第3話 199X年冬~摩周高校3年生・萩野目洋子18歳③
私は再び駅舎のドアをガラガラと開けて待合室に入った。でも、駅長さんはまだ雪かきをやっているみたいね。
あれ?・・・待合室の隅に鞄が置いてあるぞ・・・結構大きな鞄だ。さっきは無かった、いや、あの位置はさっきは見てないから気付かなかっただけなのかも。でも、誰かが駅に入って行くところを見てないぞ!?どこにいるんだ?それとも忘れ物なのかな?
私はもう1回改札口側のドアをガラガラと開けてホームを見た。1番線側には・・・駅長さんしかいないし、もうママさんダンプが無いからもうすぐ終わりだろうな。2番線側には・・・誰もいない・・・いや、あーんなホームの端に誰かいる!なんだありゃあ?三脚にカメラを据え付けて、何を撮っているんだ?汽車はいないのに駅舎だけ撮ってるバカか?それとも旅行雑誌とかのカメラマンか?どっちにせよ、こんな寒い日に撮る物好きも珍しいわね。
あっ!あの人が片付けを始めたぞ。どうせここに来るなら、その物好きな顔を拝んでやろうっと。うーん、寒いのに手際いいなあ。しかも毛布みたいな物で包んでいる。きっといきなり温かい駅舎の中に持ち込んでカメラが結露するのを防ぐ為だ。そう考えるとやっぱりプロなのか?
あれあれ?かなり若いぞ・・・多分、私とそう変わらない位の年齢だ。でも、摩周高校にはこんな男子はいなかったから大学生か社会人なのか?まあ、顔は及第点だし背もそれなりにあるし、どっちかといえば「まあまあいい男の部類」に・・・だー!男の観察にきたんじゃあなーい!!
「おーい、洋子ちゃん、雪かきが終わったから休憩するけど、サツマイモでも食べるかね。そろそろ出来てる筈だぞ」
「あー、ありがとうございます」
「おーい、君もどうかね?体が冷え切っとるから温まるぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」
お、割といい声してるなあ。好感度アップ・・・だー!いい加減に男を観察するのをやめろー!!
駅長さんは私たちを中に案内すると、だるまストーブの上に乗せてあった鍋の蓋を取った。そうしたら辺り一面に美味しそうなサツマイモのにおいが漂ってきた。うーん、いい具合に焼けたみたいだし、まさに食べ頃ね。
「おイモですか・・・」
あれ?この男、何を言ってるんだ?バカじゃあないの?これを見て『おイモ』って言う奴は初めて見たぞ。どこの田舎者だ?マジで指摘してやろうかな?まあ、ちょっと可哀そうだから黙っててやろうっと。
駅長さんはサツマイモを新聞紙で包んで私とその男に渡した後、ヤカンをだるまストーブの上に置いた。
「多分すぐに沸くと思うけど、緑茶でいいかね?」
「いいですよー」
「俺もそれで構いません」
「じゃあ、ちょっと待ってくれ」
そういうと、駅長さんは自分も新聞紙でサツマイモを包むと、皮をむき始めた。
「・・・ところで君は
「内地?そう言えば北海道の人はそう言うんでしたね。ええ、そうですよ。もしかして『おイモ』って言ったから分かったんですか?」
「そうだよ。まあ、かくいうわしも内地の出なので普段は『おイモ』って言うけど、うちの家内は
「へえ、そうだったんですか。俺は
「そうかあ、懐かしいなあ。わしもやった事があるぞー。まあ、こっちで『イモ掘り』と言えば秋にジャガイモを掘り出す事だから『芋づる式』と言ってもピンとこないぞ。因みにわしも生まれは遠州だが親の都合でその後は
「やっぱり、お茶といえば静岡ですよねー」
「そうじゃのお」
あ、危なかった・・・ジャガイモを『おイモ』と呼ぶのは北海道だけだったのかあ!赤っ恥をかくところだった、言わなくて良かったあ。それにしても内地の人だったとは思わなかった。という事は旅行者かな?
作者注①
北海道では、本州や九州、四国の事を「内地」と呼ぶ。
作者注②
静岡県西部の事。昔の国名『
作者注③
愛知県東部の事。昔の国名。
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