第8話 エレクトリックレディランド

       ★


 夜の七時前、俺は車の助手席に美原を乗せ、京都市街に向かっていた。

「オッパイパブって、パブやろ? 車で行くってどうよ? 帰り、飲酒運転にならへん? 地方公務員みたいにパクられるの嫌やで、俺!」

「だからウーロン茶で我慢してくれって言うてるやんけ! 半分おごるから文句ないやろ。それにな、飲んでいるヒマなんかないぞ。四十分なんてあっというまやぞ!」

 時間が経つのはあっというま、美原母が例えていた竜宮城を思い出した。

「それにしても今日は泥臭い音楽かけてるなぁ。もっと色っぽい音楽ないん?」

 ジミ・ヘンドリックスのアルバム『エレクトリック・レディランド』を再生してた。

「女性ボーカルはほとんど聴いてないよ、最近は。それにこれ、オッパイパブ行くのにふさわしいアルバムやと思わへん?」

 俺は『エレクトリック・レディランド』のジャケットを美原に手渡した。

「あ、すげー。オッパイやん!」

 ジャケットには大勢の女たちのヌード写真が使われている。

「俺が借りたときはジミヘンの顔写真やったで。なんで?」

「ジャケットは二種類あるねん。イギリス版と日本版はヌード。アメリカ版は顔写真やねんて。ジミヘン本人はヌードジャケットを嫌っていたみたいよ」

「へぇ〜、ジミヘン。オッパイパブも嫌いやったんかな」

「まぁ、そもそもオッパイパブに行く必要があったかどうか……」

 俺は鼻で笑った。

 美原は渋い顔で煙草を灰皿に押しつけた。


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