第7問 学年90位台が、学年1位と2位に勝てるか?
中学2年、4月。
僕のクラスである2年1組の教室の前にて。
廊下でスタンバイしている僕は、とても緊張していた。
これから担任の先生との二者面談が始まるからだ。
間もなく、僕の前の生徒が教室から出てきて、入れ替わる形で中に入る。
大丈夫、気にし過ぎだ。
この先生は僕の姉のことなんて覚えてない……はず!
「
…………。
ふぇ?
覚えてるよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
この先生、姉ちゃんのこと覚えてるよ!
出し抜けに出された姉の名前に、僕の心臓は早くも激しく運動していた。
いや、でも、姉ちゃんのこと覚えてるから何だって話だ。
あ、そう。以上。
比べられることなんてないさ!
「ヒッシー、一年のテストの最高順位は?」
うぉおおおおおおおおおおおおい! 真武ぇええええええええええええい!
机を挟んで向かい合う担任の女性教師――
サ・イ・コ・ウ・ジュ・ン・イ?
何故そんな質問するんだ、真武先生!?
いや、他の人からすればなんてことない質問なのかもしれない。
でも、僕にとっては違う。
全然違うんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
何故なら、この僕の目の前にいる女性教師は、かつて僕の姉を担任していたことがあるのだ。
というか。
僕と姉は三つ違いであるため、この学年の教師はほとんど僕たちの代を担当する前に、姉たち三つ上の代を三年間指導している。
加えて、この真武先生は、二百人近くいる中の一生徒に過ぎない姉ちゃんのこと覚えていたのだ。
姉は中学の頃は学年2位で、市全体の中学生が受ける学力テストでも7位の実力者。そして今は私立高校の偏差値60後半を要求される進学クラスだ。しかもその中で特待生で、学年2位らしい。
社会で80点、90点を取って喜ぶ僕とは次元が違う。
はっきり言おう。
言いたくない!
てか、真武先生、僕の最高順位くらい把握してるだろ!?
……は! そういうことか!
ここで素直に、正直に告白することができるか否か。
あなたはそれを試しているのですね、真武先生!
「……93位です」
「93位」
やめてやめて、復唱しないで。
でもね、1年生最後のテストで93位取ったときはすごく嬉しかったんだよ。
遂に100位以内だ~! って。
なのに。
なんか今はすごく恥ずかしい。
姉ちゃんのせいだ!
姉ちゃんが勉強できない人だったら、僕はこんな思いしなくて済んだのに!
逆恨みにもほどがある。
「ぼ、僕は勉強はあんまり得意じゃなくて……部活もあるし……母も特に何も言わなくて……でも、これから勉強も頑張りたいというか……」
って、なに口走ってんだ、僕!?
自分で勝手につくりだしたプレッシャーに耐えられず、言い訳しちまったよ。
こんなこと言うつもりなかったのに!
僕の聞くに堪えない戯言に関して真武は特に何も言わず、面談は続いた。
あぁ……お家に帰りたい。
* * *
進級してから最初の二者面談では思わぬ精神的ダメージをくらったけど、遂にこのときが来た!
第2学年、一発目!
中間テスト!
今回のテストの目標は、まず社会で自己ベストの94点を超えることだ!
他の教科もできれば最高点を取りたい!
僕はテントリで配られた「今回のテストの目標」の用紙にそう書き込んだ。
やることはやった。って言えるほど、勉強のやり方は心得てない。
これで完璧! って思ってても穴だらけかもしれない。
自分の感覚で信じられるのは社会くらいのもんだ。
でも、今の自分でできることをなるべく頑張ってやろう。
そして間もなく、中間テストが始まり、あっという間に終わって――
結果発表の時がやってきた。
最初にテストが返ってきたのはエースの社会。
社会を担当する僕の元担任、下田先生が黒板にすらすらと今回の平均点等を書き込んでいく。
僕は授業が始まる前から緊張しっぱなしだ。
学年1位は無理でも、クラス1位は取りたい。
でも、このクラスには僕たちの代の学年1位と2位がいるのだ。
《
言うまでもないが、二人ともテストの合計点で450点を下回ったことがない実力者だ。合計点では歯が立たない。
でも、社会なら――
「今回のテストは全体的に非常に悪かったです」
って、うぉおおおおおおい!
「90点越えた人も学年全体で2人しかいませんでした」
えぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?
どいうこと!? どいうこと!? どいうこと!?
90点超えたのが二人しかいないって、《五神》でも90点割ったってことじゃんすか!?
ぜ、前言撤回!
自信なんてなかった!
80点! 頼む、80点は超えてくれ!
自己ベストなんて夢はもう見ない!
94点取れたときはテストが簡単だったんだ。
僕の社会の実力なんて所詮こんなもん――
「でも、学年1位の人は――97点です。で、このクラスの最高点は――97点です」
『え~!?』
教室中からどよめき。
僕も驚いた。
学年二位の男子生徒――アナが、学年一位の女子生徒――
こ、これが《五神》にのみ許されたやり取りか……!?
僕とカズでやったら、
「俺でしょ?」
「いや、お前30点台やろ」
そんな感じだろうか。
間もなく、男子から順にテスト用紙が返却されていく。
「うわぁ!?」
と、声を上げたのはアナだ。
出席番号二番のアナはおでこをぱちんと掌で打つ。なんやねん、その芸人みたいなリアクション。
97点はアナじゃないっぽいな。
ってことは、あとこのクラスで注目すべきは小野澤さんだ。他の人には社会でなら負けない……はず!
男子から返され始め、ようやく僕の番がやってきた。
来い、来い!
下田先生はつーんとした感じで、受け取りにきた僕と目を合わせずにテスト用紙を渡す。
この反応……97点は僕じゃないのか。
「っ!?」
その後、小野澤さんの手にもテストが渡り、返却タイムは終わった。
ざわつく教室の中で、自分の席に座るアナが半身になって、少し離れた席の小野澤さんにすっと指を指す。
「97点、お前?」
言葉にするならそんな感じだろうか。
しかし、小野澤さんは真顔で首を横に振った。
「え、
「じゃあ、誰だよ」
クラスメイトたちが声を出して、きょろきょろと見回す。
…………。
「はい、静かにー」
「え、先生、1位誰?」
「教えられません」
『え~』
小野澤さんでも、アナでもない。
あの学年ツートップを差し置いて、社会のクラス&学年一位を掻っ攫ったのは一体誰なんだ……生徒たちが興味津々になるのも無理はない。
でも、少なくとも僕だけは、その話題に興味はなかった。
なぜなら、その一位が――僕自身だったからだ。
よし……よしっ! やったあ!
机の下で拳をぐっと握り締める。
勝った、小野澤さんに!
勝った、アナに!
学年1位と2位に勝った! 世界を引っ繰り返してやった!
「今回、2位の人は90点でした。97点はダントツです。今回は難しくつくったから、これは立派です」
先生のその言葉は、忘れられないくらい嬉しかった。
「下田先生!」
授業後、そそくさと教室を出ていった下田先生の背中に声をかける。
振り返った下田先生は、僕にテスト用紙を渡したときとは打って変わって笑顔を見せてくれた。
「今回すごかったね! おめでとう!」
「あ、ありがとうございます!」
「ほんとにすごいよ! ぶっち切りの1位だよ!」
惜しみない称賛にちょっと恥ずかしくなる。
けど、一つ聞きたいことがあった。
「あの、テスト用紙にシールが……」
「ああ、あれね!」
下田先生はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに喋り出す。
「リラックマだよ! 1位取った人にデカイの張ってるんだ~」
「はあ……?」
「大事にしてよ~。ほんとは自分で使いたいんだから」
いや、いらないっす。
でも1位の人だけに授与されるシールか……っしゃあ!
そして社会以外の教科もテストが返って来て――
数学――96点、学年3位。
理科――84点。
英語――78点。
国語――67点。
合計――422点、学年17位。
僕は初めて400点を越えた……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます