第四話 か○や姫 六節

「声は聞こえたぞ。災刃坊主殿、わらわのせいで手間をかけさせたな」

 ”幼子おさなご以上、少女まであとちょっと”まで成長したかぐやは、力のない声で災刃坊主を出迎えました。


「なんと! かぐや殿への”すとーかー”とな! やはりこの家の周りにうろついていたやからはそうであったか……」

 災刃坊主はお茶を飲むのを忘れ、おきなおうなからこれまでのいきさつを聞いています。


「……ということは、お主らが都から帰る時に後をつけられたか?」

 しかし、そんな災刃坊主の推理を翁は否定します。

「いいえ、これまでもお宝を売ったあとはわざと大通りや雑踏を通り、時には茶屋に寄り、後をつけられまいと気をつけておりました。何せ大金を持ち歩いていますから……」


「ふ~む、なら村の者がうっかり口を滑らせたか……」

「私たちがネット商店を開いているのを知っているのは、柴狩りのじいとばあだけです。庄屋様ですらご存じありません。何せ”ぱそこん”が使えませんから……。あの二人も私たちのことを漏らせば、自分達にも火の粉が振りかかってくることは重々じゅうじゅう承知のはず……」


「ふ~む、ではネット商店にうっかり”ぷらいばしい”が載ってしまったか? すまぬが竹炭のページを拝見させてはくれぬか?」

 翁は竹炭のネット商店の画面を災刃坊主に見せます。


「最近は”でじかめ”や”すまほ”で写真を撮ると”じーぴーえす”の座標が埋め込まれると聞きましたから、写真を貼る時も注意していましたし、一体何が何だが……」

 かぐやの写真を撮った媼も、力のない声で話します。


「ぬぬっ! この写真! もしや原因はこれか!」

「「「ええっ!」」」


 翁、媼、そしてかぐやがノートパソコンにのぞき込むと、そこには媼が家の中や家の周り、そして竹炭小屋で撮ったかぐやの写真がありました。

「災刃坊主殿、確かにこれはわらわの写真。だが、家の全部は写しておらぬし、竹炭小屋も竹林の中にあるから、都の人間が容易に見つけられるとは到底考えられぬ」


「いや、かぐや殿。都の人間は竹炭になじみがない。ということは、これまで都の周りで竹炭を作っている人間がいないということ」

「ふむ、あたりまえじゃな」


「そこへ翁殿が竹炭を売りに出した。さらにかぐや殿もいっしょに手伝ってな。これが露天ならまだ微笑ましいが、ネット商店の為、受け渡しの時しか、かわいらしいかぐや殿に会えない」

「うむ、わらわは罪な女じゃの」


「こうして、かぐや殿のかわいらしさの噂が一人歩きしてしまい、都の若者達が一目会いたいと願っていたところ、ネット商店にかぐや殿の写真が載っている」

「なるほど、ここからが本番か」


「左様、竹炭ということは都の周りにある竹林しか出来ぬし、その数も限られておる。そして竹炭を作る時に出る……」


「煙!」


 翁が飛び上がらんばかりに叫びます。


「うむ、数ある竹林の中から煙が出てる竹林をたどれば、その周辺にある家々。さらに、写真に映っている家の一部を調べれば、容易にこの家に行き着いたという訳じゃ」


 翁は恐怖で震え出します。

「な、なんとおそろしい。コケの一念と申しますが、かぐや会いたさにここまで……」


 媼も震えながらなにやら思い出しました。

「わたしも”ねっとの噂”で聞いたことがあります。かぐやのような幼子をかどわかす『ろりこん』なるという、百鬼夜行ひゃっきやこう妖怪変化ようかいへんげ魑魅魍魎ちみもうりょうに勝るとも劣らない、あらゆるモノをこじらせた、人のなれの果てがこの世に闊歩かっぽしているとか……ああ、恐ろしや~」


「う、うむ、そやつらについては聞いたことあるが、少なくとも都や、先ほど家をうろついていた輩にはそのような妖気は感じなかったから安心せい」


 翁は恐る恐る、災刃坊主に尋ねます

「災刃坊主様、私たちはこれからどうすればいいのでしょう?」


「うむ、一番の手は何処いずこかへ引っ越すことじゃな」

「そ、そんな、この年で引っ越しても、果たして新しい地の水が体になじむかどうか……」


 狼狽する翁にかぐやが知恵を出します。

「翁よ、ここはネット商店を『引っ越し中』とでもしていったん閉鎖をし、少し離れたところで新しい家を建てればよかろう。さいわいにも財はあるからな」


「この家はどうするのじゃ? 長年住んだゆえ、思い入れがあるのじゃが……」

「しばらくは竹炭の倉庫にすればよかろう。空き家だとわかれば”すとーかー”もそれ以上何もしてこぬて」


 災刃坊主も同意します。

「人の噂も七十五日という。しばらくすれば沈静化するであろう。そして噂には噂じゃ。かぐや達一家が引っ越したという噂で上書きすれば、この地に近づくモノはおらぬ」


 こうして、竹取の一家は新しい家を建てることになりました。

 災刃坊主の紹介で、大工としてやってきたのは三匹の豚でした。


「お主らの”ぷらいばしい”を護る為、拙僧のツテで大工を手配した次第。しかし、驚いて腰をぬかすと思っておったが、意外に平静じゃな」  

 災刃坊主の心配も杞憂でした。


「もうわしらはかぐやを娘にしてから、ちょっとやそっとのことでは驚かなくなりました」

「彼らもいろいろあってな、大工の腕は確かじゃ。ちょっとやそっとのことでは容易に倒れぬ家を建てるから、大船に乗った気でおるがよい」


 やがて新しい家が誕生しました。

 ……とはいっても、村の間では、かぐやが来て手狭になったから新しく建てたとして、その大きさも目もくらむような御殿ではなく、家自体は庄屋様より小さいものでした。


 その代わり、周りは柵ではなく塀で囲み、庭には立派な竹炭小屋と釜戸を造り、新しいネット商店が再開しました。


 そして受け渡しは翁だけでする予定でしたが

「わらわもゆく!」

  すっかり、少女以上に成長したかぐやが叫びました。


「か! かぐやや! 気は確かか!」

「なんの為に新しく家を建て引っ越しをしたと!」

 翁や媼は必死に止めますが


『隠せば隠すほど、人はのぞき見るもの、なら、わらわを存分に見せつければよかろう!』

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