第18話 創造主ジルドレ

「!、遅いぞレヴォル」


「すまない、それで何の用だ?」


 慌てたようなティムの剣幕に気圧されながら、レヴォルは姿勢を正した。


「オチビが消えた、大方トイレに行って道に迷ったんだろうけれど、急いで探さないと」


「・・・確かに、事件の可能性もあるしな」


 きな臭い匂いを感じてレヴォル達はエレナの捜索を始める。


「・・・随分と道に詳しくなったな」


「実はさっきまで探索していた」


 複雑に張り巡らされた廊下道をすいすいと掻き分けて進んでいく。

 しかし、同時に感じる違和感。



「・・・すまない、迷ってしまったようだ」


 正確に以前通った道順を辿っていた筈なのに、来たことの無い場所に来てしまった。


「やはりそうか・・・」

「・・・?」

「この城は生きている、時として殺人を執行し、また時として侵入者を閉じ込める迷路としての役割を持ってな」

「!?・・・なんだと、それじゃあ一体どうすれば」

「押し通るしか、ないでしょうっ!接続コネクト


 アリシアはシューターの中でも希少であり、圧倒的な火力を持つ大砲のヒーロー、美女ラ・ベルにコネクトした。


「障害なんて、ないのよぉおおおおおおお」


 完全充填フルチャージされた 大砲の一撃で城の壁が吹き飛ばされる。


「・・・乱暴だな」

「急げ、壁が修復し始めてる」


 自動で粘土のような組織がみるみるうちに穿たれた穴を塞ごうとするのを見れば確かにこの城は生き物なのだと得心する。


「エレナー!、どこだー!」


 壁に穴を空けるなんて事をしでかした後である、最早なりふり構わず声をあげた。

 風通しの少し良くなった城内に声は響くが返事はない。

 どれだけ探しても人の気配は見つからなかった。


「まさか・・・エレナが狙われているのか?」


 エレナの危険を悟り、自信に向けた怒りで顔が強張る。


「夜分遅くに騒ぐのは感心しませんね、何かご用件でも?」


 侍従長のクラリスが、正面から対峙してくる。


「エレナを返してもらおう」


 啖呵を切るような無礼さで、単切にレヴォルはいい放った。


「・・・それは少々お待ち頂きますか、今、と面会中ですので」


「・・・ジルドレがオチビに何の用だ?」

「いえ、ジルドレ様ではございません、でございます」


 ついさっき対峙したレヴォルも含めて全員が一人の少女を思い浮かべる。

 創造主にも劣らない圧倒的な力を持った彼女、一体エレナに何の用だろうか。


「だとしても黙って見過ごすわけにはいかないわね、押し通る!接続コネクト!」


 アリシアに続き、レヴォルとティムも、それぞれヒーローに接続した。


「全く、私は、混沌たる存在ではないから、悪役ヴィランをけしかける事も出来ないというのに・・・」


 本職では無いとうそぶくも、好戦的に構えを取る。


「ですがに仇なす敵は、この拳で粉砕させてもらいましょう」


 当初からただ者ではない圧力プレッシャーを放ってはいたが、闘志を剥き出しにした今とあってはその存在感は無言でレヴォル達を震え上がらせる程に強烈だ。


 しかし長く見合っている暇はない。

 レヴォルは接続できるヒーローの中でも最高の火力と機動力を持つピノキオに接続し直すと、そのまま小手調べと言わんばかりに正面から突撃をかました。


「これが、ボクの必殺技!スーパーロケット・・・パァァァァァァァァァンチ!!」


 完全なる間合いの外、十メートル以上離れた位置から放たれたその拳は、射出と同時に加速し、音速を越える速度と圧倒的な破壊力を持つ、反則級の一撃。

 並大抵の相手であれば反撃すら出来ないほどの必殺性能。

 機械仕掛けの体を持つピノキオの特性を生かした常勝無敗にして天下無双の必殺技である。


 だが、それはあくまでヒーローの中での話。

 数多の英雄達を沈めたその拳も、遥かな年月に研鑽された達人の、神域に至る拳法には遠く及ばない。


 ピノキオの右拳とクラリスの右拳がかち合う。


 パコォオオン。


 小気味良い音を響かせて、クラリスの拳が、ピノキオの拳を粉砕した。


 傍目には何が起こったのか分からないだろう。

 クラリスは達人の域まで至る人間だけが使える後の後、つまりでピノキオの拳を見てから右拳を素早く後ろに引いて威力を吸収し、勢いを殺したその右拳に全力の一撃を放ったのである。


「ぬるい拳ですね、少し、沈んでて貰えますか」


 クラリスは闘気を右拳に集中させると、拳を突き出し放出した。


 いかずちを纏った極太の闘気の奔流が、レヴォル達を飲み込もうとする。


「くっ、持ってくれよ、俺のガラハッド・・・」


 その圧倒的な暴力の渦をガラハッドに接続したティムが受け止めようと立ちはだかる。

 ガラハッドは、全ヒーローの中でも唯一、盾をメインにして戦う英雄。

 その強堅さは、折り紙つきだが。


 バリバリバリバリバリバリバリバリー!


 金属の鎧を電流は容易く貫通し、盾と鎧には傷ひとつついていないものの、本体であるガラハッドは麻痺してしまった。


「クソッ、体が・・・、動かねぇっ!」


 ティムは一度レジストハンマーΣを使ってパーティーに絶縁耐性を付与する事を思い付くが、動きの遅い槌盾ハンマーでは、接近戦インファイトの戦いについていけないと思い思案する。

その結果・・・。


「氷付けにしてあげる、その魂まで・・・っ」


 氷属性を持つヒーロー、カイ、彼の氷魔法で相手の動きを鈍らせるのがティムの作戦。

 それに加えて。


「僕が凍えを付与するから、レヴォルはカオス・アリス、アリシアは大砲の赤ずきんに接続して!」


 ティムの接続したカイの指示にしたがってレヴォルとアリシア直ぐに接続しているヒーローを切り替えた。


「・・・だるい、さっさと終わらせて」


 レヴォルの接続したヒーロー、カオス・アリスは全ヒーローで一番の面倒くさがり屋、そんな彼女の持つ特性として、する事ができる。


「悪い狼さんは、燃やしちゃうんだから!」


 アリシアの接続したヒーローは大砲の赤ずきん、この場においてはもっと火力のでるヒーローがいるはずだけれど、赤ずきんを選んだのには理由がある。


「赤ずきんはフルチャージして、僕とカオス・アリスで前衛するから」

「わかったよー!」

「・・・めんどい」


「策を弄した所で無駄なことです、力の前にひれ伏しなさい」


 再び雷の奔流がレヴォル達を襲うが今度は痺れる事はなかった。

 それが、レジストハンマーΣの持つスキル、絶縁パーティーの効果である。


「とてつもない威力だけど、ガードしてれば関係ないよね、永遠とわに眠れ・・・フォーエバー・アイスエイジ!」


 空気を凍結させる猛吹雪がクラリスを襲うが。


「ぬるい闘気です、こんなもの、そよ風に過ぎません」


 クラリスは闘気を纏うことで、その吹雪による凍えを無効化した。


「・・・かったるいから、さっさと降参して」


 カオス・アリスの必殺技、『ブレイク・ザ・タイム・オブ・アリス《わたしだけのせかい》』

 カオス・アリスは未来の破壊者。

 故に時間の流れを歪曲し、時を遅くする事ができる。

 未来に無限の希望を持ち 、希望を与え、希望の象徴であった少女アリスの抱えた絶望から生まれた混沌カオスだけに、その力は世の理さえもねじ曲げる程に強力だ。

 だが、


「小細工で、私を止められるとでも?」


 動きは遅くなっているが、時空の歪みによる圧力のダメージは全く受けていないようで涼しい顔でクラリスは三発目を構えた。


「次は手加減無しで撃たせてもらいます、死なない程度に抵抗してみてください」


 これまでとは格段に違うクラリスから放たれる殺気。

 そもそも土台からして原付とジェットエンジン位には力の出力が違う。

 そんな相手の全力なんて、レヴォル達に受け止められる術があるはずがなかった。


「神罰神拳零式、裁きのーーーーー鉄拳」


 竜巻、津波、洪水。

 人が抗えない、どうしようもない、そんな圧倒的な蹂躙のイメージだけが思い浮かぶくらい、無慈悲な一撃だ。

 カオス・アリスの力で時を遅くしている為に幾ばくかの猶予があるが、その絶対的な暴力を逃れるだけの時間も、手段も存在しない。


 せめてもの抵抗にと、赤ずきんがチャージした一撃を放とうとするが。


「・・・ノイン?」


 ノインが三人の前にたった。

 目に見えて圧倒的な暴力。

 無力を嘲笑うかのような桁違いの力の塊。

 諦めるしかないと、全ての希望を打ち砕くその絶対的な力の前に。

 ノインの瞳だけが生きた光を宿していた。


「レヴォル、負けるのは仕方ないよ、だって僕らは強くない、そんな運命の持ち主じゃないから、でも・・・」


 ノインは構えた。

 その後ろ姿に、一人の英雄の勇姿が重なる。


「諦めちゃだめだ、だって僕らは英雄じゃないけど、彼らの運命を背負っているんだから」


 コネクトしたヒーロー、出会ってきたヒーロー、調律、再編されて消されてしまったカオス・ヒーロー達の想い。

 それらを現実として知るのは、空白の書の持ち主であるレヴォル達だけ。

 レヴォル達が力に屈し、諦めてしまうのは、彼らへの冒涜に他ならない。


「・・・だから、負けられないんだ!」


 ノインの体に闘気が集まる。

 それはクラリスに比べれば小さな光だけど、強い光だった。

 ノインは斬撃を放った。

一、二、三、四、五、六、七、八、九、十・・・。


「まだまだ・・・っ!」


 それでも足りないとノインは限界を超えて剣を降り続ける。


 ズキンズキンと。

 自身の記憶の底を刺激されてるのか、さっきから頭が割れそうなくらい痛い。

 そして、さっきから風車の如く振り続けてる腕も、筋肉が限界を迎え、次第に千切れていってる。

いつの間にか傷口が開いたのか一閃毎に血潮が飛び散る。

 耐え難い苦痛だった。

 クラリスの一撃を受け止めた方が楽だったかもしれない。

 だけど・・・っ。




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