第33話 魔女の夜明け
少女の住む居城、その玉座の置かれた広間にて、棺に寝かされたエレナを少女は見下ろした。
「さて、貴方はいつ目覚めるかしら、王子様のキスより先に目覚めないと、貴方の王子様は死んじゃうわよ」
エレナは今、生と死の狭間にある境界をさ迷っている。
王子様のキスが無ければ目覚めない仮死常態、しかしもしも自力で目覚めたなら、彼女は覚醒するだろう。
この世界に自分を救ってくれる王様がいると夢見ていられるのはお姫様だけなのだから。
少女は棺に添えられたマーガレットの花を一つ取ると、その花びらを一枚ずつ千切っていく。
彼女の命運はどちらに転ぶだろうか。
無邪気に眠っている彼女を見ていると、かつての夢見る少女だった時分を、自然と思い出してしまう。
初めて彼の体温を感じた日。
初めて彼の事を意識した日。
私の我が儘も、理不尽も、全て受け入れてくれる王子様のような彼の眼差し。
どれだけ自我が磨耗し、記憶が薄れていっても恋する少女であったという証だけは無くならなかった。
どれだけ鮮明に映せても、もう二度と取り戻せない時間の中にしか存在しない感傷。
いっそのこと、この胸に燻る感傷も、世界と共に無くなってしまえばいいと思うのに。
私が自害する事だけは、私のイマジンが許さない。
故に後悔は一生私の心を苛み続ける。
彼の特別になろうと行動していたら。
運命の先を切り開こうとしていたら。
手に入れられなかった時間を求めて、暗闇の虚空に手を伸ばし続ける。
私の抵抗に意味があるのだろうか。
私に幸福の結末は与えられるのか。
自分がどこに向かっているのかも分からずに、どこまでも堕ちていくのだ。
きっと私の願いは報われない。
それを理解しても、立ち止まることは出来なかった。
だって、私の想いは永遠に壊れてくれないのだから。
例え死んでも、灰になっても、彼への想いは決して消えない。
それだけが私の、運命さえも覆す力。
マーガレットの花びらの、最後の一枚をちぎると、腰を上げた。
「夢の終わり、その最後に添えられる物は、どちらの王子様かしらね」
もしも世界の終わりを迎えても。
王子様がそばに居るのであれば。
それはきっと・・・
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