第4話 スキル
「それにしても高梨さん、交番に来ていただいて助かりました。さすが修正者、いいご判断です。」
ウサギは、私の腕の中で、私を見上げながら話し出した。
警察官たちは、私たちを無視して、黒いボックスを片付けている。
「……ああもう、紗子って呼んでいいよ。それで、あなたは何なの? 色々ありすぎて、事態が全然飲み込めないんだけど。」
途中、気になる呼び名を使われた気がするが、端から突っ込んでいくと話が進まない。そう思った私は、とりあえず、疑問を1つぶつけることにした。
「そうですね。では、まずは自己紹介から。私は、アクアマリン。アクアとお呼びください。修正者のサポートをするために、このサイバー世界ネオニティに生み出されました。」
ウサギは、私の腕の中からするりと抜け出し、空中に浮かびながら、改めてぺこりと頭を下げた。
「というわけで、紗子さん、これからよろしくお願いしますね。」
アクアは、可愛らしく首を傾げてきた。だけど私は、今見えている光景が飲み込めなくて、それどころではなかった。
「えっ? ちょっと、アクア、あなた、身体が浮いてるよ! どういうこと?」
「え? 紗子さんは、飛べないのですか?」
「え?」
アクアは、逆に、不思議そうに聞いてきた。あまりに自然に聞かれたので、あれ、私飛べたっけ? と、うっかり、ぴょんっと試してしまった。そして当然飛べない。
ただ恥ずかしいだけだった。
「いやいや、普通、飛べないから! ちょっと試しちゃったじゃん!」
「そうですか……まだ思い出せないのですね。ところで、紗子さん、手に持っているのは、何ですか?」
赤くなって抗議すると、アクアは、マイペースにそう呟いて、私が握りしめていたスマホに興味を示した。
「え? 別に普通のスマホだけど。あ、でも通信が変かも。SNSに投稿が全然できないの。」
「少し確認させていただいてもいいですか?」
アクアはそう言うと、私のスマホを器用に手で持って、いじりだした。
「ね、壊さないでね。私の生命線なんだから。」
若干、不安になって念を押して覗き込むが、アクアは気にした様子もなく、スマホをいじり回す。
「はいはい、大丈夫ですよ。なるほど、理解しました。なかなかユニークなスキルですね。少しいじれば、本部との通信に利用できるかもしれません。」
アクアは、満足したのか、そう言いながらスマホを返してきた。
「スキル? なんのこと? ただのスマホだったでしょう。」
アクアが言った意味がわからない。先ほどから、わからないことのほうが多いが。
「本当にそうですか? いつも持っているスマホと同じものだと、確信を持てますか?」
いつものスマホだと思うが、そう言われると不安になる。とりあえず、機能を確認してみる。
「だって、電話帳は私の知り合いがちゃんと入ってるし、メールも全部見れるし……アプリも、よく使ってるのは、ほら、ちゃんと立ち上がるもの。」
ひとつひとつ確認していくが、おかしな点は見当たらない。
「あ、でもさっきも言ったけど、SNSが、見られるけど投稿できないの。あと、母親に電話したけど、話せなかったかな。これは、多分、気付いてないだけだから、また後で電話してみようかなって。」
「なるほど。……では、質問を変えますね。今、立っているこの世界は、いつもと同じ世界ですか? おかしいと思う点は無かったですか?」
この世界と言われて、思わず地面をじっと見た。
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