第2話 199X年冬~摩周高校3年生・萩野目洋子18歳②
私が幼稚園に入る前にはSL(作者注①)が走ってたけど今は当たり前だが走ってない。最後の日にお爺ちゃん、まあ私が小学生の時に亡くなったけど、そのお爺ちゃんが私とお姉ちゃんを連れて釧路から中摩周の駅まで乗車したらしいがさすがに覚えてない。だけど「さよならSL」のマークを付けたSLの横でお姉ちゃんと一緒に撮った写真はアルバムに残っている。混合列車(作者注②)も幼稚園の頃は走ってたけど今は走ってない。小学生の時には札幌行きの急行列車(作者注③)も廃止になった。貨物の取り扱いも廃止になったから3番線のホームは使われなくなった。中学生の時に信号機が導入されたからタブレット(作者注④)の受け渡しもなくなった。いまでもタブレットの受け渡しに使っていた木柱が残っているけど、いずれ無くなるんだろうな。その国鉄もJRに変わってしまったし、昭和から平成になったら
利用者が少ないから仕方ないのかなあ・・・去年の夏には青春18きっぷ(作者注⑥)のポスターにも採用されてこの駅も賑わったけど、殆どの人は車を利用して湯川温泉駅の写真を撮っていたのは事実だからね。この駅を使って摩周第一中学に通っていたのは3年間で私を含めて八人だけ。摩周高校に通っていたのも3年間で五人、私が最後の一人だ。来年入学する子がいるみたいだけど、まだ決まった訳じゃあないからね。私だって3年生だから3月で摩周高校を卒業する。もしかすると誰も乗らなくなるかも・・・無人化されるのも仕方ないのかなあ・・・。
でも、本音を言えば私は摩周高校へ進学するつもりはなかった。私は・・・東京へ行ってアイドルになりたかった!
だって、私もお姉ちゃんも「摩周随一の美人姉妹」として小学校、中学校では人気者だったのよ。しかも『姉は女優、妹はアイドル』として有名な芸能人姉妹と名前が似ているから、事情を知らない人から『同姓同名なの?』と何度も間違われていたからね。お姉ちゃんもウンザリしていたけど、私たちの苗字は「は・ぎ・の・め」!名前はたしかに姉妹共に漢字も読みもあっちと同じだけど、苗字の漢字はあそこがのぎへんよ。あっちはけものへんだから紛らわしい!あっちが私たちに合わせてくれればよかったのになあ。
だから私は「あっちの姉妹が『はぎのめ』って間違われるくらいのアイドルになってやる!」って決心したのよ!
東京でアイドルになる為には
どこでもいいから芸能事務所や一般公募のオーディションを受けてスカウトされようとして、何度も何度も応募したけど毎回書類選考で落ちた。中学1年の時に一度だけ書類選考をパスして札幌でオーディションを受けた事があったけど、駄目だった。
とうとうお父さんが「中学卒業までにオーディションに受からなかったらアイドルは諦めろ!」と言い出した。お姉ちゃんもお父さんに同じ事を言われて女優になるのを諦めて摩周高校へ進学したのを知っていたから、私も「高校卒業まで待って」とは言えなかった。だからお姉ちゃんの分も頑張ろうと必死になった。だけど、結局私はどこからも声がかからず諦めた・・・。
当然、摩周高校では3年間を通して校内1の美少女と呼ばれてチヤホヤされたけど「私に見合うような男でなければ絶対に付き合わない」とか言って強がって何人もの男子から告白されたにも関わらず断り続けていたら、周りは彼氏とラブラブな子ばかりなのに私だけ取り残されちゃって・・・もうすぐ卒業だっていうのに逆に一人だけ浮いた感じになってしまった。だからと言って一度振った男に「やっぱり付き合って」とは口が裂けても言えなかった・・・。
だから、高校を卒業したら・・・でも、私の学力だと大学は厳しいって言われたから、札幌かその周辺の短大をいくつか受けて、その中で受かった所に行く事にした。そこで今度こそラブラブになってやるって決めたんだ!
とは言うものの、本当に短大も大丈夫かなあ・・・地道に専門学校へ行って資格を得てどこか適当な会社へ入っていい男を見付けてさっさと結婚しても悪くないかも。あー、でも、やっぱり田舎じゃあロクな男がいないから札幌かその周辺がいいなあ・・・い、いかん、こうやって高望みをしていたから彼氏ナシ=年齢になってしまったんだ。少しは妥協して、顔はちょっと劣っても、それなりに背が高くて、私より高学歴で、頭が良くて、炊事洗濯掃除OK男子で、道産子弁丸出しの男じゃあなくて・・・だー!全然妥協になってないぞ!!
ま、まあ、いつまでも外にいると寒いし、まだ3学期が残っているからホントの意味での見納めじゃあないから今日はこの位にしておこう。
作者注①
Steam Locomotive の頭文字。蒸気機関車のこと。
作者注②
1本の列車に客車と貨車の両方を連結する運行形態。ローカル路線においては機関車の車両数や乗務員・駅員数に幹線のようなゆとりがないケースが多く、別個の列車により運行するより1本の列車にまとめた方が合理的な面があり、よく見られた。
作者注③
昭和43年(1968年)10月のダイヤ改正で、
作者注④
鉄道用語。
非自動閉塞方式(人手を介する閉塞方式)で用いられる通行票の役割をするもの。1閉塞区間に1つ(1種)を定めて、これを持たない列車を閉塞区間内に入れないなどとすることで閉塞を実現する。タブレット式、スタフ式(通票式)、票券閉塞式と3種類ある
旧国鉄分割民営化直後は、山陰本線や函館本線の一部などの特急・急行列車が走る幹線でも非自動閉塞方式閉塞区間があった。
JRでは、タブレット式は2012年のJR東日本の只見線を最後になくなり、2018年5月現在、票券閉塞式はJR東海の名松線(松阪駅~ 家城駅間)、スタフ式はJR北海道の札沼線(石狩月形駅 ~新十津川駅)JR東海の名松線(家城駅 ~伊勢奥津駅)JR西日本の越美北線(越前大野駅 ~九頭竜湖駅)のみ。
作者注⑤
釧網本線の標茶駅(標茶町)から分岐し、北方領土を間近に望む
昭和8年(1933年)に一部が開通し昭和12年(1937年)に全線開通したが、平成元年(1989年)4月30日に全線が廃止された。
作者注⑥
旧国鉄の旅客局が増収策の一環として企画し、昭和57年(1982年)3月に「青春18のびのびきっぷ」として発売を開始。昭和58年(1983年)春季発売分から現名称に改称した。春季・夏季・冬季休暇期間を利用期間として発売され、原則として新幹線・特急・急行を除く国鉄(JR旅客鉄道会社)全線の普通列車・快速列車など、運賃のみで乗車できる列車に乗車することができ、年齢制限は無い。青春18きっぷのポスターに釧網本線が採用されたのは過去に4回あるが、実際の駅舎がポスターに登場したのは、平成11年夏(1999年)の
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