療養中の猫娘

 コンコンとドアを叩く音が聞こえて、ララが返事をする。

 あたしはベッドで目を閉じたままじっとしてる。


「あれ?また寝てるの?」


「さっきまで起きてたの。タイミングが悪いの。」


「そっか。」


 アレイフがベッドの近くまで来たのがわかる。

 いい匂いが漂ってきたから。

 視線を感じるけど、あたしは目を閉じたまま。

 すると頭を優しく撫でられる感覚。気持ちいい。


「なんかずっと間が悪いなぁ…ミア、ゆっくり休んで。」


 そしてアレイフの手が離れる。

 もっと撫でてほしいといいそうになるけど、ここはぐっと我慢。


「元気になったらいつでも話ができるの。」


「それもそうか。ララも怪我の方は?」


「私はもう傷跡すらないの。」


「そっかよかった。じゃあ、俺はライラさんとリザの方も観てくるよ。」


「さっきいったら2人とも退屈してたの。」


「そっか。」


 アレイフが小さく笑ったのがわかった。

 そしてドアから出て行って、足音が遠ざかる。

 隣の部屋をノックする音が聞こえて、中に入る音を聞いたところで、親友から声がかかった。


「ほら、もう行ったから起きるの。」


「てへへ、ばれてたにゃ。」


 あたしは目をあけると親友のララを見た。


「当然なの。さっきまで話してたのに。」


「お芝居につきあってくれて感謝にゃ。」


「…バレてる気がするの。」


「にゃんと!?」


 いや、それもあり得るかもしれない。

 もう何度も寝たふりをしてやり過ごしてるから、そろそろ気づかれてもおかしくない。


「というかなんで寝たふりをするの?」


「それは…合わせる顔がにゃいからにゃ。」


 そう、あたしはあの日、大失敗した。


「みんな同じなの。あれは強すぎるの。勝てなくても仕方ない。それにミアのおかげで私は軽症ですんでるの。」


「違うにゃ。」


 そう。違う。

 あたしの役目は敵を倒すことじゃない。

 それはついでだ。

 あたしの役目はアレイフとララを守ること。

 ずっと昔、皆に、あたし自身に誓ったこと。


「あちしは、アレイフもララも守れなかったにゃ。」


「アレイフは遠くにいたから仕方ないし、私は助かってるの。あんな強敵相手にミアはよく戦ったの。」


 ララのいうことはわかる。

 アレイフは傍にいなかったから守れるわけないし、あんなに強い相手を敵に回して生き残っただけでも幸運。

 本来なら全員殺されてたっておかしくない。

 けれど、それはいいわけだ。


「それでもにゃ。アレイフもララも怪我をしたにゃ。」


 あたしの言葉に、ララが黙り込む。

 仕方がないですましちゃいけない。


 あたしが判断をミスしたんだ。アレイフから目を離しちゃいけなかった。

 強い敵だとわかったら戦うんじゃなくて逃げるべきだった。


「でも、次があるの。」


 ララの言葉にあたしもうなづいた。

 そう、幸運にもアレイフもあたし達も助かった。


「次、同じような結果にならないように…後悔しないようにするの。」


 ララのいうことは正しい。

 アレイフから目を離さないようにしないといけないし、もっとあたし自身強くならないといけない。


「そうにゃ。もっと強くなるにゃ。」


「ライラやリザとも協力するの。」


 あたしだけが強くなってもいいけど、時間がかかる。

 ライラやリザともっと上手に連携する方が、ずっと短期間で安全になる。

 特にリザとの連携は反省点が多い。

 もっと練習しておけばよかった。


 うなづくあたしを見て、ララは水の入ったコップを渡してくれた。

 それを受け取って、水を飲む。

 これだけの動作でも少し痛みがあるから不便だ。


「にしても、あいつ強かったの。」


「同意にゃ。」


 確かにあいつは強かった。たった一人で、あたし達4人を相手に戦い抜いて倒してしまうぐらい。

 何度か確実に急所を捕らえたはずなのに、なぜか倒せず、その隙をつかれてライラやリザはやられてしまった。

 あたしが隙を見せなかったらもう少しうまくいっていたかもしれない。

 次、戦うことがあったら…いや、誰に対しても。相手が動かなくなるまで油断しちゃいけない。

 普通なら倒せるような一撃でも倒れない相手がいることがわかった。


 昔、誰かが言ってた。

 強いものが群れを守る。


 …誰だったんだろう?

 わからない。けれどあたしの群れはアレイフにララだ。

 ライラはどういっていいかわからないけど、何か違う気がするし、リザは群れと呼べるほど親しくない。


 あとで後悔したくない。

 群れを失いたくない。


 早く傷を治さないと。


「あとどれぐらいで動けるようににゃる?」


「治癒師次第なの。優秀なのを呼ぶように頼んでおくから安静にして少しでも早く治すの。」


「わかってるにゃ。」


 あたしの思っていることが、親友にも伝わったみたい。

 さっすが。


 コンコンとノックの音が聞こえ、翠が治癒師を連れて入ってきた。

 3人いる。

 もう一人、アレイフのために、あたしに早く治れといってる娘がいることに嬉しくなる。


 あたしは群れのボス?

 いや…ボスはアレイフだから…あたしは…。

 そう二番手、ボスの大事な片腕だ。

 早く傷を治して、ボスのもとに戻らないといけない。

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