第8問 とある生徒の合計点が100点以上UPして400点を超えました。さて、この生徒の元の得点はいくつくらいでしょう?
学年17位。
前回のテストの合計点307点から115点UP。
僕はテストが返却される度に興奮していた。
社会に関しては手応えがあった。下田先生が返却する前に脅かすからかなり慌てたけど。
ただ、他の教科は予想外だ。
全体的に出来過ぎだ。
これ、僕のテスト結果なんだよね?
最初はまるで実感が湧かなかった。
でも――
話は少し遡る。
* * *
「テスト返ってきた?」
「社会97点、数学96点、理科84点でした!」
テストが続々と返却される中。
テントリに来た僕は、出迎えた先生たちにすぐに報告する。
「勇気、今回のテスト400点超えるんじゃないの?」
「数学と理科、伸びたね~! 社会は流石だな!」
狐塚塾長と栗原先生の笑顔が弾けた。「おお!」と子どもみたいに歓声を上げて、本当に喜んでくれてる。
よほど嬉しいのか、僕の肩と背中をばしばし叩いてくる。痛い痛い。
そして、授業開始前に僕たちが教室で待っていると――
「え、ほんと!?」
入口の自動ドアが開く音とともに、勇気先生の声が聞こえてきた。
「勇気ぃいいいいいい! 数学!」
間もなく教室に入ってきた勇気先生が、僕を見付けるや頭をわしゃわしゃしてくる。いや坊主頭だからじょりじょり?
てか第一声からテンション高いっすね!
「あとちょっとで100点じゃん! なんで100点取らなかったんだよ~」
「いや今更そんなこと言われても」
「お前は俺の生徒だ~!」
「知ってまーす」
「今度パステルのプリン買って来てやるよ!」
「ぱすてる?」
強面の勇気先生がにこにこしてる。表情が分かりやすいから、喜んでくれてるのがダイレクトに伝わってきて……。
勿論、点数が分かった瞬間は僕も嬉しかったけども。
なんだか予想外な高得点の連続でふわふわしてたから。
テントリの先生たちが喜ぶ姿を見て、ようやく実感が湧いてきたのだ。
* * *
今思えば……。
この結果は春期講習の英語の授業で、勇気先生が怒ってくれたのがきっかけだ。あれで僕は頑張ろうって思った。
そして、春期講習中にやってきたことが、今回の大躍進に繋がったんだと実感する。
春休み中。
テントリの先生たちは、とにかく僕に基本問題を解かせた。
特に劇的に点数が上がった数学は、これでもかと計算問題を宿題で出された。
まさかの78点を取った通知表「2」の英語も特別なことはしてない。
当たり前のことだけど、勇気先生が何かしら意図をもって出した宿題を一問一問ちゃんと解く。意味不明な箇所には印を付けて質問できるようにする。
地道にコツコツ。
それが一番効くんだ。
1年の頃クラスメイトだった《
『社会? ノートと問題集かな。あと、教科書は読んだ方がいいよ。出るから』
『それと資料集も一応見ておいた方がいいよ』
『え、それって結局、全部やれってこと?』
『うん』
《五神》は特別なことをしているんじゃない……と思う。
拍子抜けなくらい基本的なことを忠実に、投げ出さずに勉強に取り組んでいるんだ。
だから、テストが難しくて平均が低くても、五教科トータルで450点を越えるんだ。
教科ごとに理解度の差がある僕には、まだ《五神》には届かない。
でも。
ダブルスコアをつけられた一年生の頃とは違う!
《五神》の背中が、見えてきた。
* * *
五教科の結果が出揃うと、僕は塾内でちょっとした有名人になっていた。
「ヒッシー、数学96かよ!」
「社会は97だって」
「社会学年1位ってヒッシーだったんだ!?」
テントリの友達からも褒められて、ちょっと恥ずかしい。
塾に行くと、テストの話題で色んな人から絡まれる。
そしてテントリからテストで結果を出した生徒が出たことで、塾全体が活気付いてるように感じる。
が、それを面白くないと思っているというか何と言うか……まあ、そういう人もいるわけで……。
「知ってる? 勇気、今回の中間テスト、合計100点上がったんだよ」
「……。まあ、元の点数が低ければ、そりゃ上がるでしょ」
栗原先生と話していた男子生徒が淡々とそう言った。
授業前に通路で待機していた僕にもばっちり聞こえてしまう。
うぐっ……。
痛いところを突いてくるぜ。事実だけども!
そりゃ上がるでしょ、と言ったのはヒロキだ。
同い年で、中学は別だけど聞けば学年2位らしい。
テントリに来る前から80点以上を取っている実力者で、陸上長距離男子の
テントリでは僕が所属Bクラス(二軍)の上位にあたるAクラスに君臨する古参にしてエースだ。かっけぇ……。
テントリの看板にある「80点以上お断り」の文言は一体……まあ、そのキャッチフレーズについてはひとまず置いといて。
確かに、ヒロキの言ってることは間違ってない。
元々低かったから100点も上がるわけで、大事なのはこれからだ。
一回いい点を取れば終わりじゃないのだ。
……でも、正直ヒロキの言葉には少し腹が立った。
言い方ってもんがあるよねえ!?
いつか絶対、ヒロキに何かで勝ってやる!
* * *
そんなこんなで塾内でちやほやされていた僕のテスト結果は、塾内だけでなく学年中に広まっていた。
なんでも、今回の中間テストで合計点が100点上がったやつがいるらしい。
そいつは駅前の「スクール点取り屋」なる学習塾に通っている、と。
そしてその話題はこんなところにも……。
「今回、この野球部でテストの合計点が100点以上上がった部員がいる。先生は日頃から勉強もしっかりやるようにと、テスト前に部活動休止期間は1日10時間以上勉強するようにと言っているな? みんな精進するように」
野球部の練習が終わり、最後に正門付近でミーティングをする最中。
顧問の松村先生は真剣な面持ちでそう言った。
いや1日10時間は無茶でしょ、監督?
睡眠時間どこよ?
松村先生が尚も話を続ける中、部員たちが「誰だよ、そいつ?」と顔を見合す。やべっ。いや、やばくないけど、なんか恥ずかしいよ。
でも、誰かがすぐに僕が100点UPしたことを洩らしたらしくて……。
「
「2年連中の最後の希望が……」
解散した後、下校中に先輩たちから絡まれる。
って、それ褒めてるんすか先輩方!?
先輩部員たちの「むしろ100点上がるほど低かったの?」というニュアンスを大いに感じる発言に、やめて! と僕の心が叫びたがってる。
まったく! ヒロキだけじゃなく、どいつもこいつも!
大事なのは今でしょ! いや、あのT進の有名講師を真似したわけじゃなくて!
あ~も~!
なんでこ~なるのっ!
仕方ないから、僕は心の中で叫ぶ。
そしてあっという間にテストで400点を越えた僕は、思わぬところで躓くことになるのだ――
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