第11話:自己紹介

長かった入学式が終了し、ぞろぞろとイベントホールから人が流れ出て行く。


とりあえずは教室に行く前にミロと合流しないとな……


「ごしゅ……ユウト様〜!」


と思ってるとミロの方から俺を見つけて駆け寄って来た。


「入学式長くて退屈だったニャ」

「激しく同意だ」


って訳でとりあえずミロと二人でSクラスの教室へと向かう事にした。

校舎の見取り図とSクラスの場所はパンフレットに記載してあったので、地図を頼りに校舎を練り歩く。

道中も結構視線を感じたものの、話しかけてくる人はいなかった。


まあ、話しかけられたら話しかけられたで対応すんの面倒だったから良かったけど。


そして第一学年Sクラスの教室のドア前までたどり着く。


「すぅ〜、はぁ〜。すぅ〜、はぁ〜」

「何やってるニャ。早く入るニャ」

「いやちょっと深呼吸して心の準備をね」

「そんなに緊張する理由がわからないニャ」


よし、覚悟完了。


ミロのちょっと冷たい目線を他所にドアを開ける。


教室は思ってた以上に広かった。

教室の形に沿うように半円状に並んだ長机は、教卓を見下ろす形で階段のように並んでいる。

日本で言えば小中高の教室よりかは大学の教室に近い。

そこにはちらほらと先に着いていた生徒が座っており、場所に規則性は無さそうなのでどうやら席は自由らしい。


「席が自由ならやっぱり窓際だな」


俺は適当に前から三列目の窓際の席に座る。

ミロも俺の隣にちょこんと座る。


「Sクラス二十人にしては教室が大きいような気がするな」

「狭いよりかはましだニャ」

「いや確かにそうだけども」


そう言う事じゃ無くてだなぁ、と言おうとしたら、二人組の女子が窓際に近づいてきた。


「席が自由ならやっぱり窓際よね!」

「ちょっとモニカ、わかったから手を引っ張らないでください……」


二人のうち手を引っ張って先導しているのは赤毛のショートボブの少女。身長はミロよりも少し高めだろうか。スタイルは若干スレンダー寄りだが出るとこはきちんと出ている。

そして彼女に引っ張られ慌てて着いて行くのは、明るい茶髪のロングヘアー女子。見るからに優しくて温厚そうなオーラを放っており、彼女は赤毛の子とは対照的にミロと同等クラスのお胸を携えている。もちろんどちらもとびきりの美少女だ。

東京を二人組で歩いてたら間違いなくスカウトが飛んできて速攻トップアイドル間違いなしってレベルで可愛い。

日本にいた頃ならぼっちだった俺にはまず接点のなかったであろうタイプである。


二人はそのままユウトとミロの目の前の席に並んで座る。そして茶髪の子の方が俺の視線に気がついたのか、申し訳なさそうな顔でこちらを振り向いた。


「あの、いきなり騒がしくてすみません」

「いやいや大丈夫、別に構わないよ」


本当に迷惑してはいないので俺は当たり障りなく返事しておく。


「それなら良いんですけど、ってあれ?もしかして……」


とその子が言うと、隣のモニカとか言った赤毛の子が「あっ!」と声を上げ、身を乗り出して俺の顔を覗き込んできた。


「貴方あれよね!?覚えてる!入学式で新入生代表挨拶してた!」

「あ、あぁ。そうだけど……」


いきなりの急接近に俺は驚いて少し後ろに仰け反る。


てか顔近い顔近い!唾飛ぶレベルで近い!!!

まつげまではっきり見えるくらい接近されてるんだが!?

てか近くで見てもやっぱ可愛いなオイ!


「名前は、確か……なんだったっけ?ユ、ユウ、ユウ……」


しかし彼女は俺の焦燥など知らぬ顔で顎に手を当てウンウン唸り始める。


「そう!思い出した!ユウト=ヒビヤよ!」

「ちょっとモニカ!」


俺が困惑してるのを察したのか、隣の子が首根っこを掴んでモニカ(?)を引き離す。


「なっ、何するのリリア!?」

「何するもなにも彼が困ってますよ……」


ふう、やっと解放された。

でもこのままだとまた謝ってきそうだな。

ここは強引にでも自己紹介に話を持っていこう。


「ちょっと驚いたけど、本当に大丈夫だから。新入生代表挨拶で聞いたと思うけど俺はユウト=ヒビヤって言うんだ。クラスメイトとしてこれからよろしくな」

「モニカ=ハエンよ!」

「私はリリア=オセオス=アシュレイって言います。よろしくね。それで、ええと……」


そう言ってリリアが俺の隣にいるミロに視線を移す。


「ああ、彼女は俺の使用人枠で入学した……」

「ミロ=ネスラルと言うニャ。よろしくニャ」


ミロが立ち上がってスカートを両手で持って一礼する。するとまたもモニカが俺に質問を投げかける。


「使用人?って事はユウトはどこかの貴族?『ヒビヤ』なんて姓は聞いた事ないし、黒髪もここらじゃ珍しいし、もしかして他国からの留学生?しかもその子亜人よね?珍しい……」


こんな質問前にも一回されたなぁ。

面倒臭いし同じように答えておくか。


「まあ、色々事情があってな」


レイオスさんみたいにこれで引いてくれると嬉しいんだけど……


「わかった!色々事情があるのね!」


あ、納得するんだ。

察しがいいのかただの勢いなのかどっちなんだろうか。すると、


「それにしても、ちょっと意外です」


そうリリアが呟く。


「意外ってなにがだ?」

「ええと、ユウトって新入生主席ですよね?これは勝手な私のイメージなんですけど、そう言う実力者ってお硬い性格してるんじゃないかと勝手に思ってまして……その点ユウトはそんな事なさそうだと」

「イメージ通りじゃなくてがっかりしたか?」

「いいえ、話しやすい方がいいに決まってます」


そうして俺が新しく出来たクラスメイトとの親睦を深めようとしていると、突然教室の生徒達がざわめき出した。

何事かと皆の視線の先を追うと、教室の入り口にいたのは見覚えのある水色の髪が特徴的な少女だった。


「ん?あの子は確か……」

「あ!やっぱり彼女もSクラスだったのね!」


モニカが納得したように言う。


「あの人って、モニカは彼女のこと知ってるのか?」

「え!?むしろユウト知らないの?」

「ああ、試験場で見たことあるだけで名前は知らないんだ」


実技試験でほかの生徒と比べて突出した魔法の才能を見せつけていたのが印象的で記憶には残っていたが、試験中は番号で呼ばれるため名前を知る機会はなかったのだ。


「そんなに有名なのか?」

「有名よ!なんたって彼女は『氷帝ひょうてい』ネクロス・グレイスの弟子、ソフィア・グレイスよ!?」

「ひ、氷帝!?」


余談だが、この世界の魔術師には『二つ名』を持つ者がいる。

それは魔術研究において優秀な成果を残したり、魔物・魔族討伐に大きく貢献したなど理由は様々であるが、その功績が讃えられ勲章として、世界中の魔術師を纏め上げる『魔術師協会』と言う組織から授けられることがあるのだ。


そのうちの一種として『みかど』の称号がある。

この世界に存在する10種類の魔法の属性のうち、どれかを最も極めた者のみにそれぞれ与えられる称号であり、炎属性なら炎帝、雷属性なら雷帝、風属性なら風帝と言ったように呼ばれる。


先程名前が挙がったネクロス・グレイスも、『帝』の称号を持つものの一人である。

俺は直接見たことはないが、妙齢の女性だと聞いている。

そして『氷帝』の弟子であるソフィア・グレイスは、世界最高峰の魔術師に才能を認められた存在という事になるのだ。有名になるのも無理はない。


「主席になるぐらいの魔法の使い手なら氷帝が弟子を取ったことぐらい知ってて当然だと思っていたんだけど」

「いやぁ、この歳になるまで魔法の修行ばっかりやってたから、ちょっと世情に疎くてさぁ……」


俺はこの世界に転生してからほとんどの時間をギルバンド大陸で過ごしていたため、そこら辺の情報があまり入って来なかった(というか魔王討伐に関する情報以外は仕入れる意味がなかった)。


まあ、本当のことを言うわけにもいかないので適当にお茶を濁す。


そして当のソフィアは席にも付かず、誰かを探しているのか教室全体を見渡している。

その視線がこちらへと向かい、彼女を見ていた俺と目があった。

そのまま視線をずらすかと思ったが、何故かソフィアは視線を外すことなく俺を見ている。


もしかして探し人は俺なのか?と一瞬思ったが、


「フン」


と俺を一暼いちべつしただけで目をそらし、教室の一番後ろの席に座った。

気のせいだったみたいだ。自意識過剰にも程があるな。


そうこうしているうちに教室に全てのSクラスの生徒が集まっていく。

全生徒21人が席につき終わったとほぼ同時に教室のドアが勢いよく開かれる。


「よーし!全員集まっているようだなァ!」


教室に勢いよく入ってきたのは、腰に剣と顎に髭を携えた筋骨隆々な男性だった。

その男性は黒板前の教卓に着くと、教室全体を見渡した後自己紹介を始める。


「私は今年の第一学年Sクラスの担当教授を務めるラウザー・フェルモンドだ!私がお前たちの面倒を見ることとなった。よろしく頼む!」


この堂々とした立ち振る舞い見たことあるぞ。

確か試験会場で筆記試験の監督をしてたような……


「筆記試験の監督をしていたのでこの中には一度私を見たことのあるやつがいるかもしれんな」


やっぱりそうか。


「と言うわけで、お前たちは新入生の中でもトップの集まった精鋭集団という訳だ。さて、堅苦しい話は抜きにして早速生徒一人ずつ自己紹介と行こうか」


来たよ。

入学直後にやってくる確定イベント自己紹介。

適当に名前と適正属性言ってよろしくお願いしますで十分か。

そしてこういう時すぐに当てられやすい四隅の席を避けて座っているしな。一番気まずいトップバッターになる事はないだろう。


「それでは、そうだな。手始めに主席と次席からやってもらうとしよう」


メーデー!作戦は失敗!作戦は失敗!

なるほど、そういう当て方があったのを失念していた……


「それではまず主席のユウト=ヒビヤ。名前と適正属性とこれからの意気込みなんかを言ってくれればいい」


仕方ない。

第一印象は大事っていうからな。

悪い印象を持たれない様に普通にやろう。


「はじめまして。ユウト=ヒビヤと言います。隣の使用人枠のミロ=ネスラルとともにこの学園に通う事になりました。適正属性は炎と雷のダブルです」


そう言った瞬間、教室が一気に騒がしくなる。


「すごいな、まさかの二属性持ちかよ……」

「炎と雷って相関属性よね?相性抜群じゃない」

「主席の上にダブルか、羨ましい」

「顔もまあ悪くないし、私アリかも」

「使用人の子もなかなか可愛いな」

「天使だ」

「尊い」


うん、印象は悪くなさそうだ。

若干ミロに対する感想もあるようだが気にせず続ける。


「主席なんていう立派な肩書きを頂きましたが、正直あんまり実感ないです。なので、遠慮なく気軽に接して貰えればと思います。これからよろしくお願いします」


締めの言葉とともに一礼し、パチパチという拍手の音を聞きながら席に座る。


「よし。お前らも先程聞いた通り、彼は世界でも珍しい炎と雷の二属性に魔法適正を持つダブルだ。下手な教授よりかは強いかもな!ハッハッハッ!」


すみません。

俺、本当は七属性適正持ちです。


「次は次席、ソフィア=グレイスだ」


ラウザーが指名すると、ソフィアは席から静かに立ち上がり、


「……ソフィア=グレイス。適正属性は氷。よろしく」


そしてこれ以上話す事はないとでも言うように、拍手を待たずに席に着く。


「お、おう、まあいいだろう。それじゃあ次からは俺から見て前方右端から順に自己紹介をしてもらう」


そして自己紹介は再開し、俺のすぐ前にいる二人の番となった。


「私はモニカ=ハエンよ!適正属性は風属性!とは言っても正直魔法使うより剣を振る方が好きなんだけど。とにかくこれからよろしくね!」


まさに天真爛漫といった屈託の無い笑顔に教室が沸き立つ。


「おおーー!よろしくモニカちゃん!」

「ヤベェあの笑顔惚れそう」

「俺と手合わせしようぜ!」

「天使だ」

「尊い」


主に男子が。


「リリア=オセオス=アシュレイと言います。適正属性は光属性です。ミドルネームで察した人もいるかもしれませんが、父がオセオス教の司祭を務めています。よろしくお願い致します」


リリアは目を閉じ両手を合わせ、ゆっくりと一礼する。

オセオス教はアスタリカ王国の国教であり、世界中でも信仰者の多い一神教である。


「リリアちゃんもよろしくーー!!」

「実家が教会なのかぁ、シスター服とか絶対可愛いんだろうなぁ」

「光属性なら回復魔法とかで癒して欲しい」

「天使だ」

「尊い」


二人の人気っぷりは思ったより凄い。

こんなに盛り上がる自己紹介なんて初めてだ。

まあ誰が見ても可愛いから当たり前っちゃ当たり前か。


そして全員の自己紹介が終了し、ラウザーが明日以降の予定の説明をして今日は解散ということとなった。

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