第10話 199X年夏~恵南短大1年生・萩野目洋子19歳②
でもねえ、そんな事をしているうちに夏休みになってしまった・・・。
来週には摩周に1週間の予定で帰るっていうのに、未だに彼氏なしっていうのがお姉ちゃんにバレたら・・・
お姉ちゃんは4月からは農協・・・いや、今はJAと呼ぶようになったけど、JAの金融機関で働いている。高1の冬から付き合っている城太郎さんとは来年あたりに結婚するつもりのようで、既に坪井家と萩野目家の顔合わせも済んでいる。お姉ちゃんもいずれは坪井牧場の社長夫人になるけど、それはまだ先の話だ。
お姉ちゃんは自分の結婚が事実上決まったから、最近は電話口で「洋子、あんたさあ、札幌の近くに住んでいながら未だに彼氏がいないなんておかしいわよ」と私を揶揄うのが口癖になっている。私だって早く彼氏が欲しいけど、だからと言って誰でもいいとは思ってない。顔はいいけど性格は最悪とかいう男を引き当てたくないから、本当は合コンなんかよりも「洋子、この男と付き合ってみなさいよー」とか言って誰かからいい男を紹介されたいんだけどなあ。だけど、みんな自分の事が優先だから私の為に紹介なんてしてくれないのね。
今週はずっと朝からのバイトだ。6時から12時までの午前中のみだけで6日連続で入っている。その後は摩周へ帰る事になるが前回摩周へ行ったのは5月の連休の時だから、2か月以上も前の話だ。
今朝の恵南は快晴だけど、少しヒンヤリしている。どちらかと言えば涼しいくらいの朝だ。だけどいい天気だから朝から遊びに行く人も多いだろうな。平日とはいえ夏休みだから、小学生から高校生までのお客さんの来店が多くなりそうな予感がする。
さすがに早朝はお客さんも少ない・・・まあ、あと30分もすればお客さんも増えてくるし、配送のトラックはこの時間までに運び終えているから、あとはお弁当などを並べるだけだ。暇そうで忙しい時間帯でもある。
今、店内にはお客さんは誰もいない。だからこの隙を狙って品物の補充をしている段階だ。でも丁度その時、一人のお客さんがこのサコマに入ってきた。
「いらっしゃいませー、サイコーマートへようこそ」
そのお客さんは特に私のあいさつに返事をする訳でもなく・・・まあ、幼稚園児のやりとりではないから返事が戻ってくる事はないけど、そのまま雑誌の立ち読みを始めた。
あーあ、また立ち読みに来た奴だなあ・・・だいたい、お金が無いから必要な個所だけを立ち読みで済ませてさっさと帰る奴が多いんだよな。まあ、近くに専門学校や大学、短大・・・私が通っている短大の事だけど、それがあるから、どうしてもそういう奴がいるから個人的には腹が立つ。コンビニ弁当やお菓子を買ってくれる人も多いけど、雑誌は立ち読みする為にコンビニに並べてあるのではない!というのは私の理論だ。決して間違ってないと思う。
さっき入ってきた客の若い男だって手に取って読んでいるのは今日が発売日の週刊少年ジャンボだ。私も中学までは読んでいたけど、最近は読まなくなったなあ。しかも、多分この店の近くに住んでる学生さんだろうけど、サンダルにジャージという、超がつく程ダサい恰好だ。こういうと失礼だけど、強風が吹いてきたら飛ばされそうなくらいに細い男だ。こいつ、財布を持ってるのかなあ。少年ジャンボは買わなくてもいいけど、せめて缶コーヒーくらいは買ってくれればいいのに。
とまあ、その程度にしか私は考えてなく、私はお弁当とおにぎりを並び終えたので、次は雑誌を並べるため、その男の近くに行った。
あれ?・・・
この若い男、どこかで見たような気がする・・・どこで見たんだろう・・・。
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