第80話 和解と協力
「それではまとめさせて頂きますね。」
そういって書類をまとめる為に、最後の確認をするランドルフ。
リントヘイムの崩れかけた大きな建物の中で、俺は魔国のアウレリア殿下を迎えていた。
あちらは俺の正面にアウレリア殿下、そして左右の後ろにトッカスとスウが立っていた。
こちらは近衛隊長のライラさんとランドルフだ。
参加者の半分が包帯だらけという少し変な空間になっていた。
停戦のまとめは主にランドルフとアウレリア殿下が話をつめ、俺が時折、ランドルフに許可を与えるという形でまとまっていった。
いや、許可を与えるも何も、形だけなのがバレていると思うけど。
「1つ、ローレンス帝国のアウレリア殿下以下の軍とシュイン帝国、第四師団はお互いに戦闘行為を行わない。揉め事が発生した場合はお互いの代表が話し合いで解決する。1つ、この停戦協定はお互いに国に報告する。密約ではない。1つ、お互いの国が戦いの意思を見せた場合は相手側にこのことを伝えることにより停戦を解除する。1つ、情報交換や取引は同条件で行うこととする。1つ、ローレンス帝国のアウレリア殿下以下の軍とシュイン帝国、第四師団以外の軍に関して、この停戦協定は適用されない。」
ランドルフが読み上げる内容は簡単なものだった。
どれもきちんとした停戦の条件には程遠い。
魔国、つまりローレンス帝国では軍が、他国の軍とだけ停戦することもよくあることらしい。
お互いの戦いに敬意を評するらしいが、その感覚はよくわからない。
人族の国では考えられないことだろう。下手したら謀反人だ。
「以上を条件とし、停戦協定としたいのですが、よろしいですか?」
「異議ないわ。」
「かまわない。」
そして俺とアウレリア殿下が調印し、停戦となった。
ランドルフにはこのことを王都に伝令してもらう。
「しばらくはこの街・・・廃墟だけれど、ここにいるのですか?」
停戦後だからか、アウレリア殿下は優雅に微笑みながらお茶を飲んでいる。
・・・あれ?お茶?どこから!?
「いえ、おそらくすぐに王都に帰ることになると思います。このことを報告する必要もありますし、そもそもの目的はほとんど達成できたので。」
「この街、リントヘイムでしたか、酷いものですね。我らも他人事ではないのですが・・・。」
コトっと、俺の横にお茶が置かれる。
見るとスウさんがお茶を置いていった。引きずった足が痛々しい。
ていうか、そんなもの持参してたの!?
「気にしなくていいですよ?トッカスの怪我もスウの怪我も戦争でついたもの。今となっては過去のことです、遺恨は残さないのが我が国のやり方です。」
「ありがとうございます。ところで・・・殿下に少しお聞きしたいのですが、この街はオークによって滅ぼされました。他人事ではないとおっしゃいましたが、この街を襲ったのは魔国・・・いえ、ローレンス帝国ではないのですか?」
「違います。...そうですね、情報交換といきましょうか。ランドルフ殿も戻ってきたようですし。」
入口を見ると、ランドルフが戻ってきていた。
伝令は出し終わったらしい。
「ぜひお願いします。とりあえず、全員席につきませんか?」
「そうですね。貴方達も座らせてもらいなさい。」
トッカスさんとスウさんがアウレリア殿下の左右に腰掛ける。
こちらもランドルフとライラさんが俺の左右に腰掛けた。
「まずはこちらから情報をだしましょうか。まず、貴方達がいう魔国とは私達の国を含む魔族の国全般を指していると私は解釈しているのだけれど、間違いはない?」
アウレリア殿下の口調が少し変わった。
こちらが素なのだろうか?
「はい、我ら人族から見れば森の向こう側をひとまとめに魔国と呼んでいます。」
ランドルフが代わりに答えてくれた。
話し合いの場でも本当に頼りになる。
「なるほど。交流がないから無理もないわね。貴方達がいう魔国は正確にはいくつもの都市国家からなってるの。そしてその都市国家はそれぞれ独自の方法で国を収めているわ。規模は・・・説明しずらいけれど、私達のローレンス帝国は間違いなく1,2を争う国力の国ね。」
「種族は関係ないのでしょうか?」
「種族で集まっている国家もあるけれど、うちは違うわね。ちなみに貴方達と領土を隣接しているのは2カ国だけ、1つは我がローレンス帝国。そしてもう一つはコンファグ教国という国よ。」
「それは戦いのきっかけになった?」
「そうね。コンファグ教国の間者が行ったことだというのはもう説明しましたわよね。」
「ローレンス帝国とコンファグ教国は敵対関係に?」
「正確にいうと、コンファグ教国はすべての国と敵対してるわ。自国最強!王は神!この世は王のためにあるってね。どの国とも相容れないでしょう?」
「それは・・・そうですな。しかし、周りが敵だらけでよく滅ぼされませんな。それほど強国なのですか?」
「領土からいうとローレンス帝国と張るぐらい大きいわ。でも、あの国はそれだけじゃない。民すべてが狂ってるのよ。普通の国なんて、すべての国民が兵というわけじゃないでしょう?でもあの国は違う。ただの農民さえも有事の際には戦場に喜々として赴くの。それも死兵として。」
「死兵?」
「死を恐れず、玉砕攻撃を行う兵のことだ。戦場で自らを強化する為に精神を狂わせる魔法を平気で使ったり、わざと捕虜になり、周りを巻き込む呪いを発動させて大きな被害を出したりと、常識では考えられんことを行う。」
トッカスさんが苦々しく教えてくれた。
「尚更、なぜ早々と潰さないのですか?」
「あの国は数多くの国と隣接しているから、下手に攻めると敗走先としてどこかの国になだれ込む可能性がある上に、追い込むと国を上げて大きな呪いの呪法を発動しかねないのよ。本当にやっかいな国。しかも、変に利用価値があるから・・・。」
「利用価値ですか?」
「彼らは今回みたいに自国の王を神と思わない国、まぁ周り全てね。自国以外に無差別な玉砕攻撃を行うのがよく知られているの。それも今回みたいにお互いに誤解を生む方法で。数多くの報告例があるわ。いくつもの暗殺や小競り合いがコンファグ教国のせいになったけれど、実際にどこまで本当かはあやしいものよ。」
「なるほど。不正のいい言い訳になるのですな。邪魔な者を消し、コンファグ教国のせいにしてしまう。」
「そういうこと。それでオークの話しに戻るけど、あれはコンファグ教国の呪法で強化された筋力ばかりで頭の足りない強化種なの。実際のオークはもっと大人しくて気のいい連中よ。」
「話せるのですか?」
「魔物の中でも底辺とされているだけあって、あまり頭は良くないけど、その分素直だし、忠実ね。このリントヘイムを襲ったオーク達は奴らが我がローレンス帝国に被害を出すために行った呪法で生み出された被害者よ。」
「貴方達の国を?ではまさか。」
「その通り、我が軍がオーク達を追い払ったのだけれども、どうやら大量に逃げ出していたらしくて、それがこちら側に逃げ込んだのよ。2年前にその指揮をとったのは私の兄なのだけれど、最近まで大量のオーク達が人族の領土に逃げ込んだことを隠していたの。それで今回、私たちが調査も兼ねてオークの掃討に来たというわけ。」
「それは...。」
俺達は全員微妙な顔をしていただろう。話を聞く限り、元凶はコンファグ教国だが、原因はローレンス帝国にもある。そしてそのオーク達はシュイン帝国にとってとても大きな被害をもたらした。
「もし、そちらと交流の機会をもらえるなら、正式に謝罪もするわ。どう?」
「それは国王に聞いてからになりますね。報告の時に伝えておきます。」
ランドルフがこちらを見たので代わりに答える。
「じゃあ、そっちも情報をちょうだい。情報がないのはお互い様なのよ。」
促されて、ランドルフがシュイン帝国の情報を伝えていく。
シュイン帝国と隣接する国の情報まであったのには驚き、俺も知らないことが多かったので聞き入っていると、ライラさんに「なんで知らないの?」と注意され、アウレリア殿下には笑われた。
だいたいの情報交換が終わったところで、アウレリア殿下が席を立ってこちらに近づいてくる。
「じゃあ、もう一つの約束。そのおかしな呪法を正常にしてあげる。」
なんのことか分かっていないランドルフやライラさんに説明する。
アウレリア殿下は俺の前に立ち、額に手をついて何か呪文を唱えだした。
身体の周り、そして殿下の手の周りんいくつもの文字が浮かび上がる。
しばらくすると、バチン!っと大きな音がして頭を殴られたような衝撃で後ろに倒れた。
「はい、おしまい。」
「え、もう?」
「ええ、それで呪法はちゃんと作用するはずよ。あ、そうそう。たぶんこのあと熱がでるから安静にね。ちょっと意識なくなるぐらい熱が出るかもしれないけど、すぐよくなるから。」
「へ?熱?」
「呪法がまともに動くようになって魔力値がかなり上昇すると思うの、たぶん身体がついていかなくて高熱が出るわね。」
「...先に言って欲しかったのですが。」
「大丈夫でしょう?私達とは停戦しているのだから、敵はいないし。王都に戻るのでしょう?あ、私もずっとあの砦にいるわけにはいかないけれど、そこにいるトッカスがしばらくはいるから、何かあったら伝えて。私達の軍がいなくなる前にはきちんと連絡するから、そちらもよろしくね。」
「わかっています。連絡手段は?」
「貴方達は白旗をあげた使者を立てるのよね?私達は自軍の旗を2本もったのが使者になるの。交渉が成立したら自軍の旗の1つを相手側に置いてくるのよ。そして代わりに相手の旗を1本もらってくるの。」
「旗の交換ですか、ではお互い相手国のやり方に従うということで。」
「了解した。」
ランドルフとトッカスさんがお互いを見ながら了解し合う。
「さて、呪法を治してあげたんだから代わりに貴方の情報をもらうわね。」
そこからは俺の生い立ちや魔法を使えるようになったわけなどを話すことになった。
ランドルフやライラさんにもフィーのことを知られることになったけど、かまわないだろう。
変化が現れたのは、トーマという名前が出たときだった。
リュッカ姉さんの事件や神格者の儀式で暗躍した男の名前だ。
「痕跡を残さない男でトーマ?それってもしかして、トーマ・ジェネラルのこと?」
「トーマを知っているのか!?」
「知っているのかって・・・さっき話していたコンファグ教国、国王の次男の名前がトーマ・ジェネラルよ。正確な情報ではないけれど、確か国内にはいなくて、どこかで暗躍しているのではという話があったわね。情報では姿形はもちろん、印象操作まで得意とする幻惑魔術の使い手だとか。長男と違って武力に劣る為に各国で妨害工作をしているらしいという情報はあったけど。まさか人族の国にまで?」
「本人かはわからない。けど利用された者がその名を口にした。」
「しかも、広めていたのがヨルム教...。本人かまではわからないけど、関係者は間違いないわね。ヨルムとは彼らコンファグ教国では特別な意味を持つ言葉よ。初代国王、つまりコンファグ教国設立者のあだ名がヨルムガンド、古代史にある伝説の毒蛇の名前ね。親しいものはヨル、またはヨルムと呼んでいたそうよ。」
「......。」
「これは、別の理由でも協力体制が組めそうね。利害も一致するし。お互いに何か新しい情報があれば持ち寄ることにしましょう?我々にとっても彼らは危険すぎるから。」
「わかりました。是非。」
そういって俺はアウレリア殿下に手を差し出した。
嬉しそうに笑いながら殿下が握手してくる。
思わぬところでつかんだ情報と協力者。
少しずつでもいい。トーマに近づければ...そう思うばかりだ。
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