キャッツ デイ

 今日もまだ暗い時間に目が覚めた。

 横を見ると、ララが大きな口をあけて寝てる。

 つい悪戯したくなるけど、ここは我慢。


 あたしは伸びをして、服装を整える。

 部屋を出ると、まだ暗い。

 さっと洗面所に移動して身支度を整える。

 …今日はいつもより寝癖が酷い。

 髪がだいぶ伸びてきた。あたしの髪はくせ毛で長くなるとまとまりがなくなる。


 …あーめんどくさい!もういいや。


 昔、まだ傭兵団だった頃はこの後、身支度をすませたら朝ごはんを食べてたけど、今は違う。

 ララがまだ寝てる寝室と同じ階にある執務室に入る。


 真っ暗で誰もいない。

 シンと静まりかえってる。もちろん目的はこの部屋じゃない。

 そこからドアをあけて隣の寝室に入る。


 中にはベッドが1つと椅子が1つ、そして服を置く棚が1つあるだけあたしとララの部屋の半分よりもずっと狭い。

 アレイフは狭い部屋が好きなのかな?あたしも好きだから部屋の趣味は合いそう。


 ベッドの上にある毛布は盛り上がってて、定期的に上下してる。

 熟睡してるみたい。

 部屋に入ってドアを閉めると、椅子に座っていた赤髪のメイドと目があった。

 翠(すい)はアレイフ専属メイドらしい。

 いろいろあって、あたしとララ、翠(すい)は順番にアレイフの護衛をしてる。

 別にライラに命令されたわけじゃないし、ずっと一緒ってわけでもないけど、なるべく誰かが一緒にいるようにしてる。

 他にも私と同じ近衛って人達はいるけど、なんとなくアレイフは気を許してないみたい。近くにいると眠れないって言ってた。それなら私達が側にいてあげないと。


 あたしとララ、あとは団長…今はなんだっけ…隊長?……もうカシムでいいや。

 カシムとかライラみたいに銀鷹の何人かと翠(すい)以外には気を許せないみたい。

 ちょっといい気分♪


 翠(すい)はあたしに軽くお辞儀してから部屋を出て行く。ここからはあたしが護衛だ。

 出て行くときに「昨日遅かったのでもう少し寝かせてあげて下さい。」って翠(すい)が言ってた。

 だから、このまましばらく見てよう。


 とりあえず、椅子に座ってみる。


 すぅすぅと寝息を立ててよく眠ってる。


 …静かな部屋。聞こえるのは寝息だけ。


 暇だ。

 翠(すい)はよく何もせずに時間が潰せるもんだ。

 あたしには真似できそうにない。

 そういえばララは本を読んでるって言ってたっけ。

 でもあたし、本とか読むの嫌いだしな…。


 うぅん…。とアレイフが寝返りを打った。

 あ、布団がめくれてる。


 直してあげようと近づいて、布団をもつ。

 …あったかい。


 もう少し明るくなるまで椅子に座って待たないといけない。

 明け方だからちょっと寒い。

 けど、この布団は温かそうだ。


 入ってもいいんじゃないかな。


 うん、誰も困らない。

 …前にもにたようなことがあった気がするけど…なんだっけ?忘れた。


 アレイフを起こさないように、そぉーっと布団に入る。

 暖かい。

 別に布団に入ってても不審人物が近づいたらすぐに対処できるし、何も問題はない。

 …そう、何も…問題は…。




「何してるんですか!!」


 いきなりの声に飛び起きた。

 尻尾が膨れ上がって逆立ってる。

 飛び起きて、周りを見る。


 …寝てたみたい。


 目の前には赤い髪のメイド…珀(はく)が腰に手を当てて立っている。

 なんか怒ってるみたい。


「おはよぉ。」


「おはよぉ。じゃありません!いったいそこで何を…ま、まさか昨日の夜から一緒に?」


「うにゃ?」


 珀(はく)が顔を赤くしてよくわからないことを言ってる。

 昨日の夜から一緒にいたのは翠(すい)なのに。


「うぅん?」


 目をこすりながらアレイフが起きてきた。


「…朝からどうし…え?」


 おはようと挨拶したのに、アレイフはビックリした顔をしてる。


「ミア?…なんでここに…ていうか何でベッドに入ってるの?」


「護衛にゃ!」


「ベッドの中までついていく護衛なんていません!」


 なぜか珀(はく)が怒ってる。

 なんでだろう。

 アレイフの方を見ると、困ったような顔で笑ってる。

 あれ?あたしが何かおかしなことした?


「とりあえず、こっちに来てください。レイ様は着替えて!」


 珀(はく)に連れられて執務室の方に移動する。

 なんで怒ってるのか聞いたら、ベッドに入って寝るとは何事だ!といわれた。

 そうか…護衛なんだから寝ちゃだめだ。

 次からは温かいベッドの中でも寝ないように気を付けないと。

 …できるかな?


 アレイフが出てきて、洗面所に向かう。

 これから一緒に朝ごはんだ。


 食堂に向かうとすでに近衛の人たちが食べ始めてた。

 朝から肉ばっかり。本当に肉好きばっかりだ。


 あたしはいっつもお魚を食べる。

 毎朝違う焼き魚、今日は何かな♪


「主様、今日のご予定は?」


食事をしているといつのまにか隣にクインとユリウスが来ていた。いっつもいつの間にかいるけど、もしかしてアレイフを待ち構えてる?


「んー今日はちょっと視察の予定があって…あれ、ライラさんから聞いてない?」


「隊長は今日非番ですので…。」


「ワッカーさんやナットさんからは?」


「ワッカー殿には今日任務があると聞いています。詳細はナット殿からと伺ったのですが…。」


「…あそこで寝てるね。」


「…はい。護衛は我ら全員で宜しいでしょうか?」


「んーっと、最初はちょっと様子見してからにするから、クイン達は昼過ぎにウキエさんと一緒に来てくれる?あと、クイン達とリザ、あとララにも声かけて。ナットさんは…いいや。ほっとこう。」


「了解しました。そこにいるミア殿は?」


「うにゃ?」


 突然名前を呼ばれた。

 何の話してたんだろ?

 むぅ、今日の魚は骨が多い。


「ミアは…このままついてくるんだろ?」


 何の話かわからないけど、ぐっと親指を立てて合図する。

 ついていくのは当然!だって護衛だもの。


 あれ?クインとユリウスがこっちを羨ましそうに見てる。

 まだ肉が残ってるのに、あたしの魚を狙ってる!?

 これはあたしのだ!

 ギロっと睨み返してやると、すっと目を逸らされた。

 羨ましいなら食堂のおばちゃんに言って作ってもらえばいいのに。

 …はっ!まさか、骨をとった身だけの部分を狙ってる!?

 なんて奴らだ!



 朝からいきなりお出かけ♪

 ちょっとだけ執務室で何か仕事してたけど、あたしがウロウロしてると、アレイフが笑いながら出かけよっかと言ってくれた。

 いい天気だし、そのほうが楽しい!やっぱりわかってる!


 2人で外に出ると、並んで歩き出す。

 そういえば、ララが言ってたっけ、2人で歩くときはこうするって。


「ん?どうした?」


「にゃ?」


 アレイフは驚いてたみたいだけど、そのまま歩き出した。

 ちょっと顔が赤い?

 にしても、いい感じ。

 ララは本当に物知りだ。

 アレイフの右手とあたしの左手で手をつないで、アレイフの右腕を抱き込むように引っ付く。

 こうしたらアレイフも喜ぶし、暖かいってララがいってた。

 確かに暖かいし、アレイフの匂いがしていい気分。


 ん?あたしと同じことしてる人がいる。

 仲良さそうな2人組だ。

 けど、なんだろう…ちょっと違う。

 あ、手の繋ぎ方が違うんだ。

 あたしはその2人の真似をして、指を絡めあうように、手をつなぎ変える。


「ミア、どうしたの?」


 アレイフは驚いてるみたいだけど、笑ってくっついたら、そのまま歩きだした。

 うーなんだろう。いい気分。ゴロゴロって喉がなっちゃう。


 そういえば、昔こんな気分になったことがあった気がする…。

 いつだろう。まだまだあたしがずっと小さくて…ララと会う前?よく覚えてないけど、暖かい膝の上で頭を撫でられたことがあるような…。


 露店で飲み物を買って適当に腰掛ける。

 これからスラム街に行くってアレイフが教えてくれたけど、そんなことより今は膝が気になる…。


「今日なにか変だけど、どうしたの?ミア。」


 いいよね。きっと怒られない。

 ていっとアレイフの膝にごろんと横になる。


「え、ミア?」


 アレイフの膝はあまり大きくないけど、懐かしい感じがした。

 ゴロゴロとまた喉が鳴る。


「本当に、なんか今日のミアは甘えん坊だな。」


 そういうとアレイフはあたしの頭を撫でてくれた。

 あぁ…この感じ、懐かしい。

 もう思い出せないぐらい昔のことなんだけど、同じようなことがあったんだと思う。たぶんこれが幸せっていうんだろうな。

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