第15話 199X年夏~恵南短大1年生・萩野目洋子19歳⑦

 私はが食べ終わったのを見計らって質問した。もしかしたら私が今まで気付いてなかっただけなのかもしれないと思ったから、どうしても聞いてみたかったのだ

「・・・うーん、正直に言うが全然使ってない。たまたま今週号の少年ジャンボに俺が昔好きだったマンガを描いていた先生の読み切りが掲載されるのを知ってたから立ち読みしただけだ。まあ、缶コーヒーはたまに飲むけど、別にセブンシックスで良かったんだ。でも何故か今日はいつものセブンシックスで立ち読みする気が起きなくて、逆方向にあってしかもセブンシックスよりも遠いサコマに行ったんだ。そこでこういう展開になるとは夢にも思わなかったというのも事実だ」

「あのねえ、北海道に住んでるならセブンシックスじゃあなくてサイコーマートにしなさいよ。たしかに内地から見たらサコマはマイナーかもしれないけど、北海道ではサコマの方がメジャーよ」

「まあ、それは事実だな。信州にはサコマが何店かあるのを俺も知ってる。冬に大学の連中と車でスキーに行った事が何度かあるけど、夜中だとコンビニくらいしか開いてないからトイレや休憩、お菓子を買うのに使った事は何回かあるぞ。でも交差点の向い合せの位置にセブンシックスとサコマがある場所だと、どの車も右折してでもセブンシックスに入っちゃうから、セブンシックスは車が溢れてるけどサコマはガラガラという時もあったからなあ。本州は当たり前でも北海道では逆らしいから、それを聞いた時にはある意味衝撃だったぞ」

「そういう事よ。北海道パワーを甘く見たら痛い目にあうわよー」

「そうだな、俺も北海道パワー、いや道産子パワー、いや違うか、道産子の呪いでここに連れてこられたようなもんだからなあ」

「あー、それはひっどーい!ぷんぷーん!!」

「だってそうだろ?半年前、君は俺に呪いをかけた。だから俺はその呪いから逃れらなくなった。あの言葉はまさに俺にとって呪いだから君の前に現れた。そう考えるのが自然だと思うぞ」

「だーかーら、もうちょっとマシな言い方はないのかなあ」

 そう言うと私は立ち上がり、私が使っていた椅子を持ってあいつの左に並べた。そのまま私はそこに座ってあいつに話しかけた。

「あれはねえ・・・呪いじゃあないわ。『魔法の呪文』よ」

「魔法の呪文?」

「そう。あなたと私が再び出会えるように唱えた呪文よ。この呪文の効力は永遠に続くわ。だからあなたは私から逃れることは出来ない」

「・・・じゃあ、呪文の解除方法は?」

「・・・ないわ。だから、あなたは一生私に付きまとわれるのよ」

「・・・そうだな、それも悪くないかも」

「それじゃあ、私と付き合ってくれるの?」

「ああ、構わんぞ」

 その瞬間、私は頭の中が真っ白になった。自分から「付き合ってくれるの?」とか言っておいて、本当にOKされるとは思ってなかったからこの後どうしたらいいのか分からなくなったのだ。

 多分、いや、間違いなく顔が真っ赤になっているはずだ。でも、あいつはその私の顔を見て少し微笑みながら

「・・・そういえば、君のフルネームを俺は知らなかったな。『ようこ』というのは知ってたけど、フルネームを教えて欲しい」

「・・・私は萩野目、萩野目洋子よ。多分あなたなら世代的に分かると思うけど、私たち姉妹は「姉は女優、妹はアイドル」の芸能人姉妹と名前は同じ漢字よ。でも苗字は漢字のあそこが『のぎへん』だからね」

「・・・なるほど、初対面の人が漢字だけを見たら同姓同名と勘違いしそうだな」

「そういうあなたの名前を私は知らないわ。だからこの場で教えて頂戴」

「俺は篠原宏。苗字の方は説明しなくても分かると思うけど、名前はあのニュースキャスターと同じ字だ」

「へえ、ありふれた名前ね」

「じゃあ、俺は君の事を『洋子』って言えばいいのか?」

「そう呼んで構わないわよ。あー、でもあなたの事は『さん』付けでいいかなあ」

「いいよ」

「じゃあ、宏さん、これからヨロシクね」

「ああ、こちらこそ」

「それじゃあ、追加のスイーツを頼んでいいかしら?宏さん」

「おいおい、付き合って最初のセリフがそれかよ?」

「いいでしょ?さっき約束してくれたでしょ?」

 そう言うと私は宏さんの左腕を自分の右手で引き寄せ、そのまま腕を組む形で『おねだり』した。そして、飛びっきりの笑顔で「お願い」と言った。

 それを聞いた宏さんはちょっと苦笑いした後に

「まあ、いいかあ。という事はこれからも俺が全部出す事になるのかあ!?」

 そう言って小さくため息をついた。

 私はニコッと軽く微笑んで

「そこはケースバイケースね。でも、あきらかにそっちの方が稼ぎが多いんでしょ?」

「はいはい。でも、食べすぎにだけは注意してくれよ」

「分かってるわよ。じゃあ、これは私からのお礼ね」

 そう言うと私は宏さんをグッと自分の方に引き寄せた。そう、宏さんの顔が私の正面に来るようにして・・・そのまま私たちは唇を重ねた。

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