第26話 事故。

 ただ一人の家族である息子を最悪失っていたかもしれない、かなり勘弁な事が起こったので、予定を変更し、新しめのハナシをぶち込もうと思います。



 それは8月30日、夜勤中の出来事。

 0時をまわり仕事も一段落、な気配が漂ってきた頃。

 クレーンを操作していると、胸ポケットの電話が鳴る。


 こんな時間に誰?


 胸騒ぎがする。


「ちょっといいですか?なんか電話かかってきて。」


 いちばん近くにいた上司に言うと、


「いいよ。出り出り。クレーンはオレがやっとくき。」


 OKしてくれたので、吊り荷の振れを止め、停止させてリモコンをわたす。

 ポケットから取り出し画面を見ると、相手は息子。

 普段の主なやり取りはLINEで、滅多なことじゃない限り、電話なんかしてこない。


 ということは…


 嫌な予感しかしない。

 電話がつながると、開口一番


「お父さん…事故った…」


 予感的中である。

 心配がピークに達し、一瞬にして血の気が引いた。

 続けて、


「ケガはしちょらん。どっこも痛くない。○○(←友人の名前)も大丈夫。でも、エンジンかからん。」


 自らの無事を伝えてくる。

 落ち込んでいるけど比較的元気な喋り方ではある。


「なんか?何しよったんか?」


 経緯を聞くと、峠道を走行中、動物が飛び出してきて、焦ってブレーキ踏んだら滑って山の斜面に突き刺さったとのこと。

 相手もいなくて、破壊したモノも無い。

 安心すると、今度は怒りが沸々とこみ上げてくる。


「見てみぃ!夜遅くまで遊び回るき、そげなコトなろうが!バカタレが!たいがいせぇよ!」


 会社では絶対に見せることのない、キツい口調の自分を心配そうに見守る上司。

 通話終了後、


「どーしたん?何があったん?」


 当然の如く聞かれる。


「子供が事故ったらしいです。」


 理由を話すと、


「はぁ?大丈夫なんね?」


「はい。ケガとかも無いみたいです。」


「なら、よかった。」


 上司もひとまずは安心してくれたようで。

 事態が事態なだけに、帰ることを薦められたけど、とりあえずケガとかはないから仕事は続行。


 入社して間もない人間のクセに業務以外で心配かけるとか、マジ有り得ん。

 体裁悪いことこの上ない。


 とは、無事だったから言えるコト。

 ホント、死ななくてよかったよ。



 これに懲りて、少しくらい大人しくなってくれたらいいんだけど、現実にはそう上手いこといかなくて…。

 反抗期真っ只中。

 イヤごとを言う自分の存在が、さぞかしウザいのでしょう。わざとのように夜遅くまで遊びまわる日々。

 ここは力ずくにでも、止めさせる場面なんだろうけど、親一人子一人の家族。それやってしまうと、逃げ場が無くなり追い詰めてしまうのは目に見えている。母親がいるのなら、悪役に徹することもできるんだろうけどね。どうしても、嫌われたくなさが先に立って、肝心なトコロで甘さが出てしまう。

 これじゃ、ナメられっぱなしになってしまうのも頷けるよね。


 あ~あ…ホント、ダメな親父。


 片親での子育ては大変だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る