第17問 上位の壁を超えるには?
僕と武蔵の五番勝負、第一戦。
教科は社会。
97対85。
試合は僕の12点リードで始まった。
……やばいぞ。
得意科目でこれしか差がないなんて。
「わたし、社会は得意だよ」
結果を見せ合った後、武蔵は淡々とそう言った。
ごめん。
武蔵には悪いけど、もっと点差を付けられるもんだと思ってた。
例えるなら、自軍のエースが初回、先頭打者への初球で危険球退場になってしまったような展開だ。
そして予想通り。
僕の5教科合計は437点。
一方、武蔵は――439点。
社会であまりリードを奪えなかった僕は、武蔵に負けるのだった。
* * *
テストの点数が全て出揃った後。
教室にて。
「ヒッシー、今回何点だったの?」
僕にそう訊ねてきたのは、クラスメイトで学年2位のアナだ。
曰く、テスト勉強は2週間前からしかやらない主義の男。
いつだか学校から途中まで一緒に下校したとき、僕がテスト1ヶ月前から勉強してると言ったら「そんな前からやるの!?」って驚いてた。
まあ、アナは日頃からちゃんと勉強してるだろうから、2週間前でも大丈夫なんだろう。
同じ《
それはさておき。
「四百、三十――」
と、僕が合計点を十の位まで口にしたところで、アナはくるりと振り返って背中越しに手を振りながら離れていく。
別にゆっくりじらして言ったわけじゃないのに、アナは陸上部の長距離専門とは思えない見事なクイックターンでクールに去る。
あのアナゴ野郎ぉおおおおおお!
そう言えば、1学期の中間テストでも似たような光景を見たな。
僕が「四百、二十――」って言った瞬間、興味を失ったかのようにくるりと反転したんだ、こいつは!
あのときのアナは「社会でめっちゃ差付けられたから、負けたかと思った」って言ってたっけ。
めちゃくちゃ差を付けられたと言っても、アナは学年2位だ。
せいぜい10点前後くらいの点差だろう。
ってことは、《五神》は80点台を取ってしまうと、順位が入れ替わりかねない世界で戦っているのか!?
やっぱり450点超えてる人たちはレベルが違う。
2年の最初のテストで422点を取ったとき、《五神》の背中が近くに見えてきたと思ったけど、テストを受ける度に思う。
450点を取ることがどれだけ難しいか。
点数的には近付いたはずなのに、むしろより遠くに感じてしまうのだった。
* * *
テスト結果が全部出揃って、数日経った放課後。
最後のホームルームを前に、教室に現れた担任の
あれは……!?
今回のテストの点数と、教科ごとの学年順位、そして5教科合計の学年順位が記された結果表!
「え、テスト結果もう出たの!?」
「来た来た!」
「今回自信ないよ~」
真武先生が持っているものに気付いたクラスメイトたちがどっと騒ぎ出す。
遂にテストの順位が発表されるのだ。。
「いや~、いい勝負だったね~」
「くそっ……くそっ……」
斜め前の席に座る武蔵が楽しそうに笑った。
これが勝者の余裕ってやつか。
でも、武蔵には負けたけど、まだ10位以内に入れる可能性がなくなったわけじゃない。
男子から名簿順にどんどん結果表が手渡されていく。
間もなく僕も受け取り、祈るような思いで一瞬目を閉じ、開く。
上から4番目。
今回の期末テストの枠に貼り付けられた用紙に、ボールペンで記されていた順位は――13位。
あぁ……13位かぁ……。
僕は力が抜けたかのように、机に突っ伏した。
「落ち込んでるねー」
「前にも言ったけど、今回は10位以内目指してたんだよ」
「たかがテストじゃないか」
僕が伸ばした手をシャーペンでぺちぺち叩いてくる武蔵。
今日は叩き方が優しい。くすぐったい。
「菱沼くん、10位以内目指してるんだ」
「うん、はい……」
「うんはいって……ふふふ」「あはははウケる!」
「冷やかすのやめてください」
隣の席の学年1位こと小野澤さんも会話に入ってくる。
この人を前に、テストの話とか恐れ多いなぁ。
「あのね、今回わたしと菱沼で勝負したんだよ」
「え~、そうなの!? ねえ、どっちが勝ったの?」
「やめて~……」
「わたし~!」
「おめでと~う! ミヤ、何点だったの?」
「いやいや、マホちゃんには絶対負けてるから!」
くそ、予定ならここで「勿論、勝ったのは俺!」とか「10位以内入ったぜ、俺の時代来たぜよ!」とか言えるはずだったのに。
今回の期末テストで、合計点の上でも武蔵との勝負でも痛かったのは国語だ。
71点。他の教科はあの英語ですら初の80点台を記録したのに、国語は相変わらずだった。
点数を見た瞬間、あまりのショックに背中から倒れるかと思った。冗談。
でも、ほんとに悔しいと言うか……いや、それを通り越してあまりの出来の悪さに呆れてる。
とはいえ、5教科合計437点は、1学期の期末テストに並ぶ自己ベストだ。
しかも同じ点数でも順位がこれだけ上がったってことは、前の時より価値があると思う。
残念ながら目標の10位以内には入れなかったけど、13位は自己最高位だ。
惜しいところはあるけど、満足できる結果でもある。
あとは国語で80点台が取れれば、合計450点も学年10位以内も夢じゃないんだけどなぁ。
う~ん、でもな~……。
テントリで教えてもらってるけど、国語は全然伸びる気がしない。
450点を超えるには1教科でも穴があったらいけない……いや、待てよ!
そうだ!
なにもオールラウンダーにできる必要はないじゃないか!
僕はぴんと閃いた。
今、脳の普段使ってない血管にどばって血液が流れ込んできた気がする!
逆転の発想や!
そう、国語がダメなら、得意な科目でもっと点を取ればいい!
嫌いな教科、苦手意識のある科目を微妙な気分でやるより、ずっと可能性があるじゃないか。
思い出せ、自分がどうやってここまで上り詰めてきたのか!
始まりは社会だ! 好きな教科だ!
よし、年末から始まる冬期講習は国語はやめて、より教科するために理科を受講しよう!
「ダメ。絶対ダメ」
「えぇ、何でですか!?」
しかし、テントリの先生たちは僕の提案を拒否するのだった――
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