第20問 レギュラーになりたい?
放課後、
足の裏の怪我から復帰した僕は、久しぶりに部員たちと混じって練習することになった。
そして練習前のミーティング。
テルミは色々と話をした後、最後にこう付け加えた。
「いつまでも自分のポジションがあると思うな」
ん~、どういうこと?
またテルミ節炸裂ですか?
よく分からないが、ここ2週間くらいは部でろくに練習してなかったから、心も身体も万全だ。
久しぶりにキャッチボールができてすごく楽しい。
これで試合がなければもっといいのに。
試合になるとつまらないんだよなぁ。
なんかミスするとテルミにすごく怒られるし。
あんな風に皆の前で、相手チームの前で怒られるくらいなら、試合なんて出たくないわ。恥を晒すリスクが増えるだけ。
百害あって一利なし!
僕はこうやって普通に野球をやれればそれでいい。
野球そのものは楽しいから。
キャッチボールをしながらそんなことを考える。
そう思ってたけど……。
迎えた休日の練習試合。
練習試合のときは少なくとも1日で2試合はやる。
僕のチームはまず1試合目に1軍メンバーが出場し、次の試合に2軍のメンバーが出場する。
相手チームが複数の場合は、テルミがガチンコ勝負したいと思った方に1軍メンバーをぶつけるけど、まあ試合に出るメンバーを見ればみんな大体テルミの意図を察するわけだ。
あいつと、あいつと、あいつが出てる……ってことはこの試合は1軍の出番か、みたいな。
そして今日の第1試合、試合前のミーティングで部長のナオユキが大声で読み上げたスターティングメンバーに、僕の名前はなかった。
スタメンは全員1軍常連の選手。ただ1人――ダイスケを除いて。
スタメン発表後、ダイスケと仲がいいレギュラーのトダッチと同じくレギュラーで1個下のユートが「おぉ!」と笑顔を浮かべながら、ダイスケの肩や脇をバシバシ叩く。
いつもつるんでるから、よっぽど嬉しいんだろう。
僕としてはちょっと複雑だけど。
「あざっす! あざーっす!」
ダイスケは照れくさそうに、にこにこしながらそう言った。
ダイスケ。
僕と同じ野球未経験者で、小学生の頃はサッカーをしていたらしい。
入ってからしばらくの間は守備がザル過ぎて、対外試合に初めて出たのは僕たちの代になってから。
これは同輩の中で1番遅い。
まあ、同輩のうち半分以上が1個上の先輩がいたときは試合に出られなかったから、部で1番下手ってわけじゃないけど。
因みに、ナオユキとカズ、ショータ、トダッチ、今は亡きアツシ、軍曹、僕の7人は同期の中では早く出世できて、先輩たちと一緒に試合に出させてもらっていた。
閑話休題。
あのダイスケが遂に1軍かぁ。
2軍のレギュラーって感じだったから、ちょっと感慨深いものがある。
「ヒッシーなんでそんな守備上手いの!?」とか。
「絶対野球経験者でしょ!」とか、1年生の頃ダイスケから褒められたけど、お世辞でも嬉しかった。
そして1軍に抜擢されたダイスケは――
僕がベンチを温め続けた試合でバントを決め、守備でもきちんとアウトにすべきところをアウトにし、さらにはタイムリーヒットまで打った。
こ、これは……。
ポジションも同じ外野手だし、普段の僕より活躍してる。
なんだろう、素直に喜べないこの感じ。
こんな気持ち初めてだ。
そしてこの試合でテルミの期待に応えたダイスケは、一気に1軍常連の選手となった。
一方僕はダイスケと入れ替わる形で、2軍暮らしが始まったのだ。
そしてこの中学2年も終わりに差しかかる時期に。
頭角を現し始めたのはダイスケだけではない。
同輩のコーヘイと1個下の竹嶋も1軍の試合に呼ばれるようになった。
コーヘイはイケメンで運動神経抜群の兄がいる冴えない弟キャラ。部活動や下校するときもよく一緒で、休みの日にも遊ぶ仲だ。
肝心のコーヘイの野球の実力はというと、守備は小学生以下。でも冬休みの練習くらいから自宅で素振りを始めたらしく、そこから一気に打撃が開花した。
テルミの方針でうちのチームは守備ができないとスタメンでは使われないけど、コーヘイは代打の神様として1軍で使われ始めた。
1個下の竹嶋もその俊足を買われて、代走として1軍に仲間入り。
ここに来て1軍メンバーの顔ぶれが少し変わった。
そして来る春休み。
僕たち大刀中野球部は僕たちの市の代表として、隣の市で開催される大会に出場した。
背番号を付けて出る公式戦だ。
大会には色々な地域から選抜された学校が参加し、会場となる大きな運動公園にはあっちにもこっちにも見たことも聞いたこともない学校のチームが。
大会は選手入場の行進から始まり、優勝旗返還やお偉いさんの挨拶など超かったるい……失礼。たいへんしまったプログラムとなっております。
僕たちのチームが選手されたのは「グラウンドがすごく綺麗だから」だそうだ。間違っても実力じゃない。1個上の先輩たちは実力もあったから、招待されるのは分かるけど……。
大刀中のグラウンドに来た他校の監督たちが「グラウンドがよく整備されてますね!」と口々に言うらしく、それがこの大会への2年連続の出場にも繋がったからテルミもご機嫌だ。
練習後いつもグラウンド整備をしてる僕たちからすれば、テルミの厳しい監視の元、いつもヒヤヒヤしてるけどね。
まあ、とにかく。
僕たちは市内の公式戦以外で貴重な真剣勝負の場をいただけたわけだ。
ありがたい話である。
でも、この大会で僕の背番号は二桁「12番」。
1軍で代打として出場の機会を増やしているコーヘイは僕より1つ前の「11番」だ。
コーヘイは背番号を渡されたとき「菱沼に勝ったぁああああああ!」ってめっちゃ喜んでて、そのことでしばらく「俺の方が上手い」とか抜かしてたけど、言い返せねぇ。
そして間もなく始まった試合でベンチスタートとなった僕は、背番号「7」のダイスケやコーヘイ、竹嶋が試合で躍動する様子をまざまざと見せつけられた。
相手チームは僕たちとは違う地域だけど、そこで新人戦ベスト4の実力。全4校でベスト4とかいうぱちもんではなく。
試合は5回終了まで1対2の接戦だったけど、追い上げムードの流れを自分たちのミスで潰し、結局最後は突き放されて1対6で敗れた。
チームは初戦で大会を去ることになったけど、この大会に出たことで僕の中で変化があった。
レギュラーだった頃は、試合の度に「誰か僕と代わってくれ……」って思ってたけど、今はもの凄く試合に出たいという気持ちが強い。
不思議だなぁ。
謎過ぎる。
自分たちの代になってからなんとなく楽しく続けてきた野球で、僕は再び熱い気持ちになっていた。
1個上の先輩たちの背中を追い越したいと、夢中になって白球を追い続けたあの頃のように。
レギュラーに……なりたい。
部活を引退するまで、あと3ヶ月くらい。
勉強だけじゃなく、僕は野球もまた頑張りたいと思い始めるのだった。
* * *
そして春期講習が終わり、新年度。
テントリに新しいクラス「Tクラス」が誕生するのだった――
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