第14話 199X年夏~恵南短大1年生・萩野目洋子19歳⑥
あいつは少しため息をつきながら再び話し始めた。
「・・・おいおい、勘弁してくれよお。大学4年間は彼女無し。しかも半分ゲーセン部屋に住んでいて、森崎乳業に入って札幌工場に配属されたのが5月になってから。しかも男だらけの職場だぞ。パートのおばちゃんも結構いるけど、俺の母親くらいの年齢の人ばかりだから俺の守備範囲外だ。しかもまだ2か月半しか北海道に住んでないのに、どうやったら彼女がいる事になるんだ?」
「高校の時から付き合っている遠距離恋愛の彼女とか、あるいは地元に幼馴染がいるとか、よくあるパターンじゃあないの?」
「ないない。それに、俺に彼女がいた方が良かったのか?」
「冗談よ、冗談。それに、彼女がいないって分かってある意味ホッとしたわ」
「ホッとした?」
「だってー、自分から誘った男に彼女がいたなんて事になったら、下手したら修羅場よー。私はそういう展開は御免だわ」
「・・・それもそうだ。という事は、君も彼氏ナシという事か?」
「まあ、それは認めるわ」
「それもそうだろうな。『全然モテないから困り果てて俺に声を掛けました』と顔に書いてあるぞ」
「あー、それはひっどーい!発言を撤回して欲しいわよ。摩周高校では3年間を通してナンバー1美少女と呼ばれ、さらに今年のミス恵南キャンパスの最有力候補とまで噂されている私に向かって『困り果てて』は暴言よ。毎週のように声を掛けられて困っている位なんだからさあ」
「意外だな。たしかに大人しそうに見えるから声を掛けやすいのかなあ?」
「多分、そうだと思うわよ。お淑やかな女の子を好む男子は多いからね」
「はいはい、じゃあ、君は俺には本性を見せるけど、俺以外が相手だと猫を被っているとでも言いたいのか?」
「うーん、もしかしたらそうかもね」
そう言うと私は笑った。
あいつも私に笑顔を見せた。そう言えば、以前の時のあいつの笑顔は横からしか見てなかったけど、こうやって正面からあいつの笑顔を見たのは初めてだ。しかも笑顔が結構可愛い!ますます私好みの男だ、絶対にゲットしてやる!
ここでパスタが運ばれてきた。ピザはもう少し時間がかかるとの事だったので、私の分を小皿に取り分け二人で1つのパスタを食べ始めた。食べ方はむしろあいつの方が丁寧で、私の方が雑だ。これじゃあ、どっちが男でどっちが女だか分からない・・・うーん、あいつの好感度を下げちゃったかも、ちょっと失敗したかもなあ・・・。
「・・・ちょっとマズかったかなあ」
「ん?別に不味くないぞ。すごくおいしいぞー。バジルが苦手だったなら教えてくれればその部分は俺が食べたのに、無理して食べなくてよかったんだぞ」
「え?えーと・・・そ、そうね、ちょっと見栄を張りすぎたわ」
うーん、本当はそういう意味で言ったんじゃあなかったのに・・・思わず口に出してしまったみたいね、気を付けよう。でも、結構いい事を言ってくれるねえ、感心感心。
『おまたせしましたー、マルゲリータです』
ここでピザが運ばれてきたので、テーブルの真ん中に置いてもらった。
あいつはピザをピザカッターで8等分し、そのうちの1切れを自分の皿に持って行った。私も1切れを自分の皿に持って行ったけど、チーズがとろーりと伸びて実に美味しそうなピザだ。
私は伸びたチーズをついつい癖で手でお皿に引き寄せようとし、慌てて手を引っ込めた。危ない危ない、こんな所で好感度を下げるような事をしたら、あいつも興醒めするかもしれない。
「フフッ・・・思わず手を出してしまったか?」
「あー、バレたあ?」
「まあ、たしかにクセで手を出してしまう事はよくあるよな」
「・・・すみませんね、田舎者ですからテーブルマナーもできてなくて」
「・・・無理してお淑やかな自分を演出しなくてもいいぞ。俺はそういう細かい所を気にしないし、だいたい、後から知って興醒めする位なら最初から分かってた方が気が楽だ」
え?ちょっと待って!・・・あいつ、今、サラッと言ったけど、結構際どい発言だったわよね・・・あいつ、本気で「私と付き合ってもいい」と思ってるのかも・・・いや、もしかしたら単にリップサービスだったのかもしれないから、まだ早計だ。
でも、摩周では宅配ピザはなかったから、恵南に来て早々、同じゼミの女の子同士が集まってミニパーティをやった時に初めて経験したのよね。それ以来ピザが好きになったのも事実だから、どこへ行ってもピザを頼んじゃうし、ついついとろーりと伸びたチーズを手で引き寄せちゃうのよねえ。
ただねえ・・・パスタはお互いに半分づつ食べたんだけど、ピザは8等分したうちの3枚しかあいつは食べず、私が5枚も食べちゃったの・・・しかも食べる速度も私の方が早くて、あいつが3枚食べきる間に私が5枚も食べていて、ホントにどっちが男だか分からない位の少食だ。
「・・・ところで、あのサコマにはよく来てるの?」
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