美貌の姫と魔法使い
西桜はるう
美貌の姫と魔法使い
頭蓋骨に響くほど、頭をしたたかに壁に打ち付けられた。
「リトッ…………?」
アズナは頭を撫でながらリトの様子を伺うと、リトは今度は壁にアズナの体をぶつけて固定した。
「どうして」
「へっ?」
「どうして、そんなにも外へ出たがるの?」
ここは、鳥かご部屋。
アズナはここで軟禁生活を送っている。
それは、アズナが幼い頃ここへ連れてこられた時から始まっていた。
アズナは城主の娘だったが、あまりにも美し過ぎるため「誘惑罪」という罪を幼い頃に課せられて、森の悪魔と呼ばれる魔法使い「リト」のもとへと嫁がされた。
アズナは軟禁生活に満足していた。何の不満も持っていなかった。
「リト、あたし、別に外に行きたくないわ。ここでいい」
「じゃあ、どうして窓の外ばっかり見てるの?」
「たまには新鮮な空気が吸いたくて……」
「あんまりわがままいうと、僕以外の姿は見えないように魔法をかけるよ?」
「リト……」
リトの言い分はいつだってアズナにとって理不尽そのものだった。けれど、決してアズナは文句や不平を言わない。それは、自分を育ててくれた恩もあるし、何よりリトのことを好いているからだ。
「リトがそうしたいならそうして。あたしは別にリト以外が見えなくたって文句も言わないし、リトを嫌いになったりしないもの」
アズナがリトの発言を受け入れると、リトはあまり面白くなさそうな顔をして『じゃあやめる』と言うのだ。
「ねえ、リト。あたしはどうしたらいいかしら?リトがしたいようにしてくれていいの」
「そんなこと言ったら、アズナを人形にする魔法をかけるよ?」
「えっ、人形?」
「いやなの?」
「ううん。いやじゃない。してもいいよ」
「はあ、これじゃ僕がわがまま言ってるみたい。やーめた」
そう言ってリトはアズナを壁から解放し、ぷいとそっぽを向いた。
「リト、待って。怒らないで」
「怒ってない。どうしてアズナは僕にそんなに従順なの?」
「どうしてって……、それはたぶん、リトが好きだからよ」
「たぶん、なの?」
リトは不服そうにアズナを見つめた。
「リト、あたしは物心ついた時からリト以外の人間を見たことないの。だから、『好き』という気持ちがよく分からないの。嫌いになる対象もなかったし……。『たぶん』でごめんなさい。リト、そんな顔しないで」
「わかった、わかったよ、アズナ。僕が悪かった。アズナこそ、そんな顔しないで」
鳥かご部屋は今日も楽しげな笑い声が響く。
中を覗けばたちまち誘惑される美貌の姫がいる。
その傍らには、姫の美貌に囚われた魔法使いがいるそうな。
狂気を灯した瞳で見つめあい、今日も二人は笑っている。
美貌の姫と魔法使い 西桜はるう @haruu-n-0905
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