第四話 か○や姫 五節

 ある夕食時、かぐやはおうなに尋ねます。

「媼よ。この家の茶は、なにやら特別な茶かや?」

「いいえ、都で売っている物と同じですよ」

「そうか、それにしては都で飲んだものより味がんでいるように思えるが?」


 かぐやの疑問におきなが答えます。

「ああ、川の水を竹炭で濾過ろかしておるからの。ほれ、この前、雀とあきないしたあの小屋で作った竹炭じゃ」

「そうか……なら、この竹炭も売ればよいのではないか?」

「え?」


 ”めんてなんす”に訪れた災刃坊主に向かって、かぐやは相談します。

「ほほう、竹炭を売りたいとな。……そうか、アレは竹炭のおかげか」

「?」

「じつはな、以前この家に招き入れられた時に出された茶がとても美味だったでのう。本日は”めんてなんす”が目的じゃが、半分は茶が目当てでのう。ハッハッハッハ!」

「まぁ、お主のお墨付きなら、竹炭を売る価値もあろう」

 高笑いをする災刃坊主を、かぐやはジト目でにらみつけました。 


 さっそく災刃坊主はノートパソコンを取り出し、竹炭用のネット商店をデザインしました。

「問題はお客が『この噺の人間』という事。かぐや殿という幼子もおられる。くれぐれも”ぷらいばしぃ”には気をつけられよ」

「わかりました災刃坊主様。商いは必ず都の露天場所でしか行いませぬ」


 さっそく翁は竹炭作りに精を出しますが、いっこうに注文が入りません。

「都の者には竹炭がなんなのかわからぬのではないか? いっそのこと、都で実際に竹炭の水で茶をいれて、通行人に飲ませてみてはどうじゃ?」


 かぐやの提案に、三人は都へおもむきます。

 露天場所にゴザをひき、媼はかぐやに言われたとおり、んできた都の水と、それを竹炭でとおした水で茶をいれます。

「さあさあ、竹炭を透したお水でいれたお茶です。どうぞ飲んで下さい」

 かぐやも声を出して手伝います。……当然、幼子の声で。

「おいしいおちゃですじゃ~」


 かぐやのかわいさもあって、人が集まってきます。

「こちらは都の水。こっちはそれを竹炭で透した水でいれた茶です」

 通行人や露天の者達は半信半疑で口をつけますが!

「こ、これは!」

「そんな! 竹炭を透しただけでこんなにうまくなるなんて!」

「いや、こちらの方が上等な茶を使っておるんじゃろ?」


 媼は目の前で水を透し、同じ茶を使い茶をいれます。

「なんとな!」

「これおきな、お主の目の前においてあるのがその竹炭か?」

「はい、こちらのネット商店で売っておりますじゃ。ご注文をお待ちしております」


 家に帰った三人は早速ノートパソコンを立ち上げ、注文を確認しますが、一件もありません。

「いきなりは無理じゃな。こういうのは地道な努力が必要じゃ」

 こうして何度も都へ赴き、都の人々にお茶を飲ませてはいますが、その時は評判がよくても未だ一件も注文が来ておりません。


 茶を配り終わり、ゴザの上でぐったりしている三人の耳に、聞いたことのあるじいさんの声が届きます。

「ほほう、ちまたで噂の、うまい茶を飲ませてくれるという老夫婦とかわいい孫ってのは、お主達のことじゃったか。どれ、ワシも一杯もらおうかの」 

「なんじゃ、柴狩りのじじいか。ちょっと待っとれ」

 茶を入れた湯飲みをかぐやが運んで手渡します。

「おうおう、かぐやちゃんはいい子じゃな。どこぞのじじいとは大違いじゃ」


 ちなみに村では、かぐやは竹林に捨てられていたのを翁が拾ったことになっています。


「ん~いい味じゃ。もっとも、その様子じゃ空振りしておるみたいじゃな」

 翁の疲れた顔をみながら、柴狩りのじいさんはニヤケます。

「そうじゃ、ぜんぜん売れんのじゃ」

 かぐやは幼子の声で話しかけます。


「そうかそうか、では、おいしいお茶と、かぐやちゃんに免じて、この”いけめん”の柴狩りがちょっと”あどばいす”してやろうかの。どれ、お主のネット商店を見せてみ」

「なにが”いけめん”じゃ! ひょっとこみたいな顔をしておるくせに」

 翁は毒を吐きながらノートパソコンを立ち上げ、竹炭を売るネット商店の画面を柴狩りのじじいに見せました。


「やっぱりな。思った通りじゃ」

 柴狩りのじいさんはタブレットを取り出し、自分のネット商店のWEBサイトを三人に見せます。

「以前も見たことあるが、これがどうかしたのか?」

 しかし、かぐやは何かに気がつき、幼子の声で翁に教えます。

「じい、こっちは、みな、ざるにのっておる」


 改めて翁と媼が注視してみると、かぐやの言うとおり松茸や山菜は確かにざるの上にのっており、写真の下には


(※ざるの直径は一尺(約30センチ)です)

(※ざるの直径は五寸(約15センチ)です)


と注意書きが書かれていました。

 片や竹炭の写真は、ただちゃぶ台の上に置かれているのを写したものでした。


「おうおう、さすがかぐやちゃんだ。ボケじじいとはちがうのう」

「でも松茸や山菜をざるにのせたぐらい、どうというものでもあるまい」

「でもおじいさん。ざるにのっていると大きさや量がだいたい見当がつきますよ。まるで八百屋の店先みたい」

「ぬぬ、そうか、そういうことか……」


「カッカッカッカ! ようやくわかったか。店や露店と違い、ネット商店だと大きさや重さがわかりにくいでの。しかも昨今、写真と全然違う、まがい物を商いしておる輩もおってな、奉行所にも苦情が多数寄せられておる。そんなわけで、お客もなかなか手を出しにくいという訳じゃ」


 早速家に帰った三人は、竹炭を一かん(約3.76kg)や一きん(約600g)などの重さごとにざるにのせ、それぞれ写真を撮り、ネット商店に貼り付けました。

 さらに看板娘として、これまで媼がデジカメで撮った、かぐやの写真も貼り付けました。


「かぐやよいのか? ”すとーかー”されるかもしれぬぞ?」

「わらわはこの星の人間とは成長速度がちがう。その写真もすぐ過去の物となり、成長したわらわを見て、よもや同一人物とは思わぬであろう」


 都でのお茶の試飲、量や重さがわかりやすくなったページ、そして看板娘のかぐやのおかげで徐々に注文が入り、翁も媼も小屋で竹炭作りに精を出します。

 かぐやも小さいなたを振るい、竹の枝を切り落とします。


「わっせ! わっせ!」

 出来た竹炭はすぐさま大八車に乗せ家に運び、さらに注文ごとに袋に詰め、

「わっせ! わっせ!」

 そして都の商い場所へと運ぶ日々が続きました。


 ”めんてなんす”の為、竹取の翁の家へと足を運ぶ災刃坊主。心の中では出されたお茶の味を思い出しております。

 しかし、近づくにつれて、家の様子がなにやらおかしく感じました。家の周りに置かれた竹取の道具や大八車はなく、玄関は閉じられ、雨も降っていないのに雨戸が閉められていました。

「はて? 今日訪ねることは前々から申したはずじゃが? 急な商いでもできたのか?」


 さらに災刃坊主は、家の周りに人の気配を感じます。

「ん? 盗人か!! ……にしては堂々と姿を現しておるし、|都の若者っぽい身なり?」

 そして若者達は、あろうことか柵の中に入り、玄関や網戸の隙間から家の中をのぞこうとしました!


ーーーーーっ! この不届き者達め! とっとと去れーー!!』

「「う、うわあぁぁ!」」


 災刃坊主の一喝に驚いた若者達は、まるで蜘蛛の子を散らすように逃げていきました。 


「御免! 誰かおらぬか?」

 災刃坊主は玄関に立ち声をかけますが、人の気配はするも、返事は返ってきません。

「拙僧は災刃坊主と申す。本日は”めんてなんす”の為にうかがった次第……」


『さ、災刃坊主様! これはこれは! すぐ戸を開けますじゃ!』


 つっかい棒を外す音が聞こえると、辺りをうかがいながら、翁はゆっくりと戸を開けました。

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