第19話 創造主ジルドレ

 ノインの放った斬撃とクラリスの放った闘気がぶつかる。

 ノインの命を削って放ったまさしく全身全霊の一撃は、一時はクラリスの闘気と拮抗するが。


「互角、いや、徐々にノインの力が弱まって来ている・・・っ」


 カオス・アリスもカイも、自身の魔法で相手の動きを止めるのに精一杯で、赤ずきんに至ってはまだ充填チャージが終わっていない為に動けない。


 万事休す、かと思ったその時。


「くらえ、陰険ババァ!」


 突如現れた謎の少年パックの放った矢がクラリスを掠める。


「!?、貴方は・・・」


「今だ、やれええええええええ!」


「うわあああああああああああああ!」


 パックの作った隙をノインは逃さなかった。

 最後の一太刀、それに残す力の全てを注ぎ込んで斬撃を放つ。

 ピキッ。

 脆弱な魂の器がひび割れるのを感じたが、なんとか全力を絞り出せた。


「しっ、しまった」


 ノインの作り出した斬撃はクラリスの力の奔流を切り裂き、クラリスまで届くが。


「・・・効きませんね」


 ほとんど相殺されていた為にダメージを与えることはできない。

 だが。


「今だ赤ずきん、やれええええええええ!」


充填完了フルチャージ、ターゲットロロックオン、みんな燃やしちゃうだから、がおおおおおおおおおおおお!」


 長時間かけて魔力を練り込んだ赤ずきんのフル・バースト。

 それは炎の渦を巻くジャイロ回転で一直線にクラリスへと飛んでいく。


「・・・私の拳に、打ち砕けない物はない」


 クラリスは敢えてかわさずに正面から受けた。

 絶対的な力量差を見せつけて相手を屈服させることこそが一番穏便な交渉法だったから。


 ズドォン。


 赤ずきんの放った全力全開のフル・バースト。

 それすらも拳一つで粉砕してしまうが。


「・・・くっ」


「冷たいコップに熱湯を注ぐと割れるよな・・・熱膨張って知ってるか?」


 カイにコネクトした理由、それは凍えで敵の動きを止めると見せかけて、熱膨張による温度差で一気にダメージを与える作戦。

 ましてや今回は絶対零度の吹雪と、灼熱の火炎弾による合わせ技である。

 鉄壁の装甲をもつガラハッドの鎧すらも破壊するようなこの必殺技、生身で耐えきれる筈がないだろう。


「・・・む、無念」


 クラリスは拳を焦がしながら崩れ落ちた。


「・・・先に進ませてもらうぞ」


 倒れたノインを背負いながらそう言うと、歩き出そうとするが。


 カツンカツン。

 大きな足音が響き渡る。


「大丈夫かい、クラリス、まさか君が負けるなんてね、でももう大丈夫、ここは私に任せて休みなさい」

「・・・ジルドレ・・・様」


 この城の主にして、想区の王、ジルドレ。

 圧倒的な存在感だ、早くエレナと合流しなくてはいけないが、彼を無視して通る道は無いだろう。


「さて、どうしたものか、私としては争う気等ないのだけど、大切な従者を傷つけられて黙っているのは主としての沽券にかかわるだろう」


 ジルドレは残念だ、と言わんばかりに悲痛な表情で頭を抱えるそぶりを見せる。

 その道化じみた仕草にレヴォルは、不気味な不快感を感じるが、立ち止まるわけにはいかない。

 遠慮なくかかってこい、そう宣戦布告しようとしたらパックが吠えた。



「黙れこの変態強欲虐待ジジィ!どれだけ取り繕っても、お前が倒錯した変態殺人鬼だって事実は変わらねぇんだよ!年貢の納め時だ、返せ!」


「・・・この想区におけるトリックスター的な役割なんだろうけれど、このガキちょっと滅茶苦茶過ぎないか?」

「・・・まぁ、おかげで助かってる部分もあるからなんとも」

「なんにせよ、やるべき事は変わらないっ!」


「見せてやろう、創造主すらも超越する私の力を、世界を圧倒する唯一無二の正義ちからを」


 ジルドレの体を強大な オーラが包み込む。


「先ずは小手調べだ、行け、我がイマジンたるジャンヌ、そしてプレラーティよ!」


 ジルドレが手を翳すと二人の少女が現れる。


 一人はフランスの伝説的英雄にして、救国の聖女たるジャンヌ・ダルク。

 もう一人は晩年のジルドレの相棒パートナーであり、詐欺師である、伝説的錬金術師プレラーティ。


「神の名の下に、我が戦友ともの為に戦いましょう」

黄金郷エルドラドに至る日まで、我が同胞ともの為に戦いましょう」


 ジャンヌは槍を、プレラーティは魔導書を構えた。


「!?、ジャンヌとプレラーティ、まるで同じ顔じゃないか・・・!」

「・・・一説ではプレラーティが気にいられた理由の一つはジャンヌによく似た美少年だったからとも言われてるわね」

「それよりやべえぞ、あの二人を召喚できるってことは創造主を越えるっていうのはハッタリじゃねぇ、その気になれば軍隊規模の兵士だって召喚できちまうって事だぞ!」

「・・・そんな心配も、先ずはあの二人を倒してからだ」

「全力でいくわよ!」

「「「接続コネクト!」」」


 三人はそれぞれ、白雪姫(サマー)、カオス・グレーテル、桃太郎(先代)に接続した。


「・・・呪われし黄金の秘宝をこの手に、ワルプルギスの夜に謳え、血の夜会サバトをここに、ジャンヌ!」

「言われなくとも・・・っ!」


 プレラーティの錬金術で鎧と槍を黄金に換えたジャンヌが突進する。

 鈍重な槍盾の重量ではあり得ない程の俊敏な動きからして、敏捷力も強化されているようだ。


「させぬっ!」


 ガツン!


 ジャンヌの槍は桃太郎の盾を貫通したが、歴戦の英雄たる桃太郎は間一髪でこれをかわす。


「捕まえたでござる、はあああああああああああ」


 桃太郎は自らの闘気を燃え上がらせて、周囲の空気を灼熱に燃焼させた。


「金は最も安定した金属だが、熱伝導が高く、溶けやすい、このまま溶かし尽くしてやるでござる!」


「焼きりんごになっちゃえ!」

「たーんと召し上がれ!」


 桃太郎に続き、白雪姫、カオス・グレーテルも必殺技を放つ。


 桃太郎の熱風に、白雪姫の太陽光、そしてカオス・グレーテルの背後を狙った火矢。

 上下左右そして頭上からの熱攻撃、生身で食らえば黒焦げになってもおかしくない熱量であり、黄金の鎧は赤く染まっていた。


「猿知恵で私を倒せるとでもっ!」


 ジャンヌは灼熱地獄を意にも介さず、そのまま桃太郎をつき倒す。


「クソッ、だめか・・・っ」

「生身じゃなくて想像体イマジンだから効いてないわね・・・」

「それにプレラーティの魔法、攻撃だけでなく防御もあがってるみたいで、全くダメージを受けてないぞ・・・」

「だったら先に狙うべきは・・・」


 再びカオス・グレーテルは矢を放った。


「ふん、どこを狙っているの」


 矢は一直線上に立つジャンヌとプレラーティの頭上を大きく逸れていく。


「・・・たーんと、召し上がれ・・・♪」


 カオス・グレーテルの放った矢はジャンヌと、プレラーティの背後でお菓子の家へと変化して、お菓子の家から無数の矢がジャンヌとプレラーティの背後めがけて放たれる。


「「きゃああああああああああああ」」


 囀ずるように甘美な悲鳴を上げて、プレラーティは消滅し、ジャンヌは倒れた。


「成敗・・・ッ!」


 死にぞこなったジャンヌに、桃太郎がトドメをさして、ジャンヌもまた消滅した。


「・・・初見殺しとはいえ、とても凶悪な一撃だったね、本当に、戦場いくさばの住人はやることが卑劣で野蛮だ、騎士道精神の欠片もない」


 ジルドレは不快感を露にすると、襟を正す。


「私が手ずから裁きを与えよう、神明の刻だ、断罪の審判を始めよう」

「お待ち下さいジルドレ様、貴方の御身にもしもの事があれば・・・」

「止めてくれるなクラリス、悪逆王と貶められた私の誇りを取り戻す為には、せいぎを示すしかないのだ」


「・・・正義とは勝者が決めるもの、道徳や倫理で言うところの正義なんて、所詮は空虚な紛い物でしか無いということか」


 思えばレヴォル達の旅も、調律の巫女達の旅も、その中身は痛快たる英雄活劇であり、戦いの連続だった。

 一度足りとも、平和的な交渉で想区を解決した試しはない。

 故に、この期に及んで戦いを否定する事、避けることは、出来ない運命なのだろう。


「物語はドラゴンだという伝承を聞いた事はあるだろうか?竜は語られるだけの存在であり、実在はしない、だが人類の歴史の黎明期における古典から、今日に至るまでの創作物で、語られ続ける確かな存在だ」

「・・・?、何をするつもりだ!」


 神々しい程に鮮烈だったジルドレのオーラが、禍々しく変化していく。


「永遠に語り継がれる物語とは、竜の尾のように果てなく伸び続ける葦のような物だ、故に私は竜となった、滅びの運命を超越し、未来永劫まで生き続けるために」


 終わりの無い物語。

 それが、ジルドレの正体であり、この想区の真実。

 ここは、青髭の想区でも、ジルドレの想区でもない、ただの蛇足の二次創作の想区。

 一人の少女が夢見た、ジルドレが生き続ける理想の世界だ。


「馬鹿な、ジルドレの体が竜に変化していくだと・・・」

「・・・囚われの姫の前に立ちはだかるのに、これ以上の配役はいないか」

「しかし何の為にジルドレは生き続けているんだ・・・」

「ジルドレは悪徳貴族だ、富と名誉を手にいれた人間が次に欲しがるのは永遠の命って相場が決まっている」


 ティムは戦闘前に余計な事を考えないように、そう言ったが、果たして本当にそうだろうか?

 この世の奇跡と地獄を目の当たりにし、極上の贅沢と悪逆の限りを尽くした男に、未練なんて存在するのだろうか。

 レヴォルは一瞬だけその疑問を意識した。


「来るがいい、血に汚れた旅人達よ、君達の正すべき物語せいぎを、悪役として打ちのめしてやろう」


 ジルドレは全長十メートルを越える巨大な竜へと変貌していた。

 その巨大な影にレヴォル達はもれなく埋もれる。

 ジルドレが巨大化したことによりいつしか部屋の形も天井の高い広い部屋へと作りかわる。


「・・・っ、やるしかいか」


 竜は巨大な存在であり、その質量から繰り出される攻撃は全てが必殺の威力だ。

 故に一撃たりとも受けるわけにはいかない。

 なのでレヴォルは予知能力を持つマーリン、ティムは絶対防御を持つゴリアテ、そしてアリシアは最強の大魔女、ユリーシャに接続した。

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