第16問 vs武蔵、試合開始! 勝つのはどっち?
「今回は10位以内目指してる」
「ふ~ん」
テスト前。
そう意気込みを語った僕に、武蔵は気軽にこう返した。
「ねえ、今度のテスト勝負しない?」
きょとんとする僕。
めちゃくちゃ驚いた。
武蔵からそんな提案をされたのは初めてだったから。
てかお前は僕のテスト、勝手に見てるだろ!?
びっくりし過ぎて一瞬忘れたわ!
武蔵の正確な実力は分からない。が、武蔵には僕の実力が分かってる。一方的な関係……だと思ったかぁ?
違うんだなぁ、これが。
そう、僕だって武蔵の実力はちょっと知ってるのだ。
1年生の頃。
テストが返却されたとき、実は僕の目に武蔵のテストがちらっと見えた――いや、ぶっちゃけて言うと積極的に見た。盗み見た。
反省もしてなければ、後悔もしていない!
おあいこだ!
僕が盗み見た範囲で、武蔵の点数はどれも80点を超えていた。
勝負を挑んでくるくらいだから、今でもその実力は維持しているはずだ。
多分1点が重い試合になるだろう。
……面白い。
めちゃくちゃやる気出てきましたよ!
隣の暴君である武蔵からは、ある時は言葉責めにされ、またある時は籠手を連打され、平民の僕は苦しい時を過ごした。
でも、それも今この時のために必要な経験だったのだ。
臨むところだ!
受けて立つ!
10位以内を本気で狙うなら、1人でも多くの生徒に勝たなければならないんだから。
「うん、やろう。勝負」
「5教科の合計点ね」
こうしてテスト前に、僕と武蔵の間で話がまとまった。
そして間もなく、2学期の期末テストが終わり――
僕と武蔵の試合が始まった。
* * *
最初に返ってきたのは社会だった。
言うまでもないが、僕のエース科目。
2年生に進級してから、僕は社会に関しては学年1位を逃すことはあっても、クラス1位から陥落したことはない。
このクラスには学年1位と2位がいるけど、その2人にも社会だけなら負けたことがないのだ。勿論、肝心の得点も90点を下回ったことはない。
当然、武蔵に負けるわけがない。
というか、この社会でどれだけ点差を付けられるか。
そこに注目している。
テスト後、最初となる社会の授業。
担当の下田先生がいつも通り、クラス平均と学年平均を黒板に書き込んでいく。どうでもいい。そんなことより、1位は何点だ!?
「クラス1位は――98点!」
おぉ! と、生徒たちから歓声が湧く。
「この点数は学年でも1位の得点です」
マジか!
またリラックマのシールがもらえる! いらないけど!
今回の社会もかなり解けた。手応えはかなりある。
これは……! 幸先いい予感!
期待で胸を膨らませる僕。
男子の名簿順に、テストが返却されていく。
僕の前に結果が出る男子生徒の中で注目すべきは学年2位のアナだ。
僕が見詰める中、テストを受け取ったアナはちらっと用紙を見て「うん」と一つ頷いた。そして僕の方を見て指差す。
「1位はお前だ」
言葉にするなら、そんな感じだろうか。
僕は1学期の中間テストでぶっちぎりの1位を取ってから、社会に関してはアナに認められていた。素直に嬉しい。
それから間もなく、僕の番。
心臓がドキドキする中。
テスト用紙を受け取った僕は、すぐに点数を確認する。
「……え?」
一瞬、目の前が真っ白になった。
点数は――97点。
嫌味かよと思われるかもしれないけど、僕にとってはまさかの展開だった。
呆然としたまま自分の席に戻る。
それでも最後まで僕は足掻く。
全員にテストが返却され、下田先生によるテストの解説が始まる。
ここで先生のチェックミスがあれば、僕の点数は上がるのだ。
……くそ!
しかし、下田先生にミスはなかった。
この瞬間、僕のクラス1位陥落が決まった。
1位は誰だったんだろう。
まさか――
「ねえねえ、何点だった?」
そう声を掛けてきたのは隣の武蔵――ではない。
そもそも、武蔵とは今隣の席じゃない。
僕に点数を訊いてきたのは、隣の学年1位である小野澤さんだ。
僕は小野澤さんにだけ見えるように自分のテスト用紙をちらっと見せる。
「え~、すごい! またいい点取ったんだね~」
いや~、学年1位の人に褒められるなんて光栄だな~!
すると、今度はお返しにと、小野澤さんが僕にテスト用紙を見せてくれた。
「きゅ!?」
98点!?
あんたかよ1位!
てかさっきのすごいは何!? 嫌味か!
クラス1位も学年1位も、もってかれた。
なんてこった。これが学年1位の実力か。
「わたし、テストのときはいつも新品のノート買ってきてそこに書きまくるんだけど、今回はたくさん使っちゃったよ~」
お~、なんていう地道な努力を……。
僕も社会に関しては、テントリ内のダンボール箱にある要らない紙をたくさんもらって、そこに書きまくるやり方で覚えているから共感してしまう。
学年1位の人でもそんな泥臭い勉強のやり方するんだな~。なんか嬉しい。
「わざわざ阿呆みたいに何度も書かなくても一回見れば覚えられるっしょ?」
とか、勝手なイメージ持っちゃってごめんなさい。
勉強できる人ってスマートにこなすもんだとばかり思ってたから。
「……ところでさ」
「ん?」
「もし、自分のテストで採点ミスがあって……それを先生に言ったら、自分の点数が下がる場合、菱沼くんならどうする?」
「えっと……」
なんだ、その質問。
まあ、その場合なら考えるまでもない。
先生の採点ミス? 知るか!
もうけたもうけた~! そ~れもうけた! わーいわーい毎度! あーりがとさん、ラッキー!
野球部の応援歌にある通り、運も実力の内だ!
それが勝負の世界!
「言わないかな」
「そっか……」
小野澤さんはそれだけ言って、点数の話題を打ち切った。
どうしたんだろう……?
まあ、とにかく98点が小野澤さんでよかった。
もし、小野澤さんじゃなくて武蔵が98点だったらいきなりやばい試合展開だったから――
「85点だったー」
なにぃいいいいいい!?
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