第21問 Tクラスってなに?
春期講習が終わってすぐのこと。
休日、僕たちテントリ生の新3年生全員がテントリに集まっていた。
テントリはテストが近くなると土日も解放されるけど、まだ学校の始業式も始まってないこんな時期にみんなが集まるのは珍しい。
呼び出された理由は、テントリ内のテストを受けるためだった。
講師の勇気先生たち曰く、これからのクラス分けの参考資料とするらしい。
「だから一生懸命解けよ!」
了解。
この学年でクラスが複数できて以来ずっとBクラスの僕は、1軍であるAクラス入りを目指してテストに臨んだ。
念のため付け加えると。
Aクラスが1軍だと思ってるのは僕の個人的な考えで、先生たちが言ってるわけじゃない。
どういう基準でクラス分けをしているかは不明だけど、Aクラスには
さあ、目指せAクラス入り!
僕は講師の声すらしない、いつになくしんと静まったテントリ内で、テストに臨むのだった。
それから数日後、僕は
あの狐塚先生から僕に!?
狐塚先生は僕の学年では主にAクラスを担当しているから、体験授業と入塾初期のとき以来、あまり授業で教えてもらう機会がない。
と言っても、狐塚先生はいつもテントリにいるようなここの
教え方が丁寧で、どんな問題でもすぐに解説してくれるから、毎日助かってる。これがテントリに来てよかったと思う理由の1つだ。
この塾では講師と生徒の距離が近い。
狐塚先生だけじゃなく、ここの先生たちは忙しそうでもすぐに質問に対応してくれるし、本当に忙しくても他の先生を連れてきて迅速に対応してくれる。
聞いてないし、呼んでなくても、いつの間にか隣の席に座ってて「何か分からないことある?」とイケメンボイスで声を掛けてくれる。特に栗原先生。
分からないところを分かるまで根気強く教えてくれるから、勉強も捗るというものだ。
自分の担任する生徒以外も手厚くサポート!
自分のことより生徒の疑問を解決!
それが! テントリクオリティーだ!
閑話休題。
その超親切でAクラス担当の狐塚先生から授業の予定表をもらった。
これは遂に僕もAクラス入りか!?
栄転ってやつだ!
あの塾内テストで成績がよかったんだ!
はい、個人的にそう思っただけです。
狐塚先生が塾長って立場だから、それで直々に渡されただけかもしれないし。
てか今までも狐塚先生から渡されてたような気がしてきた。それか郵送。
そして――
テントリで今後の授業の予定表が渡されてすぐのこと。
「おい、ヒッシー! 昨日なんで塾サボったんだよ!」
「え?」
僕は学校でクラスメイトで野球部のヨッシーやカズから絡まれる。
2人ともテントリ生だ。
誰が塾をサボっただと!?
僕? あり得ない!
早く帰れと言われても、区切りがいいところまでやるまで帰らないはた迷惑な生徒の1人だぞ、僕は!?
でも……。
ヨッシーとカズとは、春期講習が終わるまで同じBクラスだった。
その2人が昨日は授業があったのか。
カズはともかく、ヨッシーがCクラスに落ちたとは考え難いしなぁ。カズはともかく。
「予定表に昨日は授業なしって書いてあったけど……?」
「え!? 授業あったよ!」
「ヒッシー、クラス変わったんじゃない?」
これは……。
Aクラス入りが現実味を帯びてきたんじゃないのか?
Cクラスではないと思うんだよなぁ。
「Bクラス、ほとんど全員いたもんね」
「ヒッシーとナッカーと、あと山口もいなかった」
「遂にヒッシーもAクラス入りか~」
「てか今まで俺たちと同じクラスだったのが不思議だったよな」
「え~、そんなぁ~。買いかぶり過ぎですぅ~。そんなことないですってぇ~」
「こいつ、調子乗ってる!」
「なんでそんなぶりっこみたいなキモい言い方するの?」
「キモいとか平気で言うな!」
そんな一幕があって、この日授業を迎える僕は期待に胸を高鳴らせていた。
しかし――
テントリに到着した僕は、入口で出迎えた狐塚先生に案内され、教室に入る。
すると、先に教室にいた山口さんが一番前の席からちらっと振り返り、「おはよー」と言ってきた。
どこの業界だ、ここは!
そして、僕の定位置である一番後ろの隅の席には、近所の友達のナッカーがいた。下を向いて仮眠していたナッカーは「おぉ!」と目を見開いて、僕と掌をばちんと打ち付け合う。
ナッカーと山口さんとは先日まで同じBクラスだったけど、2人ともAクラス配属になったのか?
そう言えば、学校でヨッシーとカズがナッカーたちもいなかったって、言ってたな。
でも、肝心のAクラスメンバーがまだ1人もいない。
ショータ、トダッチ、カイトのAクラス野球部トリオもまだ来てない。
もしかしたらAクラスの人たちはギリギリまで来ないで、自己の研鑽に時間を充てているのかもしれない。迷惑な話。
すると間もなく、僕たちの教室に続々と生徒が集まってきた。
野球部部長のナオユキ。
同じく野球部だけど、幽霊部員のオッサー。
サッカー少年で不良生徒たちとつるんでるケイタ。
そして山口さんと同じ女バスで僕たちの学校で学年一の美女と僕が勝手に噂してる高橋さん。
みんなBクラスからCクラスまでの生徒だ。
どういうこと?
まだ教室には少し余裕があるけど、Aクラスのメンバーが来たらパンクしそうだぞ……。
すると、その疑問に答えるような瞬間が訪れた。
「あれ、ここAクラス?」
と、教室の入口から顔だけ出して訊ねてきたのは、Aクラスのイマサトだ。
イマサト。
テントリに僕より前からいた古株の1人で、成績も1年生の頃から400点を超えるくらい優秀だ。
今は僕も追い付けたけど、テストの度にいい勝負をしている。
力関係にすると《
質問するとき手が「かかってこい」の動きをしてるため、その度に栗原先生が袖をたくしあげるような動きをしながら勢いよく向かっていくというシュールな光景を目にする。
「またやってるよ~」と、今やテントリ名物と化してるけど、「それやめろ」って栗原先生からよく怒られてる。
「俺たちも聞いてないから、分からないよね」
イマサトの質問に、ナオユキは僕たちに同意を求めるように見回した。
「え、菱沼、Aクラスじゃないの?」
ちょっとイマサト!?
そういうのみんなが聞いてる前で言うのやめて!
余計な恨みは買いたくないんだよ!
「いやー分かんないっす」
「調子乗んなや~!」
隣の席のナッカーが笑顔で肩をどついてくる。
いやほんと調子乗ってないっすよ!
勘違いされやすいんかな~、損な役回りやわ~。
勘弁してほしいわ、ほんまに。
「サトシ、教室こっちね!」
すると行き場に迷っていたイマサトは、狐塚先生に言われて違う教室に入っていった。僕はお手洗いに行くついでに、イマサトの入っていった教室の中をちらっと覗く。Aクラスの人たち、みんないた。
どういうこと!?
僕たちAでもない。Bでもない。Cでもない……てかAクラスじゃないのか。
まあ、クラスによって何が変わるかなんて知らないけど、なんかAクラスってかっこいいじゃん! 名誉じゃん! 誇りじゃん!
すると間もなく。
勇気先生がテントリに到着し、教室に入ってきた。
そして――
「このクラスはTクラスです」
そう宣言するのだった。
* * *
「Tクラスってなんですか?」
「レベル的にどのへん?」
「Aクラスよりは下でしょ」
勇気先生の言葉に、みんな興味津々だ。
「Tクラスの“T”はテントリの“T”です」
『…………』
みんな沈黙。
「は?」って小さく言ったり、静まった空気がおかしくてくすくす笑ってる。
よく分からない説明ありがとう。
「先の塾内テストには実は仕掛けがあって、その問題を解けた子たちがみなさんです」
てか勇気先生がさっきから「です」とか敬語使ってる。珍しい。
ん!?
今何と?
一部の問題を解けた特別な生徒?
それって才能あるってことですか!? ですよね!
千万分の一の才能くらいですか!?
いや~、そんな天才とか照れますぅ~。
「君たちは特別な生徒です」
マジだった!?
そんなふうに言われたら、やる気出ちゃうな~、ほんと。
「でも、現時点での実力はまだまだです。その才能を活かせてません」
お、おう……。
さ、流石、勇気先生。
しっかりと釘を刺してきた。
「受験までともに頑張ろう。君たちはできる」
勇気先生は最後、そう固い感じで締めて授業を始めた。
肝心の授業内容はというと……。
Bクラスにいたときと、レベル的にはそんなに変わらない感じがした。
まあ、今の他クラスの進行度とか、授業内容とか知らないから、比べようがないけど。
でも、塾内テストでなんか仕掛けられてたのにも気付かなかったわけだし、今回も僕たちが感知できない何かがあるのかな?
そんなこんなで。
僕は長期に渡り在籍したBクラスを離れ、突如誕生したテントリの“T”クラスに移ることになった。
ん~、わけわからん。
* * *
そして4月になり。
将来有望な1年生が野球部にもたくさん入って来て。
1年生を加えた僕たち
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます