第31話 セルフワンダーランド5

「アリス、大丈夫ですか、アリス!」


 また、時計ウサギちゃんの呼び声で起こされた。

 彼女の透き通るようでいて力強い、甘美で凛とした声は耳元で叫ばれていても心地よい。

 じんわりとした頭痛を引きずりながら、私は体を起こした。


「なんで、そんなに心配そうなの?」


 うつらうつらとはっきりしない頭にひとまず浮かんだ疑問を口にした。

 よく観察してみれば時計ウサギちゃんは眠る直前よりもボロボロになっているような気がする。

 何かあったのだろうか。


「私達はグリフォンの巣の中ならば追っ手は来ないだろうとここに来ましたが、休んでいた所に予定より早くグリフォンが帰ってきたのです、そしてアリスはグリフォンに食べられちゃったのですよ!」


 言われて自分の体がぬるぬるして臭い液体にまみれている事に気がついた。


「時計ウサギちゃんが助けてくれたの?」

「ええ、紙一重でした、なんとか退治して吐き出させました」


 一人でグリフォンを倒せるなんて愛らしい見かけによらず随分と武闘派だ。

 グリフォンに勝つぐらいだから実はカオス化して主役になれる位の素質は持っているのかもしれない。


「ありがとうね、私、また眠っちゃってたみたいで」

「どういたしまして、それよりアリス、何かとても悲しい夢でも見たのですか?」


 言いながら時計ウサギちゃんは私の目から勝手に流れている涙をハンカチで拭ってくれた。


「・・・うん、でも、どれだけ悲しくても夢だから、心配しないで」


 夢の内容は覚えていない、私がどうして泣いているのかはようとしてしれないが、気持ちは不思議と前向きになっている。

 今は頭がスッキリしていて恐れや不安も無いリセットされたような気分だ。


 時計ウサギちゃんはそんな私の様子を不思議そうに見つめてくる。


「アリス・・・?」

「行こう、この夢を終わらせに」

「・・・!?、はい!!」




「・・・来たわね」


 二人はグリフォンの背に乗ってそこに来た。

 この想区の終点、ハートの女王の待つ、玉座の裁判所。

 そこの被告人席に降り立った。

 アリスが来たと知れた途端にそこら中からやってきたトランプ兵達が陪審席を埋め尽くす。


「いつ引っ捕らえられるか待ちわびたけれど、まさか自分から来るなんてね、判決は有罪、処刑よ、この国に混乱をもたらした罪、その命で贖いなさい」


 そう言ってハートの女王は弓を構えた。


「その前に、皆に聞いて貰いたい話があるの」

「聞く耳無用、先ずは贖罪なさい」


 問答無用とハートの女王は矢を放つ。


「アリス!!」


 時計ウサギちゃんが私を庇うが、ハートの女王の放った矢は別の誰かに放たれた矢によって打ち落とされる。


「なんのつもりかしら、まさかアリスの味方になるというの、チェシャ猫」

「ニシシシシ、僕は誰の味方でもないよ、ただ物事が面白くなるように助長するだけ、アリスの面白い話を聴衆は聞きたがっているよ」


 チェシャ猫の参戦によって会場が沸いた。


「だったらあなたも処刑リストに加え入れるだけよ、この世界には秩序が必要なの、あなた達のように混沌と刹那的な快楽を求める無秩序なやり方では、夢のように消え果てるだけなのだから、私は女王として、この世界を残す義務を果たさなくてはならないの!」


 ハートの女王は次々とチェシャ猫に矢を放つが、それを意も介さずにかわしてチェシャ猫はハートの女王の前に立った。


「ふーん、それで本当に世界は救われるのかな?」

「救われるわ、秩序なくして平和は訪れないのだから、あなたもアリスも、この国にとっては余分な異分子なのよ!」

「アリスのいない不思議の国、そんなものを本気で実現しようというのかい?」

「勘違いしないで、ここはアリスの不思議の国じゃない、よ、だったらアリスも不思議の国の部品パーツに過ぎない、必要ないのよ、この国とって貴様達は!」

「どうやら、言葉では伝わらないみたいだね」


 そう言ってチェシャ猫は女王の前から跳び退く。


「さぁアリス、交渉する前に先ずはこの場を制圧しなくてはいけない、君にこの国の全てを薙ぎ倒す力はあるかい?」


 ワクワクとした表情のチェシャ猫に対して私は言ってやった。


「この私が世界一だと、示すだけでしょ、簡単じゃない」

「あわわ、アリス、たった二人で戦おうなんて無茶にも程があるのですよ、単純な戦力差で見ても無謀過ぎるのです、創造主だって勝てる訳がありません」

「だったら私は、創造主を越える!!」

「え?」

「ニシシ、やっぱり君は僕等の想像なんかよりよっぽどナンセンスな存在だ、君にだったらどんな絶望さえもただのナンセンスに過ぎないのかもしれないね、それなら僕もナンセンス派の先達として助力するよ」

「千対二が千対三になっても大局は変わらないのです、何か策があるのですか?」

「全然!!」

「自信満々に言うことですか!!!」


「ふ、この状況で歯向かうなんてやはりお子様ね、格の違いを見せてあげる、来いッ、ジャバウォック、レイヴン、グリフォン、ユニコーン」


 女王の号令に応じて強大な幻獣達が顕現する。

最強の竜ジャバウォック、巨大な鴉レイヴン、亜種である瑠璃色のグリフォン、しなやかで強靭な体躯のユニコーン。

 一人を相手にするでも四人で戦う必要のある相手を四体同時に相手などできる筈もないが、だめ押しとばかりにハートの女王は更に号令を掛けた。


「ハッタ、三月ウサギ、眠りネズミ、代用ウミガメ、召喚サモン!」


「はぁ・・・めんどくさ」


 沈んだ顔で代用ウミガメがのろのろした足取りでやって来る。


「ちょっと!なんで代用ウミガメしかこないの、マッドティークラブの面々はどうしたのよ!」


 ハートの女王のその問いに伝令のトランプ兵が答えた。


「それがその、「今日は俺より特別な奴に会いに行くハイパー特別記念日うぇい」と断られてしまいました」

「ムッキー!あいつら女王である私を何だと思っているのよ、処刑してやるわ処刑!」


「ニシシ、まさかあんなデカブツまで相手になるなんてね」

「どどど、どうしましょう、こんなの、どうやったって倒せる訳ありません」

「まぁまぁ、時計ウサギちゃん、落ち着いて」

「はぐぅ、これは・・・飴?」

「大丈夫だよ、何があっても時計ウサギちゃんの事は私が守るから、だから時計ウサギちゃん、私を守って!」




「っ、分かりました、アリスの事は、私の全てに代えても守ります、だからアリス、どうか一秒でも長く、私より長生きしてください」

「今更そんな口説き文句は必要無いよ、死ぬ時は絶対一緒だから!」

「・・・はい!!、来ました!、戦闘開始オープン・コンバット、展開してください!、囲まれますよ」


 それは寂しがり屋のウサギの最大限の譲歩だったのか、臆病者のウサギの精一杯の強がりだったのか分からないが、時計ウサギのその言葉で、これまで一緒に寄り添い戦ってきた二人の絆は、そこで一つの完成形を迎えた。


 先ずは取り囲む無数のトランプ兵に向かって突っ込む。

 互いに背中を補い合うように連携する二人の姿はまるで一つの生き物のように完成されていた。

 無論トランプ兵をどれだけ蹴散らした所で大局に影響はないが。

 ジャバウォックのような巨竜とトランプ兵が連携できる訳もない。

 トランプ兵が巻き込まれるのを恐れてハートの女王はジャバウォック達に命令を出しあぐねている。

 トランプ兵は数が多くても所詮はトランプ。

 大した戦力ではないので簡単に蹴散らせる。

 目まぐるしく蠢く前後左右のトランプ兵達に特攻をかましながら意識を集中的に加速させていく。

 次第に、思考の余分を削ぎ落として研ぎ澄ませるように、戦闘に対する勝利の方程式を閃かせるような機械的な反応に身を委ねるが如く洗練されていった。


 このままでは形成不利とハートの女王は建て直しを図るために号令をかける。


「トランプ達、一旦引いてジャバウォック達に任せなさい」

「「了解」」


「いけないアリス、トランプ兵がいなくなってはジャバウォック達に蹂躙されます、なんとかしないと!」

「包囲の崩れた今がチャンス、必殺技を使って一気にハートの女王の所まで行くよ!」


 この戦い、敵を全滅させなくてもハートの女王さえ落とせば勝ちである。

 ジャバウォック達と無理に戦う必要もない。


「なるほどね、最初から玉を取りに行けば他のどんな強力な駒も後手になる、実に合理的な判断だ、だったらそんな面倒しなくても僕がもっと面白くしてあげるよ」


 チェシャ猫は作戦を先読みして瞬間移動すると、ハートの女王の側に移動した。


「ちょ、貴様何を・・・」


「ニシシ、これで条件は五分だ、後は二人で存分に楽しんでね」


 チェシャ猫はハートの女王を玉座からアリス達のいる地上に引きずり出すとそのまま消えて行った。


「ちぃい、これではジャバウォック達を使役できない!」

そこに更なる闖入者。


「さぁ~て、今日は俺より特別な奴に会いに行くハイパー特別記念日、俺より特別な奴はどこかなぁ?」

「アハハ、こんな楽しそうなカーニバル、あたしらがいなきゃ始まんないよね!」

「Zzz・・・あれ、ここどこ?」


「・・・!、来たわねマッドティークラブ!力を貸しなさい」


「おれっち達、楽しい事は死ぬまでやるけど、めんどい事は死んでもやらない主義なんで!」

「そうそう、折角不思議の国の全住民が集まっているんだし、ここは燻ってたこれまでの分も、まとめて挽回するくらいに暴れないと!」

「おやすみ、Zzz・・・」


「あなた達いいい!この私に逆らうなんていい度胸しているわ!処刑、処刑、全員処刑!処刑祭りよ!」


 ハートの女王はハッタ達に向け無数の矢を放ち続けるが、怒りで照準が外れている為か全く当たらない。


「もういい、こうなったら・・・お前達!こいつらまとめて蹂躙しなさい!!」


 怒りの頂点に達したハートの女王はやけくそにそんな命令をいい放った。


「グオオオオオオオオ」


 ここまで大人しく待機していた獣達は、ようやくの解放に打ち震えるが如く、咆哮し襲いかかる。


「アリス、来ますよ!」

「時計ウサギちゃん、時を速くして!」

「了解、オープンクロック・フルアクセル!」


 時計ウサギの必殺技を使用することで二人は加速する。

 一瞬で視界から消えた為にジャバウォックの突進は虚空を突き抜けそのままの勢いで壁に衝突した。

 その衝撃で天井が揺れる。


「ユニコーンが来ます!」

「跳んで!」


 横槍を突くようなユニコーンの突進を魔法で強化された跳躍力で上空に跳んで避ける。


 空中に舞う二人に息もつかせぬ追撃。


「いけません、グリフォンとレイヴンが来ましたどうしましょう!」

「気合!!」

「気合じゃどうにもなりません、もう終わりです、南無三!!」


「気合!気合!超、気合!今の私には、根性、入ってるんだからあああああああああああ」

「アリスの体が光った・・・?」


 突然の目眩ましにグリフォンとレイヴンは一瞬怯んだ。

 そしてその場にいた全員がアリスに視線を向けた。

 その隙をハッタと三月ウサギは見逃さなかった。


「お楽しみはこれからだ・・・Lets,danceing!みんな踊れー!」

「ハッタもやる気マンハッタンだね、ファンタスティックビーストだね!」


 ハッターは天井を埋め尽くす程に大量の注射器をその場の全員に向けて浴びせる。


「こんな物量・・・規格外です、アリス!」


 回避するのは不可能と判断し、時計ウサギはアリスを庇った。


 ハッタの放った必殺技はアリスを除く全ての者に容赦なく降り注ぐ。


「グガッ、ゴアアアアアア!」


 ジャバウォック達巨獣は完全に混乱し、尻尾を振って駆け回りながら踊り出した。


「アハハ、ジャバウォックがシャブウォックになってる、おかしー」

「俺っちの必殺技、決まったぜ・・・シャブだけに」


 周りが完全に混沌としている中にあっても、二人は最初から「狂っている」為か、注射なしでも大して変わらない。


「あなた達ぃ・・・やってくれたわね」


 注射により混乱しながらも、かろうじて理性を保ちながらハートの女王は尚も抗おうとするが。


「ーーーーーーーー!」

「ーーーーーーーー!」


 最早喧騒と無秩序が支配するこの場においてハートの女王一人の抵抗など、なんの意味もなさなかった。

 状況に取り残された疎外感が、かつて感じた痛みを思い出させてしまう。


「くうう、悔しくなんかない、悲しくなんか・・・」


 注射により暴走した感情を抑えきれなくなったハートの女王はとうとう理性を維持できずに、内に溜め込んだ思いを決壊させた。


「ううう・・・バカバカバカー!、アリスのバカ!勝手にいなくなるなんて、うう、絶対許さないんだからぁー!」


 子供のように素直に、ハートの女王は自分の感情を表した。


 だが喧騒の中にあっては、誰も彼女のその本音に気づくことができない。

 ・・・ただ一人を除いて。


「ニシシ、やっぱりハートの女王もアリスが大好きなんじゃん、全く、最初から素直になればいいものを」


「うわあああああああん、死にたくない、消えたくない、ずっとここにいたい、うわあああああああん」

「時計ウサギちゃん!?」


 大量の注射を背に浴びて、感情を有頂天まで昂らせた時計ウサギもまた、理性が制御不能になっていた。

 私は、まるで赤ん坊のように泣きじゃくる時計ウサギの頭を抱きしめながら、「大丈夫、大丈夫だよ」と優しく撫でた。

 なぜ泣いているのかは分からないけれど、今までずっと私を引率し、お姉さんのように導いてくれた時計ウサギの幼気な泣き顔を見ていると、胸がいっぱいになるほどに痛ましい。

 不意に何度か見せた憂いを帯びた横顔は、きっと彼女が抱えている孤独な悩みを示唆していたのだろう。

 そんな彼女の不意に吐き出した慟哭を私の小さな胸では受け止めるのに役不足かもしれないけれど、それでも体は勝手に時計ウサギを受け入れた。



「ニシシ、さてアリス、この状況で君は何が出来る?何がしたいんだい?」


 ハッタの作り出した騒動により、混沌はここに極まり、誰にもアリスの言葉は届かないだろう。

 近くにいるチェシャ猫の声ですら聞き取りづらい現状だ。

 だけど、やることは最初から決まっている、だからここに来て揺れる事は何一つない。

 今の私は今までの私と違うスーパーな私なのだから。


「私は、私の言葉でみんなにぶつかっていくだけ、正面から衝突するだけだよ」

「こりゃたまげた、この人数を相手に正面からなんて、君は本気で創造主になるつもりかい?」

「違うよ、今の私ならそれが出来る、そんな確信を持っているだけ、だから・・・」


 私は全力で息を吸い込んだ。


「私の言葉を聞いてええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」


 それは空間を埋め尽くし、世界を塗り替えるようないななき。

 から与えられた夢の時間の名残。

 その場を圧倒する「特別」の存在証明。

 その威圧感に、その場の全員がアリスを刮目するが・・・。


「ーーーーーーーー!」

「ーーーーーーーー!」


 薬の効果を帳消しにするほどの効果はなく、誰もが直ぐに気持ちを昂らせて混沌が訪れる。

 もう一度叫んだとしても、結果は変わらないだろう。


「ニシシ、どうやら君はこの山場を乗り越えるには役不足みたいだね」

「・・・でも、私は諦めない、声が届かないならもっと大きな声で皆の心を掴まえるだけ」

「そんな事をしても君の喉が潰れるだけで何の意味もない、いくら君が主役だといっても、特別な何かを持っている訳じゃないのだから、分不相応な行為は破滅を招くだけだ」


 特別な、何か。

 そうだ、主役である以上は己を象徴する何かを持たなければ、誰にも見向きもされない。

 だけど、私の特別とはなんだろう。


 アリス。

 アリスにとっての特別。

 そもそもアリスとは一体。


 理想の少女の象徴。

 不思議の冒険者。

 全ての少女の憧れ。


 でもそんな言葉が果たして私に相応しい称号なのだろうか。


 特別、トクベツ。


 私にとってのトクベツとはそんな形容詞で表されるものではないはずだ。


 私が目指すもの、私が望むもの。


 今、私の中にあって、私を突き動かす衝動とは。


 もやもやとした疑念が私の中で膨らむ。


 そうだ私の中にははっきりとしたアリスの記憶がある。


 でもそれは私がアリスであるならば知らないはずの、「アリスには無い記憶」。


 アリスが理想のアリスを目指すのはおかしな事だ、何故ならアリスは、生まれた瞬間からアリスで、理想を体現しているのだから。


 つまり私はメタアリス。


 アリスを演じ、アリスになりきる事でこの世界のアリスの在り方を問いかける存在という事。


 アリスとはなんなのか。


 それをこの場に知らしめる事こそが、私の果たすべき役割なのだ。





「うぅ・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・」


 うわ言で謝罪を続ける時計ウサギちゃん。

 その涙を私はもう見ていられない。


 ーーーできる?


 ーーー任せて。





「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー♪」




 それは船乗りを誘う海の歌。

 風のように澄んだ声で、笛のように響き渡る魔性の歌。

 どんな歌詞で、なんの言葉かは分からずとも。

 その声に、その旋律に、惹かれないものはいない、いたとしたならば、音を聞き取れない者だけだろう。

 故郷の海を思い起こさせるような、自らの運命を慰めるような、どこか切なく哀愁漂う旋律は、聞く者の心を掴んで離さない。

 の玲瓏たる歌声は会場に響き渡り、その歌は猛り狂うその場の熱気を優しく、鎮撫するように冷ましていく。



「くうう、イカすぜ、俺っち、こんなにエキサイティングなビートを刻まれたのは生まれて初めてかもしれない・・・」

「あれ、ハッタ、もしかして泣いてる?」

「たぶん俺っち、生まれて初めて正気に狂っちまったのかもしれない」

「・・・しょうがないよ、人は真に美しいものの前では嘘はつけないもん、ハッタは今、最高にハイな感動してるんだもん、眠りネズミが真顔で聞き入ってる位だから、ハッタが正気になるのも仕方ないよ」

「・・・・・・やっぱり眠い」


 常時薬物中毒状態のマッドティークラブを大人しくさせる程の効果だ。

 一時的に注射を打たれただけの時計ウサギやハートの女王、ジャバウォックやトランプ兵を沈静化させるのは容易かった。


「驚いた、まさか君がこんな特技を持っているなんてね、アリス、君は何者なんだい?」


「・・・少なくとも今は、ただの少女アリスだよ」

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