「やぁ!」

”ベェェキィィ!”

”ドスウゥゥン!”


 ジャンプしたおじいさんの背中を、木がへし折れ地面に落ちる重い音が響きます。

 別の木へと飛び移ったおじいさんでしたが、すぐさま鬼のこぶしが襲ってきます。


「たぁ!」

”バアァキィィ!”

”ズスウゥゥン!”


 木から木へと飛び移りながら逃げるおじいさんでしたが、飛び移った木を巨大鬼は次々と破壊していきました。


「しかし、逃げ回るだけではどうしようもないな。このままではいつかやられてしまう。さて、何か武器はないのかのぅ?」


『対鬼戦士となった貴方は、その体、持ち物すべてが武器となるのだ!』


「そうか、ではワシが作った笠を使ってみようかの」

 おじいさんは頭の笠を手に取ると、


切断笠ばんぶーすらっしゅじゃぁ!』


 フリスビーみたいに鬼へ向かって笠を投げつけましたが、笠は明後日の方へ飛んでゆきます。

「ありゃりゃ、やっぱりいきなりは無理かぁ」


『鬼を倒したい想いがあれば、貴方に不可能なことなどない!』


「そうか、では笠よ! 鬼の腕を切るのじゃ!」

 おじいさんに命令された笠は、Uターンしながら進路を変え、

”ズバアァァ!”

 巨大鬼の背後から、左腕をなんなく切断しました!


ウィViーーー!』


 腕を切断され奇声をあげる巨大鬼ですが、すぐさま新しい腕が生えてきました。

「なんとな! まるでトカゲのしっぽじゃな!」


『ウイルスの中には一部を削除しても、すぐさま自己修復するモノもいるのだ』


「つまり、一気に倒さなければいけないという訳か。しかしどうやって?」

 おじいさんは思い出します。都からの帰り道に、鬼に取り憑かれた六人をどうやって倒したかを……。

「しかし、この金のわらじをあやつの足に履かせるわけにもいかぬ。ということは……」


『そうだ! 貴方の正義への想いが詰まった、この金色のわらじそのものを、ウイルスに向かってぶつけるのだ!』

「やれやれ、年寄りの冷や水じゃな。おっと!」

 再び、巨大鬼の漆黒のこぶしが、おじいさんを襲います!


”バキィィ!”

”ドスウゥゥン!”


 破壊される村の木。おじいさんの体は、村の最後の木の上に降り立ちました。

「ためらっている暇はないな! ……ワシは強い! ……ワシは正義!」

 おじいさんは呪文のように、異国の男から言われた言葉を口ずさみます。


『そうだ! 貴方の正義の想いを、この金色のわらじに込めるのだ!』


「ワシは”ひーろー”! 金色笠男ごーるでんばんぶーまん!」

 金色に輝くおじいさんに向かって、巨大鬼の渾身こんしんのこぶしがせまってきます!


「とうっ!」   

”ドッカァァン!”


 おじいさんがジャンプしたと同時に、巨大鬼のこぶしが木を粉砕しました!

 撒き散らされる枝や木の葉を突き抜けて、おじいさんの金色の体が宙を舞います。 


『喰らえ! 必殺! 金色笠男蹴りごーるでんばんぶーまんきーっく!』


 空中で華麗に回転したおじいさんは、流星のように舞い降りながら、巨大鬼の頭上からドロップキックを喰らわせます! 

 しかし巨大鬼も、おじいさんに向かって固いこぶしを突き上げます!


”ドォゴォォォーーン!”

”バチバチバチバチバチバチバチバチ!”


 金色のわらじと漆黒の鬼のこぶしが、火花を散らしてぶつかり合います!


「うぬぬぬぬ……」

ウウウィィィVVViiiーーーーーーー!』

 まるで時が止まったかのように、両者は一歩も引きません!


『ぬぬ……ひゃ、百鬼夜行は! 消え去るのじゃぁー!』


 おじいさんの叫びとともに、金色のわらじはよりいっそう輝きます。すると!

”ドォッガァァァーーン!!”

 巨大鬼の体が大爆発をおこし、漆黒の煙が村中を包み込みました。


     ※

「そういえば、なんであんたはわらじの姿になっておるのじゃ?」

 家路につくおじいさんは、懐にしまった金色のわらじに向かって尋ねます。


『うむ、実はな、アレは十年以上前のことになるか……。ある”組織”と戦っていた私だが、不覚を取り、敵に捕らわれてしまったのだ……』

「なんと! でも、今、あんたとこうして話しておるぞ?」


『捕まる寸前、魂だけ抜け出すことに成功してな。私の生みの親が作ってくれたこのわらじに取りくことに成功したのだ』

「生みの親とは、この金色のわらじを売っていた異国の男の人か?」


『ああ、その御方もその組織から狙われておってな。せめてもの抵抗に、こうして金色のわらじを作り、鬼から皆を護ろうとしているのだ……』

「なるほどのぅ。あの貧しい身なりはそういう事情があった訳か……。じゃが、なぜその方はワシに金色のわらじをたくしたのじゃ?」


『おそらく、貴方の心の奥底にある正義の魂を、私の生みの親が感じ取ってくれたのだろう。でなければ、貴方が対鬼戦士になれるわけがない」

「ふむ、そういうわけか。おっと、誰かがこちらに来るな。あんたはもうしゃべらん方がええな」

『わかった。私も力を使ったからな。しばらく休ませてもらおう……』


 道の向こうから一人のお坊さんが急いで駆けてきます。

(はて、師走もお正月も終わったのに、お坊様が走るとは珍しい)

 道を譲るおじいさんにかまわず、お坊さんは目の前を通り過ぎます。


 しかし、お坊さんは急に立ち止まると、歩き始めたおじいさんの背中に向けて声をかけます。

「……もし、そこのお人?」

「はぁ、わしのことですか?」

 おじいさんは振り返ると、お坊さんは走ってきたにもかかわらず少しも息を乱さず、けわしい顔でおじいさんを見据みすえていました。


拙僧せっそう災刃坊主さいばぼうずと申す者。この先の村で鬼が出たと聞き、急いでさんじた次第。しかし、いつの間にか鬼の気配が消えておる。もし何か知っていたら教えて欲しいのだが……」


「はぁ鬼ですか? それはまた物騒ですな。ですが、鬼がいなくなったということは、

”どなたかが”

鬼を退治なさったのではないでしょうか?」

 おじいさんはにこやかな笑顔で返事を返します。


 それを見て、災刃坊主のお餅のような堅く険しい顔は、お雑煮のようにゆっくりと柔らかく緩んでいきました。

「そうであるな。鬼がいないということは、”どなたかが”退治してくださった……。こんな簡単なこともわからぬとは、拙僧もまだまだ修行が足りぬな」


「では、御免下さいませ」

 おじいさんは一礼すると、家路につきました。

 その後ろ姿が見えなくなるまで眺めている災刃坊主。

 そして振り返り、鬼が出た村へ歩こうとしたところ!


『ぐわあぁぁぁぁ!』


 突如! 災刃坊主の体へ向かって、天空から漆黒の稲妻が落ちてきました!

 黒い煙をまといながら、災刃坊主の体は崩れるように道の上に倒れ込みます。


『ふむ……わしの放った鬼が退治されたと聞いて、おまえの仕業だと思っておったが、どうやら違うみたいじゃな……』


「お……お主は」

 災刃坊主は何とか力を振り絞り、顔を上げ、声の主を見据えようとします。


『や、闇の将軍と噂される……は、破禍将軍はっかーしょうぐん!』

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