第70話 目覚めるエレナ
「おいハンス、お姫様の救出はどうなった」
「こっちもイマジンが片っ端から焼却されていくせいでもう持たない、四人目が来るまでどれくらいかかりそう?」
突如として横から黒騎士の顔面に素手で殴りかかったハンスに対して、シャルルとルートヴィヒは作戦の首尾を訊ねるが。
「四人目は・・・来ないっ!!、君達こそ恥ずかしくないのか、仮にも創造主ともあろう者がそんな他力本願な思考で!ファンが見たら呆れるぞ!!」
勢いで暴走しているハンスはその臨場感、ライブ感的なノリでシャルルとルートヴィヒを煽りながら素手で黒騎士と殴り合う。
イマジンを無くして身軽になったせいか、その動きは直線的ながらも俊敏になっていた。
「・・・この馬鹿たれがっ!!、何が、ファンが見たら呆れるだ、自分の醜態を棚に上げて吾輩達をこき下ろすとは、流石、自伝を脚色しまくる男は言う事が違う、やつ諸共吾輩の
「これはシャルルの人選ミスでしょ・・・まぁお姫様は解放したみたいだから後は俺が何とかするよ、白雪姫の呪いと同じなら創造主の力で解ける筈だから」
ハンスのその意味不明な発言に激怒し、シャルルも負けじと力を全開にする。
シャルルは限界を超越して必殺技を乱れ撃ちし、創造主としての威厳を遺憾無く見せつけた。
その間にルートヴィヒは空飛ぶトランクによって安全地帯に浮遊しているエレナの呪いを解除しにいく。
超ジャンプから天上に剣を突き刺して、片手でぶら下がる事によって、片手でトランクを開ける。
丁度エレナの頭だけ出るようすると、その顔を引き寄せる。
(ちょっとルートヴィヒさん、エレナちゃんに何をするつもり!?)
(何って、普通にキスするだけだけど、寝てるならノーカンでしょ、人命救助と同じなんだし)
(ダメよ、ルートヴィヒさんのファンの代表としてそんな破廉恥な事認められないわ、そんなことしたらエレナちゃんがルートヴィヒさんのファンに殺されちゃう!!)
(?????、別に誰も見てないから問題無いでしょ)
(いいから!、今は私の忠告を聞いておきなさい、創造主なんだから別にキスしなくても呪いを解く事くらい出来なくは無い筈よね)
(まぁ出来なくは無いけど、でも時間かかるし、一旦下に降りないと、キスすれば一発なんだけどなぁ)
(いいからいいから、女の子へのキスはダメ!NG!!おーけー?)
(・・・ぉけ、もう何でもいいよ訳わかんないし)
アリシアの必死の説得によって、何とかエレナの身の安全は事なきを得た。
ルートヴィヒの唇はレヴォルとは違う。
ただの少女であるエレナが背負うにはあまりにも重い価値を持つのであった。
ルートヴィヒは片手でエレナの体をトランクから出そうとエレナの腕を掴んで引き寄せようとするが。
その時。
素手で殴りあっていたハンスが黒騎士に吹き飛ばされて壁にめり込んだ衝撃でルートヴィヒが掴んでいた剣が天井から抜けた。
そしてルートヴィヒはエレナを掴んだまま落下する。
このままでは地面と衝突し、怪我じゃ済まない大変な事態となるが、ルートヴィヒの脳裏には閃きがあった。
(なるほどね、彼女が白雪姫ならさしずめ俺は棺を運ぶ王子様の家来と言ったところか、やっぱり運命っていうのは決められた役割を果たす事になる訳だ)
「ハンス、受け止めろ!!」
ルートヴィヒは剣を手放してハンスに向かってエレナを放り投げる。
そして自身はその反動で体を動かし天井を蹴って、空中で剣を拾い直しながらその勢いのままに黒騎士に突撃する。
黒騎士を素手で翻弄していた所、シャルルの横槍というにはあまりにも強烈な五月雨式榴弾トレビアンに気を取られ、黒騎士のカウンターを貰って壁にめり込まされたハンスは、戦闘中も常に気にかけていたエレナが、今の衝撃で落下していくのを確認した。
まずい、エレナと自分は黒騎士の一直線上にいる。
このままでは自分を追撃しに来た黒騎士にエレナが踏み潰されてしまうと、すぐ様立ち上がって空飛ぶトランクに救出を命じ、黒騎士の迎撃に向かおうとした所。
ルートヴィヒがハンスが動くより先にエレナをこちらに放り投げながら黒騎士に突撃していった。
エレナがこちらに飛び込んでくる。
(ああ、空から女の子が降ってくる、それってなんて運命的で、特別なプロローグなんだろう・・・)
空の国のお姫様。
そんなタイトルで童話を書いてみたいと自身の創作欲求を十二分に満たすその光景に暫時、見とれていた所。
(・・・あれ、なんか速度がおかしい?)
気づいた時にはもう、ハンスはエレナと顔面で激突していた。
ルートヴィヒが投げたエレナは、その反動で黒騎士に突撃をかませるくらいに剛速球だった。
そしてそれは確信犯的犯行だ。
グリム童話の白雪姫は王子様のキスではなく、家来が棺を倒した衝撃で目覚める。
それを再現する為にルートヴィヒは全力でエレナを放り投げた。
創造主の力を全開で使ったその威力は、ハンスを再び壁にめり込ませる程であり、まさに人間砲弾とでも呼ぶべき破壊力である。
ファムの
ハンスは常人であればペちゃんこにされてしまう程の衝撃を、なんとか自身が全て受け止める事でエレナのダメージを最低限に留める。
ぶつかる瞬間にエレナを自身のオーラで包む事で保護し受け止めて、そして衝撃を全て自分の体をクッションにする事で緩和する。
そのダメージは黒騎士から受けた物と相まって、ファムの最強の防御魔法を貫通し瀕死に至る程ではあったが、ファムが即座に回復してくれたので血の跡は残るものの怪我は無い。
ハンスは未だに衝撃で混乱気味の頭を叩きながら、エレナの安否を確かめた。
「・・・・・・いたた、え、何ここ、え、何か知らない血塗れの男の人に抱き締められてるんだけど、何これ何これ、え、これどういう状況?????」
寝起きのエレナが混乱するのも仕方の無い状況だろう。
エレナが眠っていた期間は約一ヶ月。
その間にレヴォル達は想区二つ分の冒険を乗り越えて、この最終局面に至ったのだから。
そしてエレナは、何故か痛い頭と、何故か血を流している知らない男の人に抱きしめられている状況に、困惑し知恵熱で湯気が出そうな程に目を回した。
「落ち着けエレナ、俺はレヴォルだ、今は創造主の・・・アンデルセンと
レヴォルはハンスに接続しながらエレナに状況を掻い摘んで説明した。
流石に今全てを説明している暇など無い。
レヴォルは簡潔に虹色の導きの栞を渡して、エレナに創造主との接続を行って貰おうとするが。
「エレナ・・・!、君はなんて美しく健気で純粋なんだ!、その美しい顔と美しい声に、僕は運命の神様に感謝したいくらいだ!、もっと僕にその声を聞かせてくれないか・・・!」
眠っていた時は奥手であったハンスだが、目覚めた今となってはそのエレナの魅力に自身の衝動を抑える事は出来なかった。
今が戦闘中である事も忘れてエレナを口説きにかかる。
(おい、いい加減にしろ、今はそんな事やってる場合じゃない、早く四人目の創造主を呼び出さないと・・・)
(僕の邪魔をするな!!、今いい所なんだ、彼女と話すだけで僕の創作意欲は無限に湧いてくる、作家にとって自身の創作の糧を探す事に勝る大事などあるだろうか、いやない、エレナは譲らない、創造主に接続したら彼女の声が聞こえないだろうが!!)
レヴォルの静止も振り切ってハンスはエレナに言い寄る。
エレナは年上の男に淑女として扱われるという余り慣れない経験に照れつつも満更では無かった。
ハンスはエレナの好きな作品や憧れのヒーローなどを聞き出し、好きな作家のタイプを聞き出そうとした所で。
ハンスとエレナの両脇に、二本の丸太が突き刺さる。
いや、丸太ではなくシャルルとルートヴィヒだった。
例の如く、ファムの最強防御魔法の加護により、致命傷に至っていない。
「ハンス、このバカタレが!!、四人目が目覚めたならさっさと創造主と接続させんか!!、遊んでる余裕があるならさっさと黒騎士を倒せこのどあほう!!」
普段から優雅さと気品を重んじるシャルルが泥と埃に塗れた格好で堪忍袋の緒が切れたと言わんばかりにハンスの頭に拳骨を見舞うが、それでもハンスは開き直る。
「やれやれ、どうやらここではゆっくり話す時間も無いようだ、時間稼ぎすら出来ない無様な先輩達の尻拭いで申し訳ないが、エレナ、これを使って接続してくれるかい?」
ハンスは大仰な動作でシャルルとルートヴィヒを煽りながらエレナに虹色の導きの栞を渡す。
横で聞いていたシャルルとルートヴィヒの顔の温度が僅かに上昇するが、それでも茶々を挟む余裕が無い程に切迫しているので口は挟まず見守る。
エレナは渡された栞を自身の運命の書に挟んで接続を行った。
「・・・接続」
四人目の創造主、世界の切り札のお出ましである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます