第97話 レヴォル・イノベーション
万象の栞を使って数多の魂と同時に接続する。
本来なら複数の魂と同時に接続する等有り得ないが、同じレヴォルの魂であり、全てを受け入れるワイルドの紋章の持ち主だからこそ、それを成し得る事が出来る。
自分と大して変わらない、相似したレヴォルの魂達と接続する中で、レヴォルは自分という存在を再認識していくが、レヴォルが探しているのは創造主となった器だ。
数多の平行世界の魂を手繰り寄せてみても、その可能性には辿り着けない。
接続する度にレヴォルの自我は薄れていき、目的意識が削ぎ落とされるが、それだけは忘れてたまるかと体に刻み込むように強く命じる。
この世界の創造主には一つのルールがある。
それは造り手として、語り手として優れた存在である事。
故に、既に世に傑作を創出し、名誉を得て、広く知られている人間以外に、創造主になる資格は無い。
例外があるとすれば『フィーマンの血筋』を持つ人間だけ。
それ以外の人間には、創造主として世界を創造する資格は無い。
だから資格の無い人間が創造主となろうとする事は必然的に。
世界の理に背いて『災厄』を受け入れた時のみとなる。
そしてレヴォルの創造主として覚醒した可能性もまた、レヴォルが『災厄』となり、運命という理に背いた世界線の可能性である。
それはプロメテウスと同じ、贖罪の為に輪廻に囚われた魂。
本来のレヴォルと乖離した、裏の属性、別人格の魂である。
その最も業の深い魂である。
深淵の魔物と繋がる為に、レヴォルは無数の平行世界の糸を手繰り寄せて
そして
見つけた。
「……僕を、目覚めさせたのか」
暗い声だった。
暗く、寂しく、そして悲しい。
全てを失った廃人のような悲哀が、今にも泣き出してしまいそうな悲痛さが、彼の声から伝わってきた。
まるで世捨て人のようだと、レヴォルは初め、かの『災厄』をそう評した。
「君は、レヴォルなんだろ、だったら俺に力を貸してくれ、世界を救いたいんだ、だから俺と同化してくれ」
「ふざけるな、僕は、僕はこの世から消えるべき存在なんだっ…、それなのに、なのにどうしてっ」
――――目覚めさせたのか。
それを
プロメテウスやモリガンを知っていたからこそ、その災厄が何か大きな十字架を背負っている事は、その一言だけで想像出来た。
だけど、そんな世界から抹消されるべき存在だとしても、今は必要で、そしてこの役割の果てにはレヴォルの存在も消えるのだ、だから躊躇う事も、
レヴォルはもう一度、災厄に同化を促した。
「この役割を終えれば君も俺も世界から消えて、
`あるべきレヴォル´だけが残る、だから俺に力を貸してくれないか、それは君の願いを叶える筈だ」
「確かにそれで僕の物語は「終わり」を迎えて、僕の存在は消える、だけど、それじゃあ駄目なんだよ」
「…何故だ、それが君の望み何じゃないのか?」
「前提が違う、僕が消したいのは僕の存在その物ではなく僕の「物語」の方だ、そしてそれは君と同化する事で『観測』されて、世界の可能性として残ってしまう、そうなればまた、僕の愚かな終末戦争が始まってしまうんだ……っ」
「……だが、既に君という結果が存在している以上、因果を捻じ曲げて原因を消滅させる事なんて不可能なんじゃないのか?、リページで巻き戻したとしても、それは平行世界に移動して未来を分岐させるだけで原因の消滅にはならない訳だし、既に存在してしまった物は、この世界から抹消する事なんて出来ないんじゃ無いのか?」
「その通りだ、だから僕は、僕の物語が「終わり」になって、主役が入れ替わり魂が「観測」されないようにずっと、眠り続けているんだ」
「……永遠の眠り、そうか眠っている状態ならば「観測」はされず、『無意識』も起きない、だからか」
「僕にはプロメテウスやモリガンのような役割に応じた名前は無いが、だが今の僕に名前を付けるなら
エンディミオンは災厄の創造主という格上の存在である筈なのに、脆弱で哀愁漂う微笑で懇願した。
それだけでその痛ましさが理解出来た。
エンディミオンはレヴォルだから、そう簡単に折れる筈がない。
だから災厄になった事にも理由があって、未来を拒絶する事にもレヴォルにはどうにも出来ない理由がある。
そもそも災厄の創造主という存在自体が英雄の
だからエンディミオンが自分を倒されるべき者、否定されるべき者だと卑下するのも理解出来る。
眠り続ける事が彼の望みだというのならば、レヴォルとしてはそれを妨げない方が、正しい選択になるのだろう。
彼の過酷と悲運を解き放った場合に、それを背負う事になるのもまたレヴォルなのだから。
果たすべきか果たさぬべきか。
どちらを選ぶのが正解かなんて分からないが、ただ、この選択肢にはどちらにも「救い」があって、そして「救われない」ものなのだろうと想像出来た。
仮に同化を拒んだ場合に、レヴォルの世界は滅びるが、エンディミオンの世界は観測されぬままにエンディミオンは眠り続けて滅びから逃れる事が出来るのだろう。
だが同化すればエンディミオンは眠りから覚めてレヴォルに統合されて、エンディミオンの世界が観測されて、エンディミオンという大罪が永遠にこの世に存在し続ける。
エンディミオンという物語がレヴォルにとっての不幸な結末なのだとしたら、それを同化する事でレヴォルが今なそうとしている事も、エンディミオンの因果律に引っ張られて永遠の眠りという結末に引っ張られるかもしれない。
だから、結論から言えば、どちらを選んでも客観的な差はほぼ無い。
あるのはレヴォルの世界を生かすか、エンディミオンの世界を生かすか、そんな主観による違いだけだ。
そしてそれは、`全ての人々を救う´という客観性を持っているレヴォルからすれば、どちらでも同じ事。
強いて言うならばエンディミオンの望む方を選べば、エンディミオンが救われるから一人多く救える、そんな理性で、計算で、どちらを選ぶべきかを考えていた。
(何事も無く接続して終わり、みたいな単純で一本道な展開は無いと思ったが、やはり、何かを選ぶ事を強いられる訳か)
全てが秤の上に乗せられた世界だから、対価と代償を払わねば、何も得られないのだから。
だからエンディミオンと接続する事にも、何かしらの不条理がついてまわるのだろう。
接続とは使えば誰でも英雄になれる便利な道具では無いのだから。
「……エンディミオン」
「何だ」
「どれだけ考えても、答えは分からない、でも、俺は自分の成し遂げたい事があるんだ、だから先ずは、聞かせてくれないか、君の物語を」
「やめておけ、僕の物語は君の可能性の話でもある、聞けばきっと、君も僕と同じになる筈だ、僕は君を、僕と同じ道に巻き込みたくない」
「だろうな、何となくだが、俺にはそれが分かる、君の抱えている絶望が、俺も持っているかもしれない物だとな、でも、君は知らないだろう、人魚姫の物語、マッチ売りの少女の物語、それらに込められた本当の願い、その希望を」
それはレヴォルがもう一人の世捨て人と出会ってそして得られた人生最大の気付き。
そんな貴重な体験をしたレヴォルは恐らく稀だこらこそ、エンディミオンを動かす事が出来る確信があった。
「希望、か、それは確かに必要な物だ、でもね、世界はいつだって悲しみに満ち溢れているんだよ、誰かの幸せが誰かの不幸になる、そんな悲しい世界で、皆が手を繋いで叶えられる希望なんて無いんだ、それはまやかし、夢物語に過ぎないんだよ、だから……」
「……確かに夢を現実にするには俺たちは無力で、何の影響力も持たない理想家に過ぎないが、でも、物語の力で、人々に希望という光を見せる事は出来るだろう」
「……!!」
多くの人と繋がり、そして辿り着いた理想、それは神の頂には届かなかったが、同じレヴォルに理解出来ないはずはない、届かない筈が無かった。
そしてそれは、孤高の存在であるエンディミオンには気づけないものだ。
だからエンディミオンはレヴォルの語る言葉を、かつての自分を懐かしむ様に、その青臭さに希望を見たのだ。
「だから夢を捨てるな希望をまやかしと呼ぶな、それらを俺たちの心から消す事も、世界から取り除く事も出来ないんだから」
「……そうだな、絶望に染まった僕の心にも、希望の芽は残っていると、今気づけた、君は、君なら、僕の絶望だって飲み込めるのかもしれない」
レヴォルの言葉にはエンディミオンを動かす力があった。
神の傀儡として、渡り鳥として、与えられた役割を生きただけの男だったならば、エンディミオンはレヴォルの言葉に説得力を感じる事は無かっただろう。
でもこのレヴォルは誰かの用意した足跡をなぞるような道では無く、自分で選んだ茨の道を歩んだ。
その軌跡は、物語は、他のレヴォルには無いオリジナルであり、オリジナルだからこそ、エンディミオンの心の隙間を埋める事が出来るのである。
「では、聞いてくれるかい、エンディミオンの、この世で最も愚かな男の、罪深き
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