第8話「ワルツの時間」

     捌


 ミリオポリス第二十二区ドナウシュタット――ドナウ川沿いの高速道を走行するMSEの装甲車両×三。

 指揮車両内の多数のモニター/次々表示される各種情報――それらを鋭い眼光で見つめるヴィーラント。

 そこに通信。《BVT捜査本部より、MSE指揮車両へ!》緊迫した通信相手=BVT捜査官。《緊急事態発生ダス・イスト・アイン・ノートファル! たった今、電子的捜査により〈ヴァイスシュベルト〉の襲撃計画が判明したっ!》

 ヴィーラント=冷静に問う。「場所はどこだ?」

 BVT捜査官=重苦しく。《第二区レオポルトシュタット、プラーター公園だ》

 モニターの一つが受信されたデータを表示/市内の地図/赤く点滅する襲撃予想地点/端的に述べるヴィーラント。「俺たちがいる近くだな」

 苦虫を噛み潰したような通信相手。《BVTの実行部隊は編成中のため動かせん。予想される敵勢力に、現地警察では歯が立たん。当該地区の封鎖だけで精一杯だ。ただちに急行可能な戦力は――》

「俺たちだけってことだな?」ニヤリとするヴィーラント。

《……その通りだ》憮然とする捜査官。《不本意ながら、ここは諸君ら勤勉なるMSEに、ワニではなくテロリスト退治をしてもらわねばならぬ事態となった。よって諸君らには、ただちに現場へと急行してもらう》

「心配しなくても、」ヴィーラント=事も無げに。「うちの特甲突撃小隊が偶然プラーターでの休暇を満喫してたところでな。今、急いで迎えに行ってる最中だ」

《なんだと?》動揺する通信相手。《なぜ特甲児童がすでに現場に……まさかヴォルフ。貴様、――》

」有無を言わさず。「俺たちMSEの使命は、だったよな?」〝我が意を得たり〟といったヴィーラント――その言葉に、怒りのあまり声を無くす通信相手。

《こ、この件は上層部に報告するからなっ。覚悟しておけっ!》捨て台詞――叩きつけるように通信アウト。

「もう少し言葉を選んだ方がいいわよ、八雲」肩をすくめる摩耶。

「俺たちはあくまでもBVTの命令に従って動いただけだ。こっちで獲物さえ捕まえちまえば、チャラになるさ」

 摩耶=半眼。「それ……もし失敗したら、部隊全員で責任を取らされるってことではなくて?」

「問題ねえよ。うちの悪ガキどもは、この程度で潰れるほどヤワじゃねえからな」

 さも当然のように言ってのけるヴィーラント――摩耶の呟き。「なんだかんだで、あの子たちのこと信頼してるのね?」

「それが俺たちの仕事だからな」ヴィーラント=マイクを握り直す。「都市の監視網に割り込んで、現場周辺の監視カメラ映像をこの車両へ回せ。それとBVTの捜査データを表と裏、両面から再解析しろ。敵の目的と武器を急いで割り出せ!」

 狩りの始まりを告げる狼の遠吠え――各車両の通信官・解析官が一斉に行動を開始。

 回転灯を唸らせ道路を驀進する装甲車の群れ――それらを確認するヴィーラント=真面目な顔で摩耶を振り返る/付け加えるように一言。「あとな。いい加減、成人前の名前で呼ぶなよ」


 奏&鳴――園内の通りを歩く二人。

「もう。鳴がぐずぐずしてるから、二人を見失ったじゃなぁいっ」「ううっ……奏ちゃんだって遊んでた癖に……」

 そこに通信=MSE指揮車両。《こちらヴィーラントだ。聞こえるか、銀風ズィルパー?》

「げっ……」奏=急な副長からの呼び出しに慌てて応答。《え~、こちら銀風ズィルパー。どうかしましたか副長ぉ?》

《緊急事態だ。BVTの捜査により計画された犯罪が判明した。例の〈ヴァイスシュベルト〉の連中だ。襲撃予想地点は第二区のプラーター公園。お前たちは今どこにいる?》

《はぁ――?》目が点になる奏/相手の言葉に理解が追いつかず――〝今そこにいます〟と応えようとしたところに――銃声。

「ちょっとぉ! どうなってるのよ、これぇ!?」

 通路の先/ゲート付近の広場から、白いスキーマスクの一団がわらわらと出現――マスク野郎たちが手に手に銃を構え発砲/雄叫び/訳の分からない絶叫――平和な園内が瞬く間に銃声/悲鳴/怒号が渦巻くパニックと化していた。

《どうした銀風。現状を報告しろ!》副長の怒鳴り声。

《え~。今まさに目の前で、敵が発砲してます》通信しながら目配せ=素早く散開する奏と鳴――互いに建物の影に身を隠す/敵の人数と装備を確認しつつ、さらに通信。

《付近に急行できる部隊はない。お前たちで対処しろ》副長=有無を言わさぬ厳しい口調。

《え、でも鈴鹿は? まさか特甲トッコーなしで対処しろっていうのっ?》奏=思わず悲鳴を上げそうになる――それを遮る副長の指示。《接続官コーラスはすでに配置済みだ。特甲の転送に支障はねえ。俺たちも至急駆けつける。敵に例の〝ティーゲル男〟がいる可能性が高い。油断するなよ》通信アウト=絶句する奏。

 通信を同期して内容を聞いていた鳴=目を丸くする。「え、えっ? 副長さんたち近くにいるの? なんで……なんで?」

「知らないわよぉ、もうっ!」奏=ヒステリー気味に叫ぶ――ひとまず疑問を押しやり眼前の敵に意識を向ける。「折角の休暇が台無しよぉ。こうなったら、アイツらにキッチリ落とし前つけさせてやるんだからぁっ!」ムカムカした気持ちをぶつけるように跳躍――敵に踊りかかりながら、仲間へと無線通信かざぶえ

《響っ! 聞いてたわよね? ワルツの時間ヴァルツァー・シュピールよっ!!》


「――了解です」

 観覧車のゴンドラ内で通信を受け取った響――通信終了と同時にため息。

 メールの予告通り現れた敵――すでに現場へ急行中の副長たち/転送準備が完了済みの接続官コーラス――そして/特甲児童の自分たちがここにいる――考えられる可能性は一つ。

 これは偶然じゃない。――響たちが敵と遭遇するように、最初から仕向けられていた。〝ティーゲル男〟の捜査から外されたMSE/例え敵が現れても、本来なら出撃命令は下されない――しかし、応戦したのなら話は別だ。

 鈴鹿のメール内容=〝急な残業〟〝解析のお仕事〟――副長たちの強引な捜査手法=BVTの捜査記録をハッキングして独自に情報解析――敵の襲撃計画を先んじて入手/予想される襲撃地点に特甲児童を――上層部からの追求を逃れるため、表向きは休暇の体裁をとってその裏をかいた。

〝鈴鹿、あなたもだったんですね!〟頼れる仲間/その小悪魔的所業=敵を欺くにはまず味方から――響たちの駄弁りでボロが出ないよう、あえて詳細は知らせず=副長の差し金――きっと判明した敵の計画によっては、今日の予定そのものが変更になっていた。

 そこまでやるのか――まんまと思惑通りに動かされた間抜けな自分たち/もはや怒りを通り越して、呆れの感情しか湧いてこない――つまり、副長たちは何としても〝ティーゲル男〟を自分たちの手で狩るつもりなんだ/すごいな~(棒)。

 そっちの都合に振り回される、こっちの身にもなれと言いたい――だがあえて今はそれに従う気になった。

 チラリと隣を見る――事態が飲み込めず困惑する静馬/お陰でさっきまでの妙なムードが霧散したゴンゴラ内――正直、一刻も早くこの場から脱することが出来るなら、今はそれでいい。――このまま留まっていると、何だかおかしな気分になってしまいそうだから。

 立ち上がる響――何かを察する静馬=問いかけ。「ひょっとして……これから戦いに行くの?」

「はい」返事もそぞろに窓を開く――勢いよく飛び降りようとして、はたと気づく/とっさにワンピースのお尻を押さえる。「!」

「ご、ごめん――っ」慌てて背を向ける静馬――! !――密かな決意を固めながら、その身を宙へと躍らせた。

「転送を開封」

 手足を包むエメラルドの輝き――瞬く間に機甲化。両腕と一体化した機関銃マシンガン/鋭角的な蒼い特甲姿――サイドテールをなびかせ、そのまま眼下にいる武装犯へと襲来=急降下。

「はあぁぁぁあああぁあ――――っ!」かつて旧ドイツ軍が誇った急降下爆撃機シュトゥーカのサイレンを思わせる叫びを上げ、上空から敵を襲撃――呆けた仕草で空を仰ぐスキーマスク野郎/その間の抜けた顔に爆撃のようなキックが炸裂――脳天直撃/一撃で頭蓋骨+首の骨を粉砕された男が、衝突試験のダミー人形みたいに地面を転がって吹っ飛ぶ。

 近くにいた敵の仲間が慌てて銃を構える/デタラメな乱射――響=バックステップでかわす/お返しに両腕の機関銃を掃射ダダダッ/相手が放った何倍もの弾丸を喰らわせる――血だるまになって崩れるマスク野郎を飛び越え、仲間のもとへと駆けつける。

「二人とも、遅れてすいません」

「おっそぉーい。何やってたのよぉ?」「響ちゃん。どこにいたの……いたの?」

「え~……」静馬と一緒に観覧車に乗っていた――と、馬鹿正直に答えかけてストップ。合流しつつ、思案。「どこって、遊園地の中に決まってるじゃないですか。……それより二人こそ、ショッピング街からよくこの短時間で駆けつけましたね?」

「えっとね……」うろたえる鳴。「急いで飛んで来たのよぉ」奏=すかさずフォロー。

「そんなことより――あの連中、資材の搬送トラックに紛れてやって来たみたいよぉ」背の羽を振るわせる奏――感知能力に優れた仲間の探査情報。

 静馬との会話が頭を過ぎる――祭りの準備で複数の業者や車両が出入りしていた広場/その資材に紛らせて武器を運搬/仮設業者を装い、治安組織の網を掻い潜って侵入した。  

 間違いなく計画的な犯行――でも、敵の目的は何? なんで遊園地なんかを襲撃?

 思考を巡らせているところに無線通信=副長ヴィーラント。

《こちら指揮車両だ。あと数分でそちらに到着する。状況に変化はあるか?》

《こちら銀風ズィルパー。出現した敵集団が一般客を人質に建物一つを占拠。アイツら、蝋人形館に立て篭もるつもりみたいですよぉ?》奏=困惑しつつも状況を報告。

 ゲート前の広場へと集合した三人――その先にある三階建ての白いモダンな建物=アトラクションの一つであるマダム・タッソー蝋人形館。その中に人質と共に篭城したスキーマスクシーマスケ野郎=テロ集団〈ヴァイスシュベルト〉。

 ますます不可解な敵の意図――その答えは意外なところから返ってきた。

 ヴィーラント=緊迫する通信。《気をつけろ。立て篭もった連中はやる気だ。そいつらは都市のど真ん中で自爆テロをやらかすつもりだぞっ》

「自爆テロ――!?」×三――響・奏・鳴の声が見事にハミング。

 予想を遥かに超える敵の犯行目的――摩耶の補足。《ステージの下請け業者が共犯者よ。マスターサーバーの強制権で社内データに侵入した結果、運搬リストからあるものを大量に運び込んだことが判明――ビルの爆破解体にも使われる混合爆薬C4よ。それも遊園地中を火の海にできる量のね。どうやら敵は、よほど派手なお祭りがお好みのようね》

 再び副長。《BVTの特殊処理班も急行しているが、間に合わねえ。連中が爆弾の設置を終える前に、お前たちで制圧しろ。〈ラーゼン突撃シュトゥルム小隊、風のごとく突撃せよアル・シュトゥツム・ヴィント!!》

了解ヤー!」響+奏+鳴――号令と共に一斉に飛び出した。

 敵の目的=遊園地での自爆テロ――未然に阻止できなければそれこそ洒落にならない。

 何よりも――ここには人質の他にもまだ、逃げ遅れた行楽客/園内のスタッフ/停止したアトラクション内に取り残された人々――多くの人間がいる。もし爆弾が爆発したら、そんな罪のない一般人まで確実に犠牲者が出る。

 脳裏に少年の姿が思い浮かぶ――冗談じゃない――そんなことはさせるものかっ!

 響=風のごとき突撃/猛然と蝋人形館の入り口へ疾走――その行く手を阻もうと二階の窓から銃を突き出す武装犯/降り注がれる銃弾――横から飛び出した鳴が盾で弾く/空から奏がニードルで牽制――それら仲間の掩護を背に、振り返ることなく建物へ飛び込む。

 一階チケット売り場を駆け抜ける――展示フロア=『オーストリアの歴史』コーナー/中世的セットに並ぶ歴史的有名人の蝋人形たち――その向うから場違いなスキーマスク野郎が登場。

 とっさに隣のブースへ走り込む/背後でたちまち蜂の巣される神聖ローマ皇帝――あ~あ、修理代とかどうするんだろう? まあいいか、私が払うわけじゃないし。テロリストの仕業だし――そんなことを考えながら、記念撮影用に置かれた豪華な椅子をひょいと持ち上げ、無造作に敵へ投げつけた。

 台風で飛ばされた倒木のように宙を飛ぶ木造椅子/驚くスキーマスク野郎――頭を抱えて横に跳んだところを容赦なく銃撃ダダダ!ダダダ!ダダダ!――蜂の巣にされた皇帝人形よりもさらに無残な穴だらけとなって、その隣に倒れる。

 やり辛い――フロアを進むたび、次々と現れるスキーマスク野郎たち/遭遇する人影が敵なんだか・人形なんだか・それとも連れ去られた人質なのか、いちいち確認しながら戦う羽目に――相手が揃って覆面姿で助かった。でないと間違えて人質や人形を撃っちゃいそう――やたら精巧に作られた某大国の大統領を見ながらしみじみ思う。全く持ってやっかいな場所に篭城してくれた敵に、いっそう怒りが沸いた。

 もう! こっちは急いでるのに――何よりも迅速さが求められる突入作戦/焦る気持ちを抑えて仲間へ無線通信。《奏、鳴。そっちはどうですか?》

《あのねあのね? 二階の窓から飛び込んだら、モーツァルトさんと人質さんたちが一緒にいたから、急いで助けたの》と鳴。

《こっちは三階のセレブホールに立て篭もった敵と交戦中よ。どうやらここがみたいね。てゆーか、二人とも早く助けに来なさいよぉ》と奏。

《一階の敵を制圧したら、すぐに駆けつけますよ》通信しながら館内を走る――『世界の政治家たち』コーナー/チベットの高僧と反アパルトヘイトで有名な南アフリカ大統領/隣に堂々たる体躯のウィーン州知事――その影から突如、男が出現。「う、撃たないでくれっ! 俺は敵じゃないっ――」

 危うく発砲してかけ急停止――おろおろと両手を上げる男/その顔に見覚え――園内で響がぶつかりそうになった作業服の男。「て……点検中にいきなり銃声が聞こえて、怖くて隠れてたんだ。頼むっ、助けてくれよぉ」

 なおも叫ぶ作業服の男=『関係者以外立ち入り禁止ニュル・フュア・ミットアルバイター』と書かれた扉を顎でしゃくる/大きな体を縮込ませながらの悲痛な訴え――どう見てもただの哀れな一般人。

 もう! ビックリさせないでよ――拍子抜けしながら銃口を下げる。

「分かりましたから、叫ばないで下さい。敵が来てしまいます」相手を落ち着かせるよう心がけ、出来るだけ静かに歩み寄る。

「た、助かった」男=心から安心した声――そんなに私が怖かったのか=地味にショック。

「あんた、よく見たらあの時のお嬢さんフロイラインかい?」男=額の汗を作業服の袖で拭いつつ、あらためて響の姿に驚いた様子で呟く。「まさか……お嬢さんが助けに来てくれたのか?」

「そ、そうです。ですから安心して下さい」お嬢さんと連呼され急に気恥ずかしくなる/そんな姿を男がしげしげと眺める。

「驚いたな。特甲児童ってヤツかい? お嬢さんがそうだとは思わなかったな」

 感心した様子の男=一転して親しげな雰囲気に――調子狂うなあ、という思いは顔に出さず。「この辺りの敵は排除済みです。もうすぐレスキュー隊が駆けつけてくれますから、保護を求めて下さい」

 さっさとこの場を離れようとする響――その腕に男がすがりつく。「待ってくれ、置いてかないでくれよっ」

 怯えるように懇願する男――勘弁してよ。こっちはすぐにでも仲間を助けに行きたいのに――思わず相手の腕を振り払いたい衝動に駆られる/我慢して堪える。

「落ち着いて下さい」ていうか、早くしないと仲良く爆弾で吹っ飛ぶことになるかもしれないんだから、邪魔しないでよ。「ここはまだしばらく安全ですから――」男を説得する言葉を考えながら、ふと

 そもそもこの男は、なんで私の前に姿を現した?

〝点検中にいきなり銃声が聞こえて〟――状況もよく分からずに。〝よく見たら〟――相手がテロリストかもしれないのに、ろくに確認もせず。〝撃たないでくれっ〟――それとも、自分は撃たれないと知っていた? テロリストからも自分は撃たれないと知っていたのか?

 ――船を導く灯台の灯りのごとき啓示と共に、違和感の正体に思い至った刹那。

「……治安組織の人間なら、民間人に優しくなければな。なあ、お嬢さんフロイライン?」ふいに男が声を低くする=ゾッとするほど冷たい声音/まるで棺桶から漏れ出すドライアイスの煙のよう――ゾクリと響が身を強張らせた途端――衝撃。

 ! 全ての思考を断ち切られるほどの、凄まじい打撃。

 一瞬で視界がブラックアウト――そのまま壁に激突/がはっ、と息を吐く――だがそのショックで遠のきかけた意識が戻ってくる/必死にそれを繋ぎ止める。

 頭がぐらぐらする――大丈夫、《飾り耳オーア》の抗磁圧が見えないヘルメットを形成してくれたから頭は無事/よろよろと立ち上がり、体の状態を確かめる――ひしゃげてスクラップ同然となった両腕の特甲――唖然。

 驚愕と共に襲ってくる既視感デジャヴュ――つい最近、こんな風に特甲を破壊された記憶が甦る/確信と共に襲い来る戦慄――そこに投げかけられる男の声。

「ほう、仕留めたと思ったが無事か。あのタイミングで致命打を避けるとはな。……伊達に精鋭部隊アインザッツ・コマンドを名乗っている訳ではないらしい」

 通路の先からゆっくり歩いてくる男――破れた作業服/あらわになった腕が禍々しく光を反射/鈍く輝く――たった今、そして数日前にも軽々と特甲を破壊してみせた戦闘用義手ハイエンドアーム

「……

 何が敵じゃないだ、この大法螺吹きめ――怒りを込めた瞳で通路に立つ機械化義手野郎=〝ティーゲル男〟を睨んだ。

 アンカリング効果だ――思考のアンカリング/錨に繋がれたアンカリングされた船が限られた範囲しか動けないように、先入観がアンカーとなり思考を縛る/思い込みが判断を歪ませる。

 お揃いの白いスキーマスク/馬鹿みたいなタイガーマスクティーゲル・マスケ――無意識のうちに覆面を被った相手は敵で、それ以外は敵ではないと思い込まされた。

 危ないところだった――あと少し気づくのが遅れていたら、きっと今の一撃でやられていた――心の中で雑学好きの少年に感謝しつつ、両腕を再転送。

 大胆不敵に正体を現した敵――そのムカつく相手にありったけの弾丸を叩き込んでやる寸前――唐突に男が作業服を脱ぎ捨てる/服の下から現れたもの=レスラーみたいな体を覆う軍用ベスト/それに巻きつけられた――瞠目/思わず息を飲んだ。

「そういうことだ。その腕にくっついたマシンガンで俺を撃ったりしたら、この遊園地ごとドカンといくぜ?」

 凶悪な笑みを浮かべるティーゲル男=その体が沈み込む/巨体からは信じられない速さで距離を詰められる――相手の強烈な右フック/とっさに腕を交差してブロック=直後――どかん!

 再び衝撃=まるで目の前で砲弾が炸裂したかのような破壊力――またも両腕の機甲が砕かれ、あえなく吹っ飛ばされる響――そのままチケット売り場を飛び越え、建物の外へと投げ出された。

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