第9話 199X年夏~恵南短大1年生・萩野目洋子19歳①

 当然だが、あの後、から連絡が来ることはなかったし、私もに連絡する事もなかった。


 3学期が始まった頃には、あの日の出来事を忘れていた。


 そして、私、萩野目洋子は摩周高校を卒業し、それと同時に恵南市に引っ越して一人暮らしを始めた。


 いくつかの短大を受けて、札幌の短大2つと恵南短大の3つに受かった。だけどお父さんもお母さんも「恵南市にはおじさんが住んでるから、何かあった時の事を考えたら恵南の方がいい。それに、下宿にかかる費用も恵南の方が安い」と言って恵南短大を勧めたから、私も最終的に恵南短大を選んだからだ。


…………………………………………………………………………………………………


 恵南短大は女子短大である。

 当然ではあるが摩周の家からは通えないので下宿である。キャンパスから徒歩10分位の所にある住宅地の真ん中にある賃貸アパートの一室を借りて一人暮らしを始めた。ここならおじさんの家にも近いし、学生向けではあるが社会人も住んでいる賃貸アパートでの一人暮らしは結構快適であった。でも、ここから同じキャンパスに通う子は誰もいなくて、学生さんと言っても専門学校に通う子ばかりで繋がりはないからちょっと寂しいな。

 ただ、いつまでもお父さんやお母さんに頼れないから、短大に進学すると同時にアルバイトも始めた。でも、あまり難しい事は出来ないから近くのサコマでバイトしている。それと、外食ばかりではお金がいくらあっても足りないからちゃんと自分でご飯を作る事も始めた。ただ、やっぱり面倒な事は苦手だからいつまでたっても上手くならない。適当に炒めて適当に味付けしてハイお終い、という物ばかりだなあ。

 私は短大に入ってからはキャンパス内では知らない人はいないという位の有名人になった。

 入学早々「今年の短大ナンバー1は確定」とまで呼ばれる存在になり、教授たちの間でも私を知らない人はいない程だ。私の事は同じ敷地内にある恵南大学、こちらは男子もいるが、大学側でも男女問わず評判になっているらしく『恵南キャンパスの女子ナンバー1』『今年のミス恵南キャンパスは萩野目洋子で確定』と呼ばれているっていう話を以前聞いたことがある。

 だから、毎週のように週末になると「合コンをやろう」って声が掛か・・・るけど、私の場合、毎回別の意味で声が掛かっている。


 先週だって・・・はーーー・・・


「おーい、ようこー」

「あー、美奈子じゃあないの、何かあったの?」

「あのさあ、今度の土曜日の夕方以降、空いてる?」

「え?今度の土曜日?バイトは入れてないから空いてるわよ」

「じゃあ、悪いけどさあ、合コンやるから洋子も来てね。もちろん、会費は一次会も二次会も半額でいいからさあ」

「うーん・・・いいよー。で、また今度も私だけのお帰りですか、み・な・こ・さ・ん」

「あー、バレたあ?」

「ったくー。まあ、いつもの事ですけどね」

「だけどさあ、あんたがいないといい男が集まってくれないのよねえ。いっつもいっつも悪いわねえ」

「はー・・・毎回毎回、私がいいなあって思う人はぜーんぶ美奈子や今日子が先に持ち帰っちゃうから、ロクな男が残らないのよねえ。しかも、そういう奴に限って『アレをやりたい!』っていうのが見え見えだから、こっちがお断りよ!」

「まあまあ、そう言わずにさあ。今週は2年生の山瀬さんと森口さんも一緒よ。わたしたちもおおっぴらにやれないから、あんたにもいい男が残るかもよ」

「だけど、そうなるといい男は山瀬さんか森口さんが持って行っちゃうし、残った中から美奈子たちが持って行くんでしょ?結局はいつものパターンよ」

「それもそうだったわね、ハハ、ハハ」


 とまあ、こんな感じでお誘いがあった後、土曜日の夕方からすすきので合コンを男女五人ずつでやったけど・・・終電間近という深夜の電車に乗って一人で帰ってきた。一緒に行った他の女の子4人は二次会が終わる直前に全員いなくなってしまい、最後まで二次会に残ってた男は「俺、今日は帰ります。また機会があったらご一緒させてください」とか言って帰ってしまったヘタレ野郎だった。


 そう、私はいつもだ。毎回毎回エサという訳でもないが、いい男はなかなか釣れない。入学して早々に彼氏持ちになった子もいるし、彼氏欲しさに合コンに精を出す子も結構いる。大学側にも男は結構いるが、大半の男は「誰でもいいから早く彼女が欲しい」とか、私から見たら最低の考えの奴ばかりだから、ロクな男がいない。マジで勘弁してほしいわよ・・・。

 しかも私は見た目が大人しいので先輩や同期の女の子から声を掛けやすいみたくて、数合わせの時もあったけど既に両手では数えきれない位の合コンに参加させられた。もちろん、私を誘う女の子たちは『いい男を見つけて、あわよくば玉の輿』という考えの子がほとんどだから、私をエサにして自分たちが頑張っているのだ。私だって毎回ではないけど直接男の子からも声を掛けられた。だけど煙草のにおいだけは昔から我慢できなかったから、そういう男は無条件でお断りさせてもらったし、どう見ても胡散臭いお誘いも多かったからそれも即お断りさせてもらったわ。

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