第五話 笠○ぞう 強者 前編 

 子供の頃から、ワシは体を動かすことが苦手じゃった……。

 柴狩りや竹取のじいさんは、子供の頃から野山を駆け回り、大人になったらイノシシや熊を倒したと自慢しておったが、ワシは走るだけで息切れがした。

 幸いにも手先が器用だったから、笠や小物を作り、それでばあさんと二人、糊口ここうをしのぐことが出来た……。


 でもな、心の中では野山を駆け回りたい! 熊は無理でも自分やばあさんをまもる為、せめて盗賊や山賊を追っ払えるほど強くなりたい! と日々願っておった。

 じゃが老体になり、それも叶わぬ夢とあきらめかけた時、あの異国の人はワシに向かって言ってくれた。


『あなた! やさしい! あなた! せいぎ! あなた! つよい!』


 その時は聞き流しておったがな、ウイルスに取り憑かれたあいつら六人の声を聞いたとき、ワシの体は自然に動いた。

 今思えば、あいつらの鬼に取り憑かれた姿を見ても、ワシはうろたえたりせず、金のわらじをかせてやったなぁ。

 そして救ってやったあと、言いようのない充実感がワシの体を満たしたんじゃ。

 

「お、鬼だぁ~! 俺のノートパソコンがぁ~!」

「た、助けてぇ~! 私のスマホがぁ~!」


 不思議じゃ……。

 あの時と同じように、ワシの体は助けを呼ぶ人へと向けられ、ワシの脚は、鬼がいるであろう村の中へと駆けておる。

 なぜじゃろうな? いつも通りこの村を通り過ぎれば、お地蔵様がくださったご馳走をまた食べることが出来る。

 お宝で何不自由なく、ワシにいつも笑顔を向けてくれるばあさんと、これまで通り、のんびり暮らすことが出来るじゃろ。


 すまんのう、ばあさんや。ワシは弱い人間じゃ。そして弱い人間じゃからこそ


『困っていたり、苦しんでいる人は、例え雪に埋もれた路傍ろぼうのお地蔵様であろうと、見過ごすことは出来ぬのじゃ!』 


 『ウィViー!』    『ウィViー!』

        『ウィViー!』 『ウィViー!』

ウィViー!』 『ウィViー!』   『ウィViー!』

   『ウィViー!』  『ウィViー!』


 村に入ったおじいさんの目に写るは、大人ほどの大きさの、漆黒の障気しょうきで形作られた鬼が何十匹も、奇声をげながら、村のパソコンやスマホを荒らし回っていました。


「た、助けてぇ!」

 幼子を連れた母親が鬼から逃げようとしますが、ふところに入れたスマホに向かって二匹の鬼が追いかけてゆきます。

「あぁ!」

 転んでしまった母親に向かって、鬼達が飛びかかりました!


『はぁーー!』

”パチパチパチパチ!”


 母親が振り向くと、笠を被った老人が、手にした金色こんじきのわらじを鬼達にあてがっている姿でした!


『は、早く逃げるんじゃ!』

「は、はい! ありがとうございます!」


『『ウィViーーーーーーー!』』

”ボフン!””ボフン!”


 金のわらじによって、漆黒の鬼達はおぞましい叫び声を上げながら消えてゆきました。


「ハァ……ハア……。い、いける。いけるぞぉ! はああぁぁ!」

 両手に金色のわらじを手にし、おじいさんは鬼に向かって疾風のように駆けてゆきます。


『ワシは……正義! ワシは……強い!』


 金のわらじを売った異国の男からの言葉を、おじいさんは口ずさみます。


「ワシは……ワシは……」

 そして、筋骨隆々のスパルタ兵から言われたことを思い出します。

『もしや貴方は……対鬼戦士アンチウイルスファイター様では?』


『ワシは、対鬼戦士アンチウイルスファイター!』


 さらに、ちくりんちゃんとなったかぐやの歌を思い出します!

『♪~燃えよ! (燃えよ!) ばんぶー! (ばんぶー!) 破竹の勢いで~♪』 


『『金色笠男ごーるでんばんぶーまんじゃあぁぁぁ!』


 咆吼ほうこうげながら、おじいさんは、手にした金色のわらじを鬼達の体へとあてがいます。


”バチバチバチバチ!”

”バチバチバチバチ!”

”バチバチバチバチ!”


『『『ウウウィィィVVViiiーーーーーーー!』』』


”ボフーン!”

”ボボーン!”

”ブボーン!”


 金色のわらじによって、鬼達は次々と奇声を揚げながら爆発していきました。


 村の中を駆け回り、次々と鬼を退治していくおじいさん。そして、

「これで最後じゃー!」

 これまでより倍近い大きさの鬼へ向かって、おじいさんは二つの金のわらじを押し当てます! ……が!


ウィViーーーーーーー!』

 鬼のこぶしがおじいさんの顔面を襲います!

”ボカーーン!”

「ぐわぁ!」


 真後ろへ飛ばされるおじいさんですが、わらが詰まった背中の風呂敷包みが、うまい具合にクッションになりました。

「な、なぜじゃ? なぜこやつには、ワシの金のわらじが効かぬ!?」

 口の中に血の味を感じながら、おじいさんは誰かへと問いかけます。


 そこへ何者かが、おじいさんの魂に向けて語りかけてきました。


『勇敢なるお人よ。わらじは本来、足にく物! 手袋みたいに手につけては”本来の力”が発揮できぬ!』


「だ、だれじゃ?」


『我は対鬼戦士アンチウイルスファイター四万手救しまんてく!』

「し、しまんてく!? あの男が言っていた名か?」

 おじいさんはスパルタ兵の言葉を思い出します。


『さあ、我を足に履いて、貴方あなたの想いを鬼へぶつけるのだ!』

「し、しかし、足に履いたら、ワシは丸腰じゃ。芝刈りや竹取のじいさんみたいに、鎖鎌くさりがま大鉈おおなたとかは持っておらんぞ。せいぜい竹を割る小さい鉈ぐらいじゃ……」


『案ずるな。貴方はすでに武器を持っている。すばらしい武器を!』

「そ、そんなもの……いったいなんじゃ?」


『弱きパソコンを! 弱きスマホを! そして! 弱き使用者ユーザーまもりたい! 正義の心だ!』

「弱き……”ゆーざー”?」


『そう! パソコンやスマホを使い始めたユーザーはまるで赤子同然! ウイルスのみならず、悪意あるユーザーからも危険にさらされているのだ』

「悪意あるゆーざー……盗賊や山賊みたいなやからのことか?」


『そうだ! そういう不届きな奴らは、弱きユーザーになりすまして悪事を働いたり、ウイルスに命令して情報を盗んだりするのだ。奴らになすがままにされる弱きユーザーを護ることができるのは、貴方のような正義の心を持った人なのだ!』

「なんかよくわからんが……盗むってことは、鬼を盗賊や山賊と思えばいいのじゃな!」


『そうとも! さぁ! 貴方の正義の心を、鬼にぶつけるのだ!」

 おじいさんはすぐさま金色のわらじに履き替えます。すると、体だけでなく、服や笠までもが金色に包まれました。

「こ、これは!? 前に履いたときはこんなことなかったぞ!」


『この金色の輝きは、貴方の正義への想いの表れ! 新しき対鬼戦士の誕生だ!』

「そうか、ではいくぞ!」

『おう!』


対鬼戦士アンチウイルスファイター 金色笠男ごーるでんばんぶーまん! ここに見参けんざんじゃ!』  

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