第3話 はじめてのお使い
今日ははじめてのお使い!
といっても食材をの買い出しついでに町を案内してもらうだけだ。
なにげに園からでるのはこれがはじめてだったりする。
今日一緒にいくゼフにイレーゼは既に何度も町で買い物をしたり、お使いにいったりしているみたいだ。
町といったが、ここはシュイン皇国の首都、城を中心として東西南北で区切られる区画の中でも一番貧しく、治安の悪い南区になる。
この南区の中ではまだ治安がいい方の地域に孤児院はあるらしい。
東西南北の区は更にいくつかを貴族が領主として管理している。ちなみに偶然だが、孤児院の隣に孤児院が属する地域の領主の屋敷がある。
園長は関係あるかもしれないが、僕らからするとどうでもいい話だ。
今日もそれほど遠出するわけではなく、一番近い商店街を通り、園に食材を届けてくれる業者へ注文にいくだけ。
なので、ほとんど僕の社会見学が目的のようなものだ。
そして今日は、ゼフやイレーゼだけじゃなく、6歳年上のリュッカ姉さんも一緒に行動する。
少し病弱だが、勉強ができ、優しいお姉さんだ。
見た目は少し痩せぎみ、いつも茶髪の長い髪をひとまとめにしているのが特徴で、顔にはそばかすがある。リュッカ姉さんは気にしてるみたいだけど、それも含めて美人だと思う。
僕らとは別の用事だが、治安があまりよくないため、一人での外出は危険ということで、一緒にいくことになった。
ゼフとリュッカ姉さんの後を、僕とイレーゼが並んで歩く。
「姉さん、カバンとか持とうか?あ、見てくれよ。屋台があるぜ。」
ゼフはさっきからリュッカ姉さんにずっと話しかけている。
なんていうか、必死だ。
対するリュッカ姉さんは優しい笑顔でゼフに相槌したり、たしなめたりしている。
「ほんと必死よね...。あからさまにテンション高いし。」
イレーゼも呆れている。
「あぁ!?なんだよ。俺はいつもこんな感じだろ?」
リュッカ姉さんの気を引こうと必死に見えるゼフが後ろを振り返った。
どうやらイレーゼのボヤキが聞こえたらしい。
不機嫌な声をあげてるけど、顔は少し赤い。照れているようだ。
「ほら、ゼフもイレーゼも喧嘩しないの。買い物は商店街でいいの?」
リュッカ姉さんが言い合いになる前に止めにはいる。さすがは姉さんだ。
園にいる年長者はみんな揉める前に上手に止めてくれる。
まだ僕らは年下の喧嘩を上手に止められないので、見習わないといけない。
「買い物はいつものところで?」
「うん。いつものお爺さんとこにこのメモのものを注文しに行くだけよ。」
イレーゼがリュッカ姉さんにメモを渡す。
「調味料ばかりね。注文だけならすぐに終わるから、少し屋台に寄り道しましょうか。」
「よっしゃ~ならあの串焼き行こーぜ!」
ゼフが大喜びで駆け出した。
「またあの串焼きかー好きねぇ」
「イレーゼは食べたことがあるの?あの屋台の串焼き。」
「あいつとお使いにでるとほぼ毎回。」
リュッカ姉さんの問いにうんざり顔のイレーゼが答える。
すでに屋台の前に移動したゼフが店主と何か話している。きっと値切っているんだろう。
「アレイフ、随分大人しいけどどうしたの?」
後ろで静かに話を聞きつつ、街の様子を見ていた僕にリュッカ姉さんが話しかけてきた。
実は初めてみる景色ばかりで、それどころじゃない。
屋台もそうだけど、いろんな店が立ち並んで本当に面白い。
「さすがのアレイフ君も、はじめてのお使いにドキドキなわけですね?」
「しかたないだろ?はじめてみるものばかりなんだから。」
イレーゼに図星を突かれたが、まぁその通りなので、素直に認める。
「まぁ俺たちも最初はそんなだったぜ?」
屋台で肉串を買ってきたゼフがニヤニヤしながら串を渡してくる。
「そういえば、姉さん、定期的に薬取りに行ってるよな?治らないのか?」
牛串を咥えながら歩き出したゼフが問いかけると、リュッカ姉さんはちょっと困ったような、言いづらそうな表情になった。
「えっと、別に病気というわけじゃないんだけどね。なんていうか、月に数日すごく体調が悪くなるのよ。そのためのお薬を貰いに行ってるの。」
「それって持病ってこと?完治しないのか?」
「えっと、それは...なんていうか、女性は皆なるんだけど、体質によって酷かったりするのよ。」
「体質?なんていう病名?」
リュッカ姉さんが更に困った顔になる。
たぶん、ゼフはリュッカ姉さんの病名を聞き出して、治す方法やその病気に効くものを探そうと思っているんだと思う。
でも、僕は知っている。
それは女性がみんな月に数日経験するもので、治るものではないことを。
たぶん、リュッカ姉さんはイレーゼより症状が酷いんだろう。体調とか体質によって個人差があるって聞いたから。
前に、同じように苦しむイレーゼにしつこく聞いて、酷い目にあったから。
そう、あの時のイレーゼは怖かった。純粋に心配していただけなのに、イライラしてたのもあるんだと思うけど、椅子でおもいっきり...。
何もいわず、イレーゼの方を見る。
彼女は、食べ終わった竹串を握りしめていたところだった。
何をするつもりだろう。
ゼフには悪いが、止めないほうが良さそうだ。
イレーゼはそのまま竹串をゼフの頭に突き刺した。
「いってぇーーー!!」
「しつこい!」
ゼフの悲鳴に対してイレーゼは冷静だ。
リュッカ姉さんは驚いて口を開けている。
「何すんだよ!お前馬鹿じゃねぇか!?普通いきなり頭に串をさすか!?」
「あんたがしつこいからよ。」
「口で言えば済むだろ!?」
涙目になってゼフが抗議する。
「ふふふ、ほんとに仲がいいわね。見てて面白いわ。」
「姉さん、こんな暴力女と仲良しなんて勘弁してくれよ。おかげで俺もアレイフもいっつもアザだらけなんだから。なぁ?」
こっちを巻き込もうとするのはやめてほしい。
聞こえなかったフリをしよう。
「あ、こら、聞こえないフリすんな!」
「だ~れ~が、暴力女だって?」
ゼフの襟首を掴むイレーゼ。
「ほら、そこまで。ここは園とは違うのよ?こんな大通りで喧嘩しないの。」
「た、助かった。さすが姉さん。」
「園に戻ったら覚えてなさいよ。」
さすが年長者は違う。
その後も、似たようなやり取りをしながら僕らは常連だというお店で注文をして、薬師のところでリュッカ姉さんの薬をもらい。
3人にいろいろと教わりながら、街をブラブラして帰路についた。
「あれ?なんだろう。」
園の前に馬車が停っている。最初に気づいたイレーゼがリュッカ姉さんの顔を見る。
「豪華な馬車ね。貴族様の馬車かな?今日は特に予定とかはなかったはずだけど。」
リュッカ姉さんが不思議そうにしている。
うちの園には極まれに、園長目当てで貴族様が訪れる。
内容まではわからないけど、魔術師でもある園長に何か相談事をしているみたいだ。
ほとんどの貴族様がお礼をいって帰って行く。
そしてそんな日は貴族様の手土産もある。
「お、いいねーなんかうまいもんでも持ってきてくれたのかな?」
ゼフが嬉しそうに園の入口に入ると、中から園長の怒鳴り声が聞こえてきた。
「そんな馬鹿な話があるか!!」
「そういわれても、......、...。」
「だから...、......。」
久々に聞く、園長の怒鳴り声に僕も含めた4人は入口で立ち止まってしまう。
奥の部屋で園長と数人が話しているみたいだが、最初の怒鳴り声以外はよく聞き取れない。
「取り込み中みたいだから、みんなは部屋に戻って。」
不安な顔をする僕らをリュッカ姉さんが二階に追いやる。
なんの話をしているのか気になったけど、僕らにはどうすることもできず、リュッカ姉さんに言われるまま、僕らはそれぞれの部屋に戻った。
部屋には不安そうな顔をした弟達がいる。怒鳴り声が聞こえたようだ。
彼らに「大丈夫だよ。」と声をかけながら、彼らと話をして時間を潰した。
それからしばらくして、お兄さんが部屋に呼びに来た。
園長は出かけたから先にご飯を食べておくようにとのことだ。
部屋のみんなをつれて食堂に移動する。
園長以外全員そろっているが、みんな不安な顔をしている。
結局、弟達を寝かしつける頃になっても、園長は帰ってこなかった。
園長が帰ってきたのは、僕が起き出してフィーに魔術を教えてもらっている真夜中だった。
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