第101話 デウス・エクス・マキナ=プリンス
「……な、何」
「これは……一体……?」
破滅の結末を迎えるその瞬間。
エクスとレヴォルの時間は止まった。
否、止まったのは時間ではなく。
「我、「奇跡ノ救イ」ノ求メニ応ジ、ココニ在リ」
エレナの箱庭の王国に眠っている筈のデウス・マキナ=プリンスが、アネレの『創造』によって本物の神となった彼が、エクスとレヴォルの想像剣を両手で掴んで、二人の動きを止めた。
本来なら誰にも受け止められる事の出来ない無双の一撃、その双刃を止めた事こそが、彼が本物の神である事の存在証明だった。
「……そうか、「奇跡の救い」、それを実現させる存在がいるとしたら、それは機械仕掛けの神以外には有り得ない、だから、神となったマキナ=プリンスを召喚する為の儀式として、二つの想像剣の掛け合わせが必要だったと言う事なんだね」
「結局最後は神頼みか、マキナ=プリンスを改造したアネレには一生頭が上がらないな」
「もしかしたらアネレの存在こそが、この世界にとって唯一救いを齎すものだったのかもしれない、……いや、こうは考えられないか、『グリムノーツ』の真の主役はエレナだった、だからそれを始める責任も終わらせる責任も、彼女の手で行わなければならないと」
「……確かに『調律の巫女』も『渡り鳥』も、どちらも代役を立てる事が出来るし、存在がいなくなっても大きな影響は無い、仮にこの世界を観測によって生まれた空想の世界と仮定するならば、この世界の
エレナ以外の人間には『創造』も『リページ』も使えない。
だからこそエレナは特別な存在であり、そしてエレナだけが『グリムノーツ』を始まりから終わりまでを観測した存在であるのなら、エレナ以外の何者も、この世界の主役になる資格は無い。
そしてモリガンだった頃のエレナの野望、それが「全ての想区の主役になる」事だと明かされている以上、エレナがこの世界の唯一の主役であり、その資格を持っている事は否定出来ないのである。
「思えば今僕達が成そうとしている『災厄』と『渡り鳥』の循環構造、それはもしかしたら『ワイルドの紋章』の持ち主だった頃のエレナが既にやっていた事なのかもしれない、だからこそ、これは変革を起こす革命である前に、彼女からの引き継ぎになると思うんだ」
「エレナがアルケテラーと接続した可能性があるって事か?その思想が反映されて今の世界と『グリムノーツ』の物語が生まれた、その発想は少し飛躍し過ぎてる気もするが」
「そうだったら一番単純だけど、例えば、エレナの事を世界一大事にしている人が、アルケテラーと接続したら、きっとエレナを主役にして、世界をエレナを中心に回るようにすると思うんだ」
「……アンデルセンか、確かに、その可能性から考えると、エレナがこの世界の主役だったという説はかなり真実味があるな」
原初のアンデルセンは存在を抹消され、世には紛い物のアンデルセンのみが残った。
しかしそのエレナとなんの
それがただの記号では無く、大きな意味を持っているのだとしたら。
これまでのエレナとモリガンにまつわる多くの情報を加味して考えた場合に示される答えは一つしかない。
「まさか、消えるモリガンの役割を全て解き放って
ただのエレナに戻した事、それがモリガンから主役を
「でもフィーマンの血筋でも無い彼女が何故『 調律』に連なる改変行為が出来たのか、それが世界に最も愛されていたからだと考えれば辻褄が合うし、その加護が本物なら、レヴォルはきっと、最高の『渡り鳥』になれる筈だ」
「……ああ」
レヴォルは渡り鳥である内に、災厄になる前に、必ずエレナを迎えに行って、そして礼を言おうと胸に誓った。
全てを悟った今ならば、彼女と語る言葉はきっと、千夜を超えても足りない程にあるから、だからきっと、彼女と再会した時こそ、レヴォルの本当の「結末」になるのだろうと思った。
だからエレナから貰ったものの温かさを感じて、誰にも言えない夢と感傷に浸るのであった。
「それじゃあマキナ=プリンス、お願いだ、僕じゃあこの世界を背負いきる事が出来ないから、一緒に背負ってくれないか」
「聞キ届ケヨウ、我、コレヨリ汝ノイマジントシテ、共ニ世界ヲ紡グコトトスル」
マキナ=プリンスの差し出した手をエクスは掴んで、その存在を吸収した。
それによってレヴォルの持つ主役の概念と並び立つ概念である
主役と語り手はどちらも主人公になり得る役割故に、対等な存在だ。
分かりやすく解説すると『良き魔女と王子様の物語』の主役はエレナだが、主人公はレヴォルであり、語り手はアンデルセン。
『渡り鳥』がエクステラーとなる為には、主人公が主役と語り手のどちらかを担う必要がある為に、レヴォルとエクスはそれぞれに並び立つ存在でなくてはならない。
マキナ=プリンスが語り手の概念を持っていたのは、そもそものマキナ=プリンスの生い立ちとして、マキナ=プリンスがフィーマンの想区のストーリーテラーとして生まれた存在だからだ。
本来ストーリーテラーは人々に運命の書を与えたり、想区に語られる物語が不備なく綴られるように、調整する存在。
しかしフィーマンの想区の住民は全員が空白の書の持ち主であり、語るべき物語は存在しない。
だからこそフィーマンの想区を万象大全と共に『創造』したドロテア・フィーマンはストーリーテラーであるマキナ=プリンスを人々の願いを実現させる為の機械仕掛けの神として作ったのである。
「……これで、全部終わりだ、全ての悪夢が終わり、新しい時代の革新が始まる、長い、本当に長い旅だった」
エクスはようやく悲願を達成した事に万感の思いで、自身の旅路を振り返った。
「お疲れ様、本当に、これで終わりなんだな」
胸踊る冒険も、心躍る決闘も、この瞬間に湧き上がる感動も、もうすぐ全てが終わる。
何もかも、二人の胸の内の思い出として、埋もれていくのだ。
「悲しいかい、でも大丈夫だよ、未来はきっと、もっと輝いている筈だから、今度は僕達が紡ぐ世界なんだ、だから悪夢の終わりであり、未来の始まりなんだから」
「そうだな、俺たちの旅は、ここからが本当の始まり、世界を終わらせない為に、二人で頑張ろう」
「それじゃあ改変を始めるよ、改変後の世界をよろしく頼む、僕はエクステラーとして、ずっと見守っているから」
「ああ、少しでもいい世界になるように、頑張るよ、見ていてくれ……!」
「じゃあ、後は頼むよ、……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます