第9話:議題『今年の新入生について』

時は少し遡り、入学試験合格者発表の二日前。

全ての受験生の筆記試験と実技試験の採点が終了し、合格者が確定した頃。


その入試結果について、学園内のとある一室で数名の教師陣が円卓を囲み会議を行っていた。


「どうですかな、今年の新入生は」

「合格ラインを突破したのは207名、うち21名がSクラスに所属することとなりました。使用人枠で合格したのは12人となっております」

「ほぅ、Sクラスが21人か!どうやら今年は当たりらしいな」

「全合格者人数も過去最高。年々アスタリカ王国の若者のレベルが上がってきているのはとても嬉しい事ですわ」

「そうですなぁ。しかも今年はあの『氷帝』の弟子も居るとの事」

「ああ、知ってるぞ。アイシャ教授が測定した実技試験の結果は400越え、筆記試験も9割の高得点を叩き出したそうじゃねぇか」

「正確には測定値428、筆記試験90点です」

「そんな細かい事はいいんだよ。とにかくスゲぇで十分だ」

「実技・筆記共に全受験生中最高点数となりますわね。今年の新入生主席は、全員の予想通り彼女で決まりに………」




教師陣全員が円卓の中央に置かれた一枚の紙に目を落とす。




「「「「なると思ったんだけどなぁ………」」」」




そこに書かれていたのは、今年の合格ラインを見事突破したとある受験生の試験結果データであった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


受験番号:158

受験者名:ユウト=ヒビヤ

性別:男

階級:平民

入試区分:一般入試

戸籍所在:アスタリカ王国


試験結果

筆記試験:100点(満点)

実技試験:999点(測定不能)

合計:1099点


順位:1位/207人中


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ぜっっっっったいおかしいだろこの結果!!!」

「まあ、お主の信じられん気持ちはわからんでもないが……うむ。やはり信じられん」

「筆記試験満点は流石にあり得ないですわ。もしかしたら試験内容が事前に漏れていたのではありませんの?」


三人の教授がユウト=ヒビヤという男に疑念を抱く中、残りの一人の女性教授が「いえ」と口を開く。


「筆記試験において、彼が不正を行ったという事実はないと断言できます」

「どうしてそう言い切れるんだ?」

「そうですわ!あり得ませんわよ!」

「無いと断言できる理由を聞かせてもらおうかの?」

「何故なら、今回の筆記試験は満点獲得者が出ない前提で作られた問題だったからです」

「満点が出ない?どう言う事だそりゃ」

「現に彼が満点を取っているではありませんの」


「実は試験の最終問題に、

『直角三角形の三辺の長さについて、直角を挟んだ二辺の長さをそれぞれ二乗した値の和が斜辺の長さを二乗した値に等しい事を証明せよ』

というものがございます。数学者たちによれば、この性質は「三平方性質」と呼ばれており、様々な数値においてこの現象が確認できたのですが、何故この様な事が起こるのかの証明が未だなされていない、つまり未解決問題であったのです」


「はあ!?学者でも分かんねえ問題を入試試験に出したってのか!?」


「はい。この『三平方性質』は『魔法陣数学』と呼ばれる学問分野において非常に重要な性質となっており、この法則が発見された事により魔法陣形成の効率化と縮小化に成功しました。そしてその本質を知る事が出来ればさらなる魔術の発展につながるという事で研究が進められていたのです。しかし何年経っても解決の糸口が見つけられなかった学者達はついにプライドを捨て、『少しでも受験生の回答からヒントが得られれば儲け物』とダメ元で試験問題に三平方性質の証明問題を出したのです」


「もしかして……このユウト=ヒビヤという受験生はそれを解いたんですの!?」


「はい、それはもう見事に。数年間数学者達を苦しめた難問は、突然現れた受験生にあっさりと解答され、晴れて『三平方性質』は『三平方定理』と名前を変えました」

「学者の面目丸潰れじゃねぇか」

「実際に自殺をしようとした者が数人いました」

「まじかよ!!」

「まあ全員未遂に終わったそうですが」

「そ、それならいいけどよ……」

「そうですね。そして、その『三平方定理』の証明問題は完答で10点満点です。ゆえに事実上の満点である90点を超え、本当の満点にたどり着いたのはユウト=ヒビヤのみだった、という訳なのです」

「成る程のぅ。それが不正をしていないと断言できる理由か。まさか我が国最高峰の学者をも凌ぐ頭脳の持ち主とは恐れ入るわい」


「というかさっきから筆記についてばかり協議してるが、実技試験の結果もすげえだろ?999だぜ999」

「確かにそちらも凄まじいですわね……」

「しかしこれはアイシャ教授の測定機器によって正確に測定された結果ですので、それを疑うという事は彼女の技術を疑う事になりますが?」

「別に俺はアイシャ教授の腕を疑ってる訳じゃない。現にこっちに関しては俺は納得してる。なんせ俺はユウト=ヒビヤの実技試験をこの目で見たんだからな」

「ほう?それは本当かの」

「ああ、たまたま入試試験中に空き時間が出来てな。休憩がてら今年の受験生のレベルがどんなもんか見てやるかって実技場で見学してたんだ。そしたら例の『氷帝』の弟子がいて、物凄い詠唱速度で氷属性の中級魔法を行使しているのに感心していたら、あのユウトとかいう男子生徒はそれよりもはるかに早く……いやあれはもう無詠唱レベルで上級の炎属性魔法を行使したんだ。全員、試験中に地震みたいな揺れを感じなかったか?」

「ええ、感じましたわ、それに凄まじい魔力爆発の反応も」

「私も、筆記試験の監督中だったのですがとても驚きました」

わしも感じたのう」

「それは彼が放った魔法によるものだ。学園の敷地内全域を揺する程の威力の魔術を、汗ひとつ流さずしかも無詠唱で放ちやがった。人間かどうか疑ったね」


それから四人は気の済むまで彼について話し合ったものの、結局結論は……


「と言うわけで、今年の新入生主席はユウト=ヒビヤとする。これで異論ないな」

「ありません」

「はぁ……ありませんわ」

「異論なしだ」


突然アスタリカ王国に現れた無名の天才、ユウト=ヒビヤ。

彼がこの世界を救った世界最強の勇者本人である事など彼らには知るよしもなく、教師陣は彼に対する期待とともに、「どうなることやら」と言い様のない不安を感じるのであった。

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