第12話:モニカ探検隊

ラウザー教授によれば、明日の朝は学園内の施設説明や、校内規則の説明、生徒育成プログラムの紹介があり、昼休みを挟んで午後から実技場にて早速実習授業があるそうだ。


それはともかく、暇になってしまったな。

特に何かする事もないから、これから住む寮にでもお邪魔してみようかと考えていると、


「ねえユウト、ミロ、これから何か用事ある?」


モニカから呼び止められる。


「いや、特にないけど。なあ?ミロ」

「はいニャ」

「なら、私達と一緒に学園を探検しない?」


学園を探検?


「学園内の施設なら明日説明があるって聞いたけど?」


俺がそう言うと、モニカは人差し指を立てて「チッチッチ」と左右に振り、


「確かにそう言われてたけど、流石に学園内の施設全部を明日だけで回れるわけじゃ無いし、それに旅行ツアーみたいに見学するだけじゃつまらないじゃない」


なるほどな。国内最大の敷地を誇るこの学園の全ての施設を回ろうと思えば、一日二日で終わるものではないだろう。

それに、私達って事はリリアも含めての事だろう。クラストップレベルの美少女達と一緒に歩けるとなれば役得だ!よって断る理由は無い!


「確かに面白そうだな。その話乗った!」

「ミロも賛成ニャ」

「やった!じゃあ早速出発ね!」


そして俺、ミロ、モニカ、リリアの四人は学園探検に乗り出した。


「さて、どこに行こうかしら」


教室を出たモニカの一言目がこれだ。

行く場所決めてなかったのか。

仕方ないので最初はどこに行こうかと言う話になったが、


「私、図書館に行ってみたいです」


と言うリリアの希望があり、幸いなことにSクラスの教室から近いところにあったため図書館に向かう事になった。


「〜♫」


モニカが地図を片手に鼻歌を歌いながら俺達の先頭を行く。

しかし、廊下を歩いていると周りからの視線が凄い。モニカとリリアはさる事ながら、ミロも傍から見れば相当な美少女である。さらにケモミミケモシッポのおまけ付きだ。このメンバーで目立つなと言う方が難しい。

そんな視線など気にする素振りも無く軽い足取りの彼女を追っていると、


「ふふっ」


と、隣にいたリリアがそんなモニカを見て微かに笑った。


「リリア?」

「いえ。モニカがいつも以上に楽しそうにしているなと思いまして」

「そうなのか?」


あれがデフォルトだと思ってたんだけどな。


「はい。どうやらユウトはモニカに相当気に入られたみたいですね」

「気に入られるような事をした覚えは無いんだが」


つい先程会ったばっかりだしな。


「モニカは好奇心で動く子なんです。何か興味が湧いたり不思議なものを見つけると構わずにはいられないみたいで……」

「その好奇心が俺に向いたと」

「そういうことです」

「俺、そんなに面白い人間じゃないぞ?」


元勇者という過去はあるもののそれは隠しているし、根本的な人間性で言えば平凡だと自負している。


「主席というだけで十分興味深いと思います」


なるほど、確かにそうだ。

新入生主席になるほどの魔法の使い手であれば、ソフィアのように入学前から有名になるはずだ。しかし全く無名の俺が主席になってしまったのであれば、興味が湧くのも当然だろう。


「まあ、モニカの事ですから多分それだけでは……」

「皆、着いたよ!」


リリアの最後の言葉はモニカに遮られよく聞こえなかった。

顔をあげると、目の前にはこれまた巨大なドーム状の建物。入り口にはきちんと「ミスリナ学園図書館」と書かれている。

近くにいた係の人に聞くと、学園関係者であればいつでも自由に出入りする事ができるらしい。


肝心の図書館の内装は圧巻だった。

見渡す限り、本、本、本。

天井を見上げるとバランスを崩しそうなくらい高い。多分5、6階はあるな。

その階層全てに本棚が所狭しと並んでいる。

もしかしたらこの世界の本が全部揃っているんじゃ無いか?って思えるぐらいだ。


そして、それぞれ確認したいジャンルは違うだろうという事で一旦一人ずつに別れ数分図書館を回ってみる事となった。


モニカは剣術や武術に関する書物を、

リリアは聖書や神話に関する書物を、

ミロは日常生活に役立つハウツー本なんかを探しに行った。

じゃあ俺は魔術に関する書物でも軽くあさってみるか。


図書館案内には魔術関連の本は最上階の6階に置いてあると書かれていた。階段で上がるのは面倒だな。

エレベーターは……ある訳ないか。

仕方ないから案内にあった螺旋らせん階段で登ろう。


「ん?」


豪華な装飾が成された螺旋階段で6階にたどり着いた時、俺は妙な違和感を感じた。

最上階なので螺旋階段はこれ以上続いていないのだが、行き止まりの壁に魔力反応がある。

俺は近づいてその壁に手を当てた。


「これは……結界魔法と幻覚魔法だ」


反応の元は2つの魔法だった。

結界魔法は無属性の防御系の魔法で、物理的干渉や魔術的干渉を遮る魔力障壁を板状もしくは立方体状に展開する魔法だ。

その制御はそこそこ難しく、簡易型の結界魔法でも50個の魔法理論式を必要とする。故に分類では無属性中級魔法に位置している。

幻覚魔法は闇属性の精神干渉系の魔法で、名前の通り対象者に幻覚を見せる魔法である。

魔法理論式は最低でも20個ほど。結界魔法と比べれば難しいものでは無い。


つまりは結界魔法で物理的な壁を作り出し、そこに幻覚魔法で図書館の壁として不自然のないようにカモフラージュしているのだ。

しかも感じ取った魔力反応はとても小さなもので、俺でも下手すれば見逃してしまいそうだった。


「とんでもなく上手に隠蔽いんぺいしてある。間違いない、これは何か隠してるな」


このレベルであれば、やろうと思えば魔法の解除は出来る。

だが、この先にある物がヤバイ物だったりしたら変な事に巻き込まれかねない。


でもちょっと覗くくらいなら……


「君、そこで何をしているんだい?」

「!!!!」


不意に後ろから話しかけられた。

驚いて後ろを振り返ると、メガネをかけた男性が立っていた。着ている服が制服ではないからおそらく図書館の係員だろう。


「い、いえ、なんでもないです」

「そうか?壁に手をかけていたから、気分でも優れないのかと思ってね」

「大丈夫です。すみません、失礼します」


俺はそう言って早々にその場を立ち去る。

あ〜びっくりした。絶対寿命縮んだわ。

あのカモフラージュの件については、気になってしょうがないから後日また調べてみる事としよう。


・・・・

・・・

・・


「ユウト=ヒビヤか。あそこで立ち止まっていたという事は、恐らく私の結界に気がついていたのだろう。流石は話題の新入生主席、と言ったところか。これは更なる改良が必要だな」


眼鏡の男が先ほどの壁に手をかざすと壁のカモフラージュが消え、そこに上りの階段が現れる。


「だが、君が7階に登るにはまだ時が早すぎる。しかるべき『資格』を持っていなければ、この先には進めないのだからね」


男が階段を登り始めると、壁が再度カモフラージュされて階段と男は壁の向こうへと消えていった。


・・・・

・・・

・・


「皆、お目当ての本は見つかった?」

「はい、まだ読んでなかった聖書の一部があったから借りる事にしました」

「東洋料理の本があったから借りてみたニャ」

「俺はとりあえず炎属性魔法の教習本を借りてみた」


時間になったので図書館の入り口付近で再度待ち合わせる。

一応本は借りてみたが、この本の内容は基礎レベルだから既に知っているものばかりだ。

借り方を練習するために借りたようなものである。

魔術と言っても範囲が広いし、今度またお邪魔していい本がないか探して見るか。


「じゃあ次はどこに行こうかしら?」

「とりあえず食堂にでも行かないか?」


図書館の時計を見ると午後一時。

昼食には少し遅い時間となっていた。

腹もいい感じに減っている。


「そういえば、まだ昼食を食べていませんでしたね」

「食べてないのを思い出したらお腹すいてきたわ……ユウトの意見に文句ある人!」


手は上がらなかった。


「じゃあ次は食堂に向かいましょう!」


食堂は図書館から徒歩3分の場所にあった。

パンフレットの情報によれば総座席数は1000席、平日であれば7時から22時まで空いているそうだ。

そして図書館の時と似たように、学園関係者であれば朝昼晩の三食は無料ときた。


最高じゃん!タダで飯が食えるぜ!!!


食堂自体は二階建てとなっており、それぞれの階層にカウンターが備えてある。


「図書館といい、食堂といい、この学園は何でもかんでもビッグサイズだな」

「全生徒数、教員数などの多さから考えれば当然だと思うニャ」

「確かに」


そう、この学園内の総人口は凄まじいのだ。

生徒に関して言えば、学年は本科一年、本科二年、本科三年、本科四年に分かれている。

俺やミロ、モニカ、リリアで言えば現在ミスリナ学園の『本科一年Sクラス』に所属している事となる。

今年の新入生が200名程である事を考えれば単純計算で生徒は800名である。

それだけでない。本学園の教員数はおよそ120名、事務員、作業員、そして学園に併設された魔術研究室の研究員を合わせれば、学園内だけでも総人口は優に千人を超える。

そんな大量の人間をかくまうミスリナ学園はもはや一つの都市と化しているのだ。

ならば施設それぞれが巨大化してしまうのも頷ける。


「しかし、どうやって食べればいいんだ?ここに来たのは初めてだから頼み方とか知らないし」


昼過ぎで席は結構空いているものの、昼食にありつけなければ意味はない。


「そうですね、だれかに聞いてみましょうか……あれ?モニカ?」


リリアがモニカを探して周囲を見渡す。

そういえばいつのまにかモニカの姿が見えなくなっていた。食堂に入った時は一緒にいたよな?

迷子にでもなったのか?と思っていると、


「ユウト様、あそこにいるニャ」


ミロが食堂の中央を指差す。その方向を見ると、


「すみません!A定食とB定食ください!」

「え、ええと、お嬢ちゃん?そんなに食べるのかい?」

「はい!あ、どちらも大盛りで!」


モニカは既にカウンターで注文を始めていた。

どうやらそういうシステムのようだ。

いきなりの二人前の注文に食堂のおばちゃんが苦笑いしてる。

ってか移動したの気づかなかった。

まさか瞬間移動の魔法でも使えるのか?


「もう、モニカったら。ユウト、ミロ、私たちも行きましょう?」


そんなモニカをみてリリアも苦笑していた。

その反応から察するにいつもの事らしい。


カウンターには十数種類のメニューが書かれた看板が立っており、そこで口頭で注文する。

迷うのも面倒くさいから、適当にモニカが頼んでいたやつにするか。


「じゃあ俺はA定食でお願いします」

「あいよ、おまたせ」


カタン、と目の前にA定食が乗ったお盆がやってくる。


「早っ!!」


注文して10秒も経ってないぞ!?


「ハッハッハ!いいリアクションありがとね!でもこんぐらい早くないとピーク時に注文をさばききれないさね」


それもそうか。

この広さの食堂だ。ピーク時の厨房なんかは地獄みたいな忙しさだろうな。


A定食を受け取った俺は空いてる席に四人で座る。

さて、腹も減ってる事だしさっさと食うか。


「いただきます」


俺が両手を合わせいざ食べようとした時、


「ユウト、それは一体なんですか?」


リリアから質問が飛んできた。

「それ」とは「いただきます」の事だろうか?


「俺の故郷の習慣なんだ。食事をする前に料理をしてくれた人と食材を作ってくれた人、そして食材そのものに感謝して、合掌して『いただきます』と言うんだ」

「へぇ、そんな習慣があるんですね」

「もしかして、普通はそういうのってないのか?」

「そうですね、信仰しているオセオス教には食物に関する感謝の儀式はありますが、毎度の食事の際に何かをする、と言うことはありませんね」

「そうなんだ」


そういえば、こちらの世界に来てから飯食う前に何か言ったりジェスチャーしたりする人は見た事がないな。


「しかし、『いただきます』ですか。いい響きですね。私もこれからやってみましょうか」

「いいんじゃないか?何事にも感謝する事は大事だと思うよ」


と言うわけで四人揃って両手を合わせ、


「「「「いただきます(ニャ)」」」」


と言って食事が開始した。



なお、その十数年後オセオス教の経典に、


『食事の際には料理に関わる全てに感謝して「いただきます」と言うべし』


と言う項目が増えることになるのだが、それはまた別のお話である。


・・・・

・・・

・・


料理を食べた後もモニカ探検隊は学園をあちこち探索し、気づけば夕方近くとなっていた。


「そろそろ探検も切り上げたほうがよさそうだな。皆も寮のチェックインがあるだろうし」

「そうね、じゃあ今日はこれぐらいにしようかしら。ユウトは男子寮に向かうのよね?」

「そうなるな」


学園寮は例の如く男子寮と女子寮は別となっている。驚いた事に異性の寮に入る事は一応可能となっている。

ただし条件付きで、異性の寮に入る際はその異性の許可を取り、寮の窓口に申し出ればいいそうだ。

もちろん許可なく不法侵入しようものなら即刻退学の罰が課せられるそうだ。


そして俺の使用人として来たミロは女子寮に住むこととなる。だから寮にいる間は彼女に会う事は基本無い事になるな。


……あれ、使用人って一体何だっけ?

まあいいや。細かいことは後で考えよう。


とりあえずあちこち動き回って疲れた俺は、ミロをモニカとリリアに任せ、一人男子寮に向かうのだった。

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