第四話 か○や姫 七節

「しかしかぐやよ。お主の美しさで現に都の若者達の心がかどわかされておる。今、表に出ては火に油を注ぐようなものじゃ」  


 翁の心配に対して、かぐやは都で配られているチラシを取り出します。そこにはお店や商品の紹介の横で、きらびやかな服装で彩った妙齢の女性が、様々さまざまなポーズで写っていました。


「”いめーじがーる”?」 

「そうじゃ、なまじ素人が表に出るから”ストーカー”にあうんじゃ。ネット商店の雇われびととなり、仮装をほどこせばそれは『偶像あいどる』となり、すっぴんのわらわにつきまとうものはおるまい。


 心配する媼ですが、翁はなにやら思い当たるフシがあります。

「確かに露天の中には”いめーじがーる”を使って商いをしている人もおる。雇われ人だから若者も遠巻きに見ておるだけだったな」

「でも、かぐやをそんな見世物みたいに……」

 媼はまだ反対していましたが、とりあえず一回だけということで了承しました。


 こうして、『竹林点店ちくりんてんてん』と名を変えたネット商店で、最初の商いが始まりました。

 かぐやは商いの竹炭を背負い、人目につかぬよう被衣かづきをかぶります。

 道中、店の名前について翁に尋ねました。

「翁よ、”点店”とはどういう意味じゃ?」

とうの言葉で点は”触れる”という意味がある。食べ物のことを点心というのは心の琴線に触れて欲しい意味合いがあるそうじゃ。そこから、ワシらのお店に触れて欲しいという意味合いじゃ」

「なるほど、よい名じゃ」


 露天場所に着いたかぐやは被衣をかぶったままなにやら呟き始めました。

『……隣の竹屋はよく竹を立てかける竹屋だ』 

 するとかぐやの体が輝き始めました。

「「か、かぐや!」」

 光が収まるとそこには、笹の葉をあしらった着物をまとったかぐやが立っていました。


『みなさ~んこんにちは~! 竹林点店のいめーじがーる、『ちくりんちゃん』で~す』


 あっけにとられる翁と媼ですが、早速、老若男女が集まってきました。

 集まった人々を前にしてかぐやは竹炭の効能を説明し、ネット商店の竹林点店を宣伝し始めました。


『最後に、竹林点店の”いめーじそんぐ”! 『燃えよばんぶー』を歌っちゃいま~す!』


「う、歌じゃと!」

 もはや止めることも出来ず固まっている翁や媼の横で、かぐやは腕や腰を”ふりふり”しながら竹炭をマイクに見立てて歌い始めました。


 『燃えよばんぶー』(竹林点店いめーじそんぐ)

       唄:ちくりんちゃん


 今日も俺たち釜戸かまどに飛び込むぜ! (ばんぶー!) 

 数百度の炎もなんのその~!(いっけぇ~!)

 みんなにおいしい水と (おー!)

 みんなにおいしい空気を (やー!)

 届けることが幸せさ~ (ばんぶー!)


『おおおおぉぉぉ!』

”パチパチパチパチ!”


 翁達の周りでは大歓声と鳴り止まぬ拍手がわき起こりました。

 無言で家路につく三人。しかし、その顔は決して明るいものではありませんでした。


 家に帰ると、かぐやは自身の身の上を話し始めます。

「そもそもわらわがこの星に来たのは、月での権力争いでめられた為。月には様々な姫がおってな、天帝てんてい様を前にして歌や踊りを披露ひろうし、一番うまい姫が月の女王トップとなるならわしだったのじゃ」

 翁と媼は何も言わず、ただ淡々とかぐやの話を聞いていました。


「あのときもわらわは”とーなめんと”を勝ち上がり、決勝まで進んだのじゃ。しかし決勝戦の前夜、側近のガチョウ共になにやら薬を飲まされたのじゃ……」

「……」


「体が縮んでゆき、赤子にされると気づいたわらわは手持ちの宝をかき集め、あの竹林の中へ転移したというわけじゃ……」

「そうであったか。だからあんなに歌がうまかったわけじゃな」

 翁は納得し、媼はかぐやに尋ねます。

「かぐやや、それであなたはどうするのかい? ”ぶらっくほうる”だの”蹴飛ばす”だのと叫んでいたじゃないか……」


「お主達の優しさに触れ、月の女王トップだのどうでもよくなった。じゃからせめてもの恩返しにわらわの歌で、竹林点店を繁盛させてやろうと思ったのじゃ」


「そうかいそうかい、ほんにかぐやはいい子じゃね。もうばあは何も言わないわ。思いっきり歌ってちょうだい」

「ああ、これからはかぐやの好きなことをやりなさい。じいとばあが”ばっくあっぷ”してやるからのぅ」

「翁……媼!」

 三人は堅く抱き合い、互いのぬくもりを存分に肌で感じました。


 こうして竹林点店のイメージガールとして竹炭の宣伝や歌を歌うこととなったかぐやは、あっという間に都の人気者となり、演芸場での独演会まで開かれることとなりました。

「かぐや、これは? 竹笛かい?」

 演芸場の売店で売る短い竹がなんなのか、翁はかぐやに尋ねました。


「わらわが転移した竹が光っておったと聞いての、暗い演芸場で観客がこれを振ると光るように術をかけたのじゃ! 名付けて”ちくりうむ”じゃ!」

 独演会が始まり笑顔で舞台に飛び出すかぐや。


『みんなぁ~! 今日はありがとう!』


 すぐさま観客の歓声が沸き起こり、手にした竹を振ると、

「なんとこれは!」

「おじいさん、まるで竹林全体が光って、舞いを踊っているような!」

 観客が振る”ちくりうむ”は、舞台の袖で見守る翁と媼に、幻想的な景色を見せました。


 こうしてかぐやの興業は大成功を収め、それによって竹林点店も大きくなり、他の露天商たちも竹林点店で自分の商品を扱って欲しいと我も我もと殺到しました。


『御免! 災刃坊主じゃ!』


「これはこれは災刃坊主様、”めんてなんす”にお越し下さりありがとうございます」

 翁が出迎えましが、災刃坊主は厳しい顔をしております。


「どうかなさいましたか?」

「いや、またこの家の周りに”すとーかー”らしき輩がうろついていてとっ捕まえたのだが、話を聞くに、どうもかぐや殿の知り合いらしくての。面通めんどおりさせてもよいかどうか……」


「災刃坊主殿、そ奴らの風体は?」

 かぐやの尋ねに災刃坊主は答えます。


「うむ、七匹のガチョウ達じゃ」

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