第4話 同級生のオカン

 国道沿いのファミレスで俺は人を待っていた。待っている相手は昨夜の電話のオバハンだ。別にこれから不倫を始めようというわけじゃない。電話の相手はちゃんと知っている相手、同級生の母親だった。

「小日向大助くん? 小日向くんの携帯電話で合ってるよな、これ?」

 電話の相手はやけになれなれしかった。電話を通し、声質は少し変化しているものの、美原という友人の母親であることにはすぐ気がついた。

「ごめんな。いきなり電話して。フミヨシの携帯を勝手にいじって番号を調べたんや。あんたに頼みがあって電話したんや。フミヨシを! 息子を救えるのはあんたしかおらんねん!」

 急に語気が荒くなったので、ちょっと驚いた。頼み事を聞こうとすると、電話でおいそれと話せる内容ではないからと、会って話がしたいと言う。

 そして翌日の二時、美原の母親と会うことになったのだ。

 十五分もの遅刻。オバハンからの連絡はない。イライラすると同時に、このまま来なければいいのにという期待もあった。どうせロクな話ではないだろう。同級生の母親が強引に呼び出してくるなんて、宗教の勧誘、もしくはマルチ商法の勧誘のせんが濃厚だと思える。なりふりかまっていられない状況。本当に美原のことで相談があるとしても『実は息子はゲイだった』級のハードなカミングアウトをされそうで、それなりに俺もショックを受けそうだ。

 にもかかわらず話を聞きにきたのは、友人のことを心配してではなく、純然な好奇心だった。

 美原の母は三十分ほど遅れてやってきた。かぎ鼻でやや魔女顔の美原の母が汗をかき、息切れしている様はなんだか凄みがあった。遅れたことの謝罪もなしに、俺の手元のコーラを一息で飲み干し、額の汗を腕で拭った。そして机の上にバッグを乱雑に置いた。

 俺は来たことを後悔した。これから怒られるような気がする。というのも一度、美原の母を激怒させたことがあるのだ。俺は美原の家に中学時代から頻繁に出入りしていた。まるで昭和の家みたく。鍵をかけていない美原の家に、わが家のようにあがりこんでいた。それは中学を卒業し、別々の高校になっても続いた。俺も美原も部活動をしないヒマ人だったのだ。そしてそれは高校を卒業してからも続いた。肩書き的にはフリーターとはいえ、実家暮らしのゆるい環境、バイトは週に二、三回程度のこづかい稼ぎレベル。おまけに長続きもしなく、完全に無職状態になることもしばしばだった。

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