第8話:合格発表


ミスリナ学園の入試結果が発表されるのは試験日から一週間後となっている。


もし日本であればメールや郵送などで試験結果を知る事が出来るだろうが、ここは異世界。そんな便利なもんは存在しない。


よって試験結果を知るためには、一週間後に学園の校門前に張り出される合格者番号一覧表を直接見に行く必要があるのだ。


・・・・


・・・


・・



入試試験から一週間が経った。

ユウトは試験結果を見に行くために、メイド姿のミロを連れて学園へと二人で向かっていた。


「あ〜緊張するわ〜」


「ご主人様が不合格になるなんてあり得ないニャ。心配する事ないニャ」


「いやそうかもしれないけど、なんかこう……雰囲気でな」


たどり着いた学園前では、これから発表される合格発表を見ようと多くの人々が集まっていた。

見たところ受験者とその両親といった感じで来ている者が多く、皆緊張の面持(おもも)ちで結果を待っていた。


「この辺は日本にいた頃とあまり変わらないみたいだな」


そして少し待っていると学園の教師と思われる者が数人、校舎から出てくるのが見えた。

その手には丸められた紙が握られている。

おそらくあれに番号が書いてあるのだろう。


騒がしかった校門前は一気に静かになり、その教師陣に視線が集まる。


「只今より、王立ミスリナ学園入学試験の合格者発表を行います。合格者は氏名ではなく番号で書かれておりますので、お間違えのないようお気をつけくださいませ。それでは番号の掲示を行います」


教師陣が校門前に合格者番号の書かれた紙を貼り付けていく。


それと同時に校門前は騒がしくなっていく。


「あ、あった!!!私の番号!!!453!!やったあー!!!」

「115、123、139。まじかよ…125がない!?そんなぁ……」


合否結果で人々が騒ぎ立てる中、ユウトとミロもユウトの受験番号である158を探す。




〜一般合格者番号〜


002 039 085 139 172

013 042 092 149 183

016 047 102 151 185

019 058 115 159 193

026 072 123 168 209………





「あ、あれ?158は?」


ない。

158がどこを探してもない。

151の次はなぜか158ではなく159だ。


ユウトは目をゴシゴシと擦り、もう一度紙を見る。





〜一般合格者番号〜


002 039 085 139 172

013 042 092 149 183

016 047 102 151 185

019 058 115 159 193

026 072 123 168 209………




変わってない。

なぜ番号がない?

筆記試験は確実に満点のはず。

実技試験は合格ラインを大きく超える結果を出した。

これで合格してないなんてありえない……筈だ。


「え?え?どういう事ニャ?ご主人様の番号が……ご主人様の番号が!?」


ようやく事態を理解したミロが、目をパチクリさせながら驚愕する。


「ご、ご主人様どうなっているのニャ!?ご主人様が不合格なんてありえないのニャァ!」


「お、俺が知りたいぐらいだよ……」


どういう事だ?筆記試験中どこかでケアレスミスをしてしまったのだろうか。

もしや実技試験の結果が余りにもおかしな数値だったために不正してるとみなされたとか?


「ご主人様、ちょっといってくるニャ」


頭を抱えた俺がふとミロを見ると、据わった目をした彼女は覚束おぼつかない足取りで学園の中に入ろうとしていた。俺は慌ててミロの手を取り引き止める。


「ちょ!ちょっとミロ!!どこいく気だ!?」


「どこも何も職員室……いや、この学園で一番偉い人がいる学園長室ニャ。直談判じかだんぱんしてくるニャ」


「待て待て待て!!そんな事しなくていいから!!余計恥ずかしいから!!!」


「おかしいニャ。ご主人様が不合格なんて……なにかの間違いニャ」


そう言ってミロは俺の言う事も聞かず校舎に向かおうとする。


ってかさっきから全力で引っ張ってるのにミロの体が全く動かない!


もともとケットシーなどの半獣人は人間と比べて野生の本能が強く気性が荒い傾向がある。

そしてミロの身体能力は半獣人らしく高かったが、間違いなく今の彼女は本気マジだ。


つまり俺が合格してない事に苛立ったミロの学園長室への直談判(襲撃)を許してしまったら、間違いなくタダでは済まない!


……あんまりこう言う事は言いたくないんだけどな。


「ミロ!今やろうとしている事をやめろ!これは命令だ!」


「っ!!」


『命令』という言葉にビクッとしたミロはその足を止めこちらを振り向く。その目にはきちんと光が灯っていた。


「直談判なんて恥ずかしい事はやめてくれ。冷静になるんだ。国家の重要機関である学園が不正なんてするわけがないだろう。理由は分からないが、とにかく俺は不合格だったんだ」


真相の解明よりもミロを落ち着かせる事が最優先だ。

ようやく自分の行いの愚かさに気がついたミロは、耳をぺたんと畳んで逆立っていた尻尾を下ろす。


「も、申し訳無いのニャご主人様。如何様いかようにも罰を……」


そうして彼女が俺に謝罪を述べたその時、俺たちに近づく一人の影があった。


「あれ、君は確かユウト君だったよね?久しぶりだね」


声がした方を向くと、そこには先日学園を見学した際に話をした制服を着た金髪の男性がいた。

名前は確か、レイオス=フレイドル。

学園の副生徒会長だったか?


「は、はい、お久しぶりですレイオスさん。すみません、騒がしくて」


「いやいや、学園の合格発表が騒がしいのはいつものことさ」


そういうフレイドルに気がついたのか、周りの受験生や保護者たちがざわつき始めた。


「ちょっとあれ見て!フレイドル様よ!」とか、「彼と話をしているのは何者だ?」という声が聞こえてくる。


おそらく彼は広く顔が知られた有名人なのだろう。貴族としての立場からしてもそれは頷ける。

しかし今の俺にはそんな事を気にしている余裕はなかった。


「あの、すみませんフレイドルさん。実は入試結果が……」


「ああ、副会長として話はすでに聞いてるよ。受験合格、おめでとう。これで晴れて君は学園生だね。歓迎するよ」


「え……?」


入試結果は不合格だった、と言おうと思ったのだが、フレイドルから投げかけられたのはまさかの賞賛の言葉だった。


「あれ?何やら君達浮かない顔をしているようだけれど、どうしたんだい?」


「どうしたも何も、自分は不合格だったのですが……?」


「不合格、君が?ハハハ、まさか。君程優秀な成績を残した者をどうして不合格にする必要があるんだい?」


「いえ、だって自分の受験番号が合格者一覧に載っていなかったので」


「そんな筈は無い。君の番号はきちんと載っている。一般合格者欄とは違う、『主席・次席合格者欄』にね」


そう言って彼が指差したのは、一般合格者欄とは別に書かれたもっと左の欄。

そこに書かれていたのは……





〜主席・次席合格者番号〜


主席合格者:158

次席合格者:154





「あ、あった。俺の番号……」


そこには確かに俺の受験番号が書いてあった。

どうやら一般合格者欄と区別してある事に気付かず見逃していたようだ。


「筆記試験は未だかつてない満点。実技試験に至っては測定器の限界値を超えて破壊してしまうほどの威力を持つ魔法の使い手。これ程優秀な生徒は他にいない。君の主席合格は当然の結果だよ」


「まさか主席合格、次席合格が別枠で発表されているなんて知らなかったです」


「あぁ、成る程。だから自分の番号を見つけられなくて不合格だと思っていたんだね。でも心配する必要はない。君は正真正銘の合格者だ。これから宜しく、ユウト君」


「はい!こちらこそ宜しくお願いします!」


俺はレイオスの出した右手をしっかりと握る。


「それでは私はこれから生徒会の業務があるのでね、これで失礼するよ」


レイオスはそう言い残し学園の中に入っていった。


____そういえばさっきからミロが静かだ。

ミロの方を見るとちょっと落ち込んだままだったが、耳が立って尻尾が左右に揺れている。喜んではいるようだ。


「おい、あまり落ち込むなって。結果的に合格してたんだからさ」


「はいニャ。でも、合格してて本当に良かったニャ。主席とはやっぱり流石はご主人様ニャ!!」


「おだてても罪は消えないからな」


「ニャウ!?」


どうやら図星だな。


「なあミロ?さっき、『如何様にも罰を』って言ったよなぁ?」


「ご、ご主人様?目が怖いのニャ……」


「さあて、ナニをしてもらおうかねぇ?」


「お手柔らかに……なのニャ」


あんまりいじめるのは可哀想なので、耳と尻尾ナデナデで許してやる事にした。

城に帰ったらお触りタイムだな。


とにかく合格してて良かった。

主席合格という箔がついてしまったのは予想外だが、これで(完全完璧に)学園生となることが出来た。


・・・・


・・・


・・



ユウトとミロが学園を立ち去った後、主席・次席合格者欄の前に一人の受験生が立っていた。


「この私が、次席……?」


私の受験番号は154。その番号の左には間違いなく次席と書かれている。


そして主席の座を私から勝ち取ったのは受験番号158。受験時の席順からしておそらく算術のテストの後に話しかけてきたあの男だ。


「ありえない……」


自然と言葉が漏れてしまう。


私は学園に主席で入るために、寝る間も惜しんで勉学に励み、魔術の研鑽けんさんを積み続けてきた。

魔術にも算術にも高い才能があった私が血のにじむような努力してきたのだ。


受験者の誰にも負けないと自負していた。


なのに……あの男はそれを軽々と超えて行った。


極め付けは実技試験での凄まじい炎属性魔法だ。


彼の使った中級魔法である【インフェルノ】は、どう考えても中級の威力ではなかった。

しかもよくよく思い出してみれば無詠唱だった気がする。


更に彼が言うには適正属性が炎と雷のダブル。

二属性の魔法が使えると言うだけで、魔導師としては貴重な存在である。


「あの男は一体何者?」


いくら考えたところで答えは出てこない。

どうせ彼とは学園で会えるのだ。

その時に改めて示せばいい、私の方が上だと。


そうだ。

私はこの学園の誰にも負けてはいけない。

一番にならなくてはいけない。


いつの日か、あの時死ぬ運命にあった私を救ってくれた『勇者』に認めてもらう為に。

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