第13話:それぞれの寮生活


モニカ、リリア、ミロと別れ、俺は一人男子寮へとやってきた。


学園の校舎から徒歩5分程で着いたのは、5階建ての高級ホテルさながらの建物だった。


「俺、これからこんな所に住むのか……」


以前からフィア王女の計らいで王城に泊めてもらうことは何度かあったが、元日本庶民にはこういう建物はやはり慣れない。


とりあえず寮のエントランスカウンターへと向かう。


「すみません、今日からこの寮に住むこととなった、ユウト=ヒビヤです」

「ヒビヤ様ですね、お待ちしておりました。お部屋の準備はできておりますのでご案内いたします」


執事のような成りをした男性職員の後に続く。

俺の部屋は2階の203号室でシングルルームだった。

内装はシンプルではあったが、9畳ほどの広さにシングルベッド、勉強用の机と椅子、大きめの本棚とクローゼットが備え付けてあった。

送り主が王城と分からないようなルートで送った俺の私物もちゃんと運び込まれており、それ以外の生活必需品も揃えてある。

どう見ても一泊数万円するホテルの一室にしか見えない。

ちなみに部屋の種類はシングルの他にシェアハウスのような二人部屋、三人部屋もあるそうだ。


「男子寮の一階にございます寮食堂では、朝食時と夕食時のみ利用可能となっております。必ずこちらで食べなければならないと言うわけではなく、校舎の学食で食べていただいても構いません。お風呂に関しましては、寮食堂と同じく一階に露天付きの温泉がございますのでそちらをご利用ください」


その他寮に関するいくつかの注意事項などを聞き、職員は俺の部屋を後にした。


……よし、とりあえずこういう部屋に来たら最初にやるべき事は一つ!


「ベッドに……ダーイブ!」


バイ〜ン!


「おぉ〜!跳ねる跳ねる!」


非常に心地よい弾力のベッドだ。

これなら毎晩気持ちよく寝れそうだ。


「さて、これからどうすっかなぁ」


やっと落ち着ける場所に着いたんだ。今後の事について色々と考えておこう。


まず、俺が学園生活を送る際に一番の懸念事項となっていたのが学費だ。

受検費と入学費に関しては王族からの支援はあったものの、それ以外の支援は受けないとフィアに誓っていたのだ。

俺は持ち前の魔術に関する知識や技術を武器に、新型魔法などで特許をとって稼いだり、最悪学生兼冒険者となって冒険者ギルドにこっそり所属して稼いだり(ちなみにバレれば一発牢獄行きの犯罪行為)、しようとか考えていた。


だがそんな心配は無用だった。

この学園には存在したのだ、特待生制度が。

入学時にもらったパンフレットによると、各学年の主席は年間の学費や寮の利用料、更にはその他諸々の施設の利用料までとにかく何もかもが全額無料だった。ちなみに次席は半額だ。


もっと言えば制度の対象は俺だけでなく、使用人なども連れていればそちらも無料になるときた。


特待生制度って素晴らしいね!

お金に関する問題が一気に解決したよ!


ただしこの制度は「都落みやこおち」な一面も兼ね備えている。

主席、次席である者は学費等を免除もしくは減額される特権を得るが、学期ごとの定期試験で主席、次席から退いてしまうと即刻制度対象外となる。

つまり学費を払いたくなければ主席の座を何が何でも死守せよという事だ。

逆に考えれば主席であり続ければ学費は問題ない。この件に関しては大丈夫だな。


そして次の懸念事項となっていたのはこの学園の生徒の魔法のレベルについてだ。

何が問題かというと、どれだけ手加減すれば生徒として怪しまれない程度なのか分からないのだ。


今までギルバンド大陸における魔王軍との戦いでは、戦略級の魔法を当たり前のように使ってきた。頑張った時は炎、雷、水の三属性融合魔法で核爆発起こしたりしてた。

そんな俺が勇者であるとこの学園でバレないようにする為には、自分の使う魔法のレベルを周りに合わせなければならないのだ。

もちろん手加減しまくればいいという訳でなく、主席としておかしくない程度にだが。

そこで俺は周りの生徒の実力を知る為にとある秘密兵器を常時使用していた。


「スカウター、オン」


そう呟くと、俺の顔に黒縁のメガネが現れる。

ただのメガネと思う事なかれ。これが俺の秘密兵器、「自立型メーティア式潜在魔力量測定器」

通称「スカウター」だ。

この魔法道具マジックアイテムを身につけていると、メガネの視界に入った者の潜在魔力量を数値で現す事ができるのだ。ステルス機能搭載で、掛けていても透明にして気づかれないようにできる。

勇者時代に敵の実力を瞬時に測れれば戦場で立ち回りやすいという事で王立魔導研究所などと共同で作成した自信作だ。

ちなみに「スカウター」というのは俺の命名である。


とにかく俺はこの道具を使って周りの生徒の潜在魔力量をこっそり測っていたのだ。


潜在魔力量とは、ある一人の魔術師が蓄えておける最大魔力量を指す。車で言えばガソリンタンクの容量みたいなものである。

その量が多いほど強力な魔法を魔力供給なしに単独で使用できるのだ。

しかし数値が高いからといって単純に魔術師として強いとは言いにくいため、あくまで指標だ。


数値の例として、宮廷魔術師が10000〜15000程度、その中でも特に優秀な者は20000を超える事もある。実際に俺と一緒に魔王討伐に参戦した宮廷魔術師達もこのぐらいだった。

そして入学式で新入生を見ていると、大体が3000以下だった。まさに魔術師の卵ってやつだ。


そしてSクラスの面々はどうかというと、平均して7000と優秀であった。

その中でもモニカは8300、リリアに至っては9200と平均以上の値を示していた。


しかし驚いたのは次席のソフィアの値だ。


ソフィアの潜在魔力量はなんと23500。

宮廷魔術師顔負けの高さだった。この値なら氷帝の弟子になるのも頷けるな。

もし俺やミロがいなかったら学年最強どころか学園最強だっただろう。


ところで、今まで他人や魔族ばっかり測って俺自身の潜在魔力量を測った事がなかったな。

一応メガネを掛けてる本人も測定対象に出来るのでやってみよう。




『対象の潜在魔力量:530000』




「フ◯ーザか!!!」


思わず叫んでしまった。

53万か、相当高かったんだな俺。


ちなみにミロはああ見えて潜在魔力量10万ぐらいだった。よく考えれば彼女も大概チートだな。

討伐した魔王は100万以上だった記憶がある。


とにかく、この魔法道具を使った事によって俺と周りの実力差がハッキリした。

潜在魔力量3〜4万ぐらいの実力で通せばまず怪しまれる事はないだろう。


これで第二の問題も解決だ。

他にも色々考える事があるが、とりあえず荷解きを済ませ、寮食堂で夕食をとって風呂に入っておこう。


確か、俺を案内してくれた執事が露天風呂があるとか言ってたな。非常に楽しみだ。



・・・・

・・・

・・



場所は移り、女子寮のとある三人部屋。


「すごい!この三人が同じ部屋だなんて奇跡だよ!」

「部屋割りはランダムと聞いてましたけど、ここまで都合よく被る事なんてあるんでしょうか?」

「ユウト様だけ仲間外れにしてるみたいで申し訳ないのニャ……」


モニカ、リリア、そしてミロがいるのは個人ごとの個室+共用スペースのついたシェアルームである。


「ミロってユウト専属のメイドだっけ?やっぱりご主人様が近くにいないと寂しいの?」

「寂しいというか、なんだか落ち着かないニャ」


王城やその他どこでも常にご主人様の隣にいたミロとしては、ユウトと離れた場所で一夜を明かすだけでも違和感を感じてしまうのだ。

こうしている今もリビングで一人ソワソワしている。まさに「借りてきた猫」である。


「落ち着かない、ですか。そもそも使用人枠で入学したというのに、ご主人様と別々の部屋、もとい別々の建物に住むというのもおかしな話ですね」

「まあでも学園で毎日会えるし、異性の寮への出入りも禁止されているわけじゃ無いんだから」

「確かにそうニャけど……」

「そ・れ・に!」


モニカがミロにずずいと近づいて両手をしっかりと握る。


「私とリリアが寂しくなんてさせないから!ね?リリア!」

「はい、私達もうお友達ですから」


リリアもモニカと同じくミロの手を握る。


「モニカ、リリア、二人ともありがとうニャ」


そして三人は部屋に届いた荷物の整理を開始する。簡単な荷解きなので三人とも数分で終わらせてまたリビングに集まる。


「リリア、今何時かニャ?」

「今は……午後五時です。夕食は七時からとの事だったので、二時間ほど時間がありますね」

「二時間かぁ、何をしようかな?」

「二時間……それだけあるなら十分ニャ」


ミロはそう言うと、スッと自分の部屋に戻りドアを閉める。中からは何やらゴソゴソという音が聞こえてくる。


「「??」」


残された二人が首を傾げていると、


バァン!


と、ミロの部屋のドアが勢いよく開く。


「さあ!お掃除の時間ニャ!」


なんと現れたのはメイド服戦闘服姿のミロ。

装備品は両手箒りょうてぼうきである。


「メイド服!?」

「わぁ、よくお似合いです!わざわざ持ってきていたんですか?」

「もちろんニャ!何時如何いついかなる時も、メイド服と箒だけは手元に置くべし。メイド長からの教えニャ」


ミロは自慢気にそう言うと、更にバケツ、未使用の雑巾、はたきなど、色んな掃除道具を取り出す。


「なんか色々出てきたんだけど……」

「今からこの部屋を完全清掃するニャ。しばらくの間個室に入ってて欲しいのニャ」

「え、でもこの部屋入ったばっかりだし、汚れてなんかないよ?」


するとミロは床にぺたりと座り、つつーっと人差し指を床に這わせる。


「……これだけで埃が3個ついたニャ。この寮の清掃員は一体何をしてるニャ」

「たった3個だよね!?」

「お掃除に妥協は許されないニャ」

「そ、そう」


有無を言わさぬミロの圧力に流石のモニカも黙る。

結局モニカとリリアはミロの言う通り、少しの間部屋に入ることなった。


リビングに一人となったミロは周囲を見渡す。


「内装はそこそこ悪くないニャ。だけど、見た目では分からない細かいところまでの掃除があまり行き届いてないニャ」


ミロは箒を構え「ふふ」と笑う。


ホコリ一つ残さないニャ」


・・・・

・・・

・・


そして約20分後、


「もういいニャー」


そのミロの声を聞いたモニカとリリアが部屋から出ると、


「「ま、眩しいっ!!!!」」


まるで太陽を直接見たかのような輝きに二人は思わず顔を手で覆う。


「なにこれ!?目が!目がぁ!」

「眩しすぎてなにも見えません!」

「大丈夫ニャ。しばらくしたら慣れるニャ」


モニカとリリアがゆっくりと目を開くと、その部屋はまさに別世界であった。


リビング全体に敷き詰められたフローリングの床はまるで鏡のようで、床を見る自分の顔がはっきりと映るほどに極限まで磨き上げられている。

そしてその鏡は天井や壁に至るまで余す事なく広がっており、照明の光を反射し続けている。眩しさの原因はこれだったようだ。

リビング備え付けの椅子や机も木造とは思えない程に輝いており、座るのが勿体無いくらいである。

ソファや絨毯は毛並みが完璧に揃えられ新品同然。

さらにベランダやトイレに至るまでその全てにミロの手が加えられていた。


「ふわぁ、上級貴族の部屋にいるみたい」

「何か別の場所に転移したのかと錯覚してしまいました……」

「私にかかればこんなものニャ!」


えっへんと腰に手を当てるミロ。


「こんなに綺麗にしてもらって、もし汚したらと思うと好きに動けないかも……」

「汚れたらすぐ綺麗にするニャ」

「いいの?ミロに任せちゃうけど」

「もちろんニャ。掃除は好きだし、何よりメイドとしていつもやってた事と変わらないニャ」


普段の言動からは分かりにくいが、ミロは王城という国内トップの豪邸で働き、さらに国内トップのメイド長から直接指導を受けたメイドなのだ。

その得意分野は掃除だけでなく、炊事、洗濯、ご主人様の身嗜みチェック、そして戦闘に至るまで多岐に渡る。

故に彼女のメイドとしての腕は折り紙つきである。


「嬉しい事に三人部屋にはキッチンも備えてあるニャ。今度材料を買ってきて色々ご馳走するニャ」

「本当!?やったぁ!」

「楽しみです!」


こうして、ミスリナ学園女子寮に世界最高(強?)のメイドが降臨する事となった。

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