第10話:入学式
時はメルデンス王歴二十年四月一日。
今日は映えある王立ミスリナ学園の入学式が行われる日である。
その早朝、ユウトは王城にて入学式に向けて数人のメイドや執事に囲まれて
これくらい自分でできると遠慮したのだが、
「これからユウト様は学園寮で自活をなさる為、王城に仕える我々はお世話できなくなるのです。そして今日はメイド・執事一同尊敬するユウト様の晴れ舞台でございます。是非とも我々に最後のお世話をさせて頂けませんでしょうか?」
と言われ押し切られてしまった。
そう言うだけあって彼らの手際は素晴らしいものだった。
寝相が悪く毎朝若干爆発気味のマイヘアーは、ヘアメイク担当のメイドが手をかざしただけであら不思議。寝癖は嘘のようになくなり、紳士らしいカッコいいヘアスタイルに早変わり。
顔中の無駄なヒゲや産毛は一瞬でツルツルに剃り上げられ、ものの十数秒で首から上の処理が完了した。
「お立ちください」と言われ椅子から立つと、一人の執事が何処から持ってきたのか俺の体のサイズぴったりの制服を用意してきた。
「なかなかいい制服だな」と思って
……この王城内のメイドと執事って皆魔法使いなんだろうか?
とにかく恐るべき早さで身嗜みを整え終えたユウトは、ミロと待ち合わせた城門へと向かった。
城門前には王城内全ての使用人が道を作るように二列にずらりと並び、その先に式典用のドレスを身に纏ったフィアと、制服姿のミロが立っていた。
ん?制服姿のミロ?
「あ、勇者様!こちらです!!」
「ご主人様〜!遅いのニャ〜!」
俺に気づいた二人は待ちかねたように手を振ってくる。
「え、えーとフィアのその格好はめでたいから何となく分かるけど、どうしてミロはメイド服ではなく制服なんだ?」
「学園内では生徒兼使用人も執事服やメイド服でなく制服を着なくてはならないニャ」
あぁ、そういえば受験の帰りにミロがそんな事を言っていた気がするな。
「ほらほらご主人様!ミロの制服姿はどうなのニャ?」
ミロが制服のスカートを持って嬉しそうにひらっと一回転する。
うーむ。彼女に会って此の方メイド服姿しか見てこなかったからなぁ……なんていうか、新鮮だ。
長めの黒靴下と、魅惑の絶対領域を作り出すチェックのスカート。そこからぴょこんと尻尾が飛び出ている。
上半身は男子制服と同じく白シャツに紺色のブラウスを着ているが、首元はネクタイではなく赤いリボンだ。
そして今まで着ていたメイド服は動きやすいよう大きめに設計されていた為分からなかったが、ミロの胸は意外と大きいほうだった。
アルファベットで表すならDかEってとこだ。
正直に言うと、可愛い。
「うん。とても似合ってるよ。正直驚いた」
「ふふふ、よかったですねミロ?」
「はいニャ!ご主人様の制服姿も似合ってて格好良いニャ!」
「そうですね。とてもお似合いですよ?勇者様」
「お、おう、そうか。ありがと……」
女子に面と向かって格好良いなんで言われた事の無かった俺は少々キョドってしまった。
あれ、俺ってそんなに女耐性無かったか?
「勇者様。いえ、ユウト様……」
するとフィアが一歩前に出て突然俺の両手を握り、先程の笑顔から一変して少し恥ずかしそうな表情を向けてきた。
「ど、どうしたんだフィア?」
「あの、その、ええと」
フィアは俺の両手を握りこんだまま無言で俯いてしまう。
これは流石に俺でも分かるぞ。
いわゆる「行かないで」ってやつだ。
だけどそれを今言うのは間違いだと分かっているのだろう。
「い、いえ!すみませんでした!何でも……」
「待った」
「……え?」
フィアが力を緩めて引っ込めようとしたその手を俺が離すまいと握り返す。
「何もずっとさよならってわけじゃない。住む場所が少し変わっただけで、俺は変わらずアスタリカの住人だ。何かあればすぐに駆けつけられるし、遊びにだって行ける。だから、まぁ大丈夫だ」
こう言う時にあんまり上手いこと言えないのが欠点だなぁ俺。
「はい……そうでしたね。その通りです」
しかしそう言ったフィアの表情に笑みが戻る。
笑顔になってくれたんならいいか。
「分かりました。さよならは言いません。その代わりにユウト様、ミロ。二人とも……」
フィアに合わせて使用人も全員で、
「「「「行ってらっしゃいませ!!!」」」」
「おう!!行ってきます!!」
「行ってきますニャ!」
俺とミロは学園に向けて歩き始めた。
・・・・
・・・
・・
・
しばらく歩いてミスリナ学園に到着する。
校舎前に受付があったので俺の受験票を係の女性に渡す。
「はい、確認できました。受験番号百五十八番、ユウト=ヒビヤ様とその使用人ミロ=ネスラル様ですね。校舎内南方面にございますイベントホールにて入学式が行われます。一般合格者と生徒兼使用人枠は別々の席となっておりますのでご注意ください」
係の人が学園全体の見取り図とパンフレットを俺に手渡す。
礼を言ってその場を立ち去ろうとしたところ、係が「お待ちください」と引き止める。
「ユウト様にはもう一つお渡しするものがございます」
と言って差し出したるは一通の封筒。
「ユウト様は学園の主席合格者ですので、入学式にて新入生代表の挨拶をしていただきます。こちらがその原稿になります」
「し、新入生代表挨拶!?」
そんな大恥ずかしイベントやってくるの!?
まあ原稿が決まってるならまだマシな方か……
「入学式中に『新入生代表挨拶』とアナウンスがあり、ユウト様の名前が呼ばれますので壇上に立って原稿を読み上げ、一礼して席に戻るだけで結構です」
「結構形式的なんですね」
「一応伝統となっておりますが、いきなり新入生代表挨拶をしろと言われても、大抵の学生は自分で原稿なんて用意してませんからね」
ごもっともである。
俺はその封筒を受け取り、見取り図に従ってイベントホールへと向かう。
たどり着いた先には、日本の東◯ドーム級の巨大な洋式の建物があった。
先程係から説明があったようにミロとはホール内で別れ、新入生に用意された椅子に座る。
ホールはあっという間に新入生、在校生、教師陣、保護者、関係者で埋め尽くされた。
すると、
『只今より王暦二十年度、ミスリナ学園入学式を開催いたします』
参加者全員が席に着いた事を確認した司会進行役と思われる在校生が開式宣言を行う。
『では初めに、学園長は急用により不在の為、副学園長からの式辞となります』
ステージに上がってきたのは白ひげを生やした初老の男性だった。
ここからは日本同様、副学園長挨拶、保護者会会長の祝辞と挨拶、教育委員会長挨拶、同窓会長挨拶、更には祝電披露と、長ったらしい話が続いていく。
拍手しまくった手がもう真っ赤っかだよ。
周囲を見るとちょくちょくあくびをしている生徒もいる。
やべ、見てたら俺もあくびしそうに……
『続いて、新入生代表挨拶に移ります』
き、来た!!!
『新入生代表、今年度主席合格者ユウト=ヒビヤ』
「はい!!!」
俺は係に貰った原稿を片手に勢いよく立ち上がる。
それと同時に会場内がざわめいていく。
「あいつが主席合格者?」
「黒髪なんて珍しい……」
「見ない顔だな、他の国からの留学生か?」
そんな興味津々な視線を一気に受けながらステージに立つ。そしてホールを見下ろすと、目に入るのは千人を優に超えるホールいっぱいの人々。
眩しいくらいに輝いて俺を照らす照明。
これは中々のプレッシャーだ。
取り敢えず噛まないようにする事だけを考えよう。
俺は封を切り中の手紙を取り出して読み上げる。
『暖かな春の訪れと共に、私達はこの王立ミスリナ学園の入学式を迎えることが出来、本当に嬉しく思います……
・・・・
・・・
・・
・
……学園長、副学園長を含め、教師の方々、そして在校生の皆様。私達には至らない点が多々有りますでしょうが、どうかご指導ご
パチパチパチと拍手の音が聞こえてくる。
よかった、なんとか噛まずに読み切ることが出来た!これで黒歴史は作らずに済みそうだ。
ホッとした俺は一礼してステージを降り、元の席に戻る。
もちろんその道中も周囲からの視線を集めまくりだ。なんかむず痒いが、慣れるまでの辛抱だ。
その後司会が閉式宣言をして、入学式は終わりとなった。
ここからは自分の所属するクラス毎に別れ、担任教師によるホームルームで今日は終わりになるようだ。
入学式前に係から貰った紙にクラス分けが既に記載してあり、俺はSクラスだった。
この学園はそれぞれの学年毎にSクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラスと分かれており、Sに一番優秀な生徒たちが所属して、その次がA、続いてB、そして一番下がCとなっている。
クラスの分け方は入学試験の成績上位者21人がSクラスとなり、残りを上位から三分割してABCに分けているそうだ。
今年の合格者人数は207人であったが、それとは別にミロを含めた生徒兼使用人枠で合格したのは12人となっていた。
彼らはどこに行くのかというと、基本的に主人と同じクラスにいる事になるようだ。
しかし余りにも実力が離れていてクラスに相応しくない場合は使用人の方が別のクラスに移動する事になるらしい。
まあミロに限って言えばそんな事は無い。
Sクラス名簿表にもきちんと『ミロ=ネスラル』の文字が書いてある。
そしてこの学園は全寮制となっており、外部からの通学は禁止されている。
理由は定かではないが、生徒の自立を促すのには適しているのではないだろうか。
すでに部屋割りも決まっており、各クラスで行われるオリエンテーションが終わり次第入寮する事になるそうだ。
さて、待ちに待った三年越しの学園生活の始まりだ。どんなクラスメイトがいるのやら。
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